見出し画像

 生成AIスペシャリストのスキル習得と事業開発テーマ

 人間と会話するように言葉を理解して、わからない事を質問すれば回答してくれる生成AIは2023年から急速に普及していることは周知の通り。AIは投資額が増えるほど性能が向上していくが、海外で発表されている複数の統計によると、2023年に大手のIT企業が生成AIに投資をした金額は106億ドルとなり、2028年までには518億ドルに達すると予測されている。

Linux Foundationが世界の大企業を対象に行った調査でも、経営者の9割以上は生成AIの導入を「重要課題」と考えており、積極的な投資を行っていくことを表明している。2023年には、ChatGPTの活用を社内でスタートさせた後、AIのカスタマイズ→独自AIの開発というフェーズで、社内の業務改革と製品開発に活用することを検討している。



2023 Open Source Generative AI Survey Report(Linux Foundation)

現状では、生成AI利用の8割はテキストの出力だが、それ以外でも、画像、音楽、音声のコンテンツを生成するAIも登場してきており、それらを活用したビジネスチャンスは広がっている。生成AIに共通するのは、AIに対してプログラム言語ではなく、テキスト文で指示を出せることだが、性能を最大限に引き出すには、プログラムの構造を理解していることと、目的とする分野(例:マーケティング、会計など)の専門知識が必要になる。

これは「プロンプトエンジニアリング(Prompt Engineering)」という新分野のスキルとして注目されている。優れた出力ができるプロンプト文がコンテンツとしての価値を持ち始めており、一般的な用途で使えるプロンプトについては、有料で販売できるマーケットプレイスが海外では複数登場してきている。

「PromptBase」は、ChatGPTの他に、画像生成AIの「Midjourney」や「Stable Diffusion」などで即利用できる目的別のプロンプトが販売されている世界最大規模のマーケットプレイスで、10万点以上が出品されている。画像生成の用途ではサンプルとして掲載されている画像作品のプロンプトを購入すると、同じイメージの人物や風景画像に、任意の条件項目を加えてカスタマイズをした画像生成ができるようになる。書籍や雑誌の出版社、ビデオゲーム会社、Tシャツの販売会社などは、それらの画像を自社製品の中で活用しはじめている。

■PromptBase
https://promptbase.com/

それらのプロンプトは、1つあたりが10ドル前後で販売されているため、出品者がマーケットプレイス上の収入だけで生計を立てていくことは難しいが、プロンプト制作の腕を磨き、評価と実績を高めることによりプロンプトエンジニアとしての職を得られるチャンスがある。

米国では、ChatGPTプロンプトエンジニアとしての仕事が、平均年収で6~8万ドル、時給単価では35ドル前後で求人募集されている。具体的な仕事例では、顧客サポート業務の中にChatGPTを組み込み、社内でデータベース化されている問い合わせやクレームの記録から、適切な回答文を引き出せるチャットシステムの運用が任されている。

企業が生成AIを導入していくには、プロンプトを自由に扱える人材が不可欠となり、これから需要が伸びていく仕事の筆頭に挙げられる。そこに向けては、プロンプトエンジニアの人材育成も有望事業になる。また、中小の事業者にとっても、生成AIを活用することで効率化できる作業は多数あり、そのアイデアが新たな顧客開拓や売上向上に繋がりはじめている。


【プロンプト人材の育成市場】

 日本でもChatGPTの優れたプロンプトを入手できるマーケットプレイスは登場してきている。株式会社エキスパートが運営する「生成AIプロンプト研究所」には、ブログ記事の作成、YouTube動画のテキスト要約、セールスレター作成、自己紹介などカテゴリー別のChatGPT用プロンプト600種類以上が公開されている。

たとえば、「ブログ記事の効果的な書き換えをするプロンプト」では、自分が書いたラフな原稿をプロンプトフォームの「書き換え前の文章欄」に入力して生成ボタンを押すと、ChatGPT用のプロンプト文が出力される。それをコピーしてChatGPTのチャットボックスに貼り付けると、ブログ記事として最適化された文章が自動生成される。

■ブログ記事の効果的な書き換え方法プロンプト
https://exp-p.com/prompt/2203

また、「トラブルに対する法的対応策の提案プロンプト」は、トラブルの内容(例:ゴミが不法投棄されている)と、トラブルが発生している地域(例:東京新宿区)を入力して生成されたプロンプトをChatGPTに貼り付けると、該当地域の法令に基づいた罰則の詳細や、対応策が整理されたレポートが自動生成される。

■トラブルに対する法的対応策の提案プロンプト
https://exp-p.com/prompt/3541

これらのプロンプトは、一般ユーザーから投稿され無料公開されている。投稿者は自分が作成したプロントを公開することで、利用者からのコメントを把握して更にレベルの高いプロント制作に励むことができる。生成AIプロンプト研究所では、プロンプトエンジニア認定制度の創設を模索しており、公式テキストと問題集を2024年3月から発売している。

■生成AIプロンプトエンジニア検定 公式テキスト&問題集
https://amzn.to/3Tg6viZ

プロンプトエンジニアの認定制度については、国内で複数の民間団体が設立されて検定試験が行われようになっている。プロンプトエンジニアリングは新しい分野のスキルであり、ChatGPTを導入する企業でも、どのような担当人材を採用すれば良いのか決めかねている段階だが、プロンプトエンジニアリングの認定資格を取得することが、プロ人材への道筋として出来つつある。

ただし、プロンプトに関するスキルはAIの進化によってもニーズが変わってくる可能性があり、プロンプトエンジニアが長期的に稼げる仕事として定着する保証は今のところ無い。それでも、AIを自由に操れるスペシャリストはスキルの形を変えながらも需要が高まっていくことは間違いない。

JNEWS LETTER 2024.3.18より一部抜粋 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?