新参のカモの投資法 -その2: IRに問い合わせるにあたって心掛けていること-

 IRへの問い合わせはかなり巧拙が出る非常に属人性の高い技術であると思っている。今回は僕がIR、ないしは業界専門家に問い合わせる際に心がけているポイントについて記述する。 (注: 筆者はIRの他、ビザスクなどのExpert Network Serviceを利用したり、LinkedInで見つけてきた業界の専門家への聞き取り調査をよく行っている)


インタビューの目的は究極的には「ファクト」または「ロジック」を入手すること

 そもそも前提として、IRへの問い合わせに限らずインタビューの目的は究極的には「ファクト」または「ロジック」を入手することの2つに収斂される。そのため、事前準備において自分が今気になっているのはファクトなのかロジックなのか、そしてそれはIRに問い合わせることが最も理想的な情報入手の方法なのかを考えることは必要不可欠である。
 そして当然ながら、質問者は常にインタビュー中の問いはファクトまたはロジックどちらに属するかを概念的に理解しながらインタビューを実施するべきである。これは当たり前かつ単純なようだが実際にインタビュー中に常にこの意識を保ちながら聞き取り調査を実施することは極めて難しく、熟練の古参の投資家であってもこの部分に苦戦する先輩方を複数名知っている。

「ファクト」を入手する

 また、問い合わせに関しては事前準備の質が99%である。インタビューのアウトプットの質はほぼ質問の質によって決定されると認識するべきである。予習に知恵を投入し、知りたいことが可能な限り細かく分解され、かつファクトで回答できる質問を作り込んでおき、原則として「インタビューイーが考えたら負け」と思うべきである。
 具体例を挙げると、サプライヤとの単価交渉の余地があるかどうかを検証するために専門家に問い合わせる際に、未熟な質問者は「サプライヤと単価交渉をする余地はあるのか?その理由な何か?」といった短絡的な問いをしがちである。これに対してより「過去に単価交渉をやったことがあるのか?」「過去1年で何件の交渉を行ったのか?」「あればその結果、下がったのか?」「サプライヤは値下げ要求に対してどのような回答をしたのか?」「交渉をしていないのは、社の方針としてしない方針などがあるのか?」などといったファクトを収取するための質問をすると、より具体的、かつ次の行動につながる回答を得られやすい。これがインタビューは準備で決まると言われる所以である。

 特にロジックは回答者の主観になりがちであり、情報の質が劣化しやすいことには留意が必要である。上記の例であれば「供給不足であるためサプライヤと値下げ交渉をできない」というのはこの状態では回答者の意見に過ぎずファクトとは言えないが、「過去に値下げ交渉をしたら10件中10件、値下げできなかった」「交渉した結果、サプライヤは供給不足であるため値下げができないと回答した」というのはファクトである。一見、微妙な違いに見えるかもしれないが、事実か意見かの違いはそれを基にした分析の信頼度に大きく影響を与えることを認識するべきである。そのため、ロジックを入手するときも基本動作として複数の方法でファクトを収取するべきである。

 また、ファクトを入手することが目的の場合は、原則としてクローズドクエスチョンを用いるべきであり、回答者はYes/No、AまたはB、 X、Y、Zで列挙する形式での回答を促すべきである。再三になるが、「回答者が考えたら負け」と思うべきであり、クローズドクエスチョンにすることでその可能性を大きく減らすことができる。ただし実際にインタビューにおいては、クローズドクエスチョンだと回答者が圧迫的に感じることが多いため、コミュニケーションには工夫が必要となる。

「ロジック」を入手する

 一方で、ロジックは何らかの事象の因果関係を説明したものである。実務の世界では因果関係は程度問題であるため、より回答者の主観に基づいて回答されることに留意するべきである。
 つまりAという要因に対し、Bという結果が導出される一つの因果関係が成り立つ一方で、同じAという要因に対して別の因果関係によりBとは対立するCという結果が生じる場合がある。このとき、Aという要因に対して、Bという結果あるいはCという別の結果が生じるかは、A→B、またはA→Cの因果関係の強さによって決まる。因果関係は程度問題であるのはこのためである。

 同じ要因に対して異なる結果が見られた場合には、Aという要因とBまたはCという結果の間にある中間的な因果関係の解明をすることで、どちらの異なる結果が導出される理由の理解ができる。つまり、AとBまたはCの因果の間にあるA→b→BとまたはA→c→Cという因果関係の理解に努めるべきである。
 例えばSOHOの経営者に小型プリンタを購入するかと質問した時に、ある回答者は購入すると答え、別の回答者は購入しないと答えたとする。このとき成立している因果関係は、小型→購入する、または小型→購入しない、となり「小型プリンタである」という要因に対して異なる結果が導かれる。この因果をより詳細に解明した結果、前者は小型→省スペース→購入する、後者は小型→低速度→購入しない、という因果関係が成立していることが分かれば、その同じ要因に対して異なる結果が導出される理由が理解できる。

 IRのへの問い合わせの場合は職位を選ぶことが難しいが、一般的には職位の高い人物に対してはロジックを、低い人物に対してはファクトを収集することが効率的である。

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