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小説-<蛇の星>

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ポストアポカリプス小説<蛇の星>にまつわるものを置いています。すべて同一の世界観です。(完結済)
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〈蛇の星〉-1

〈蛇の星〉-1

[2017/8/27 改稿しました]

-1-

 男は瓦礫を越えた。そして路地に入った。〈タケトミビル〉の裏手の錆びたドアを開けて、それを後ろ手に閉めた。発電機のスイッチを入れる。灯りはつかなかった。男は替えの電球の調達を忘れたことに気づき、舌打ちをしながら手探りでろうそくを見つけ出すと、それにマッチで火を付けた。給餌を待ちながら立ち尽くす〈アンテナびと〉たちの悲しげな顔の群れと、彼らの脳天から

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〈蛇の星〉-2

〈蛇の星〉-2

〈蛇の星〉-1

-2-

〈廃物街〉は〈洗浄〉の産んだ数少ない副産物のうちの一つである。かつては数百万の人口を養っていた高度循環型都市は〈洗浄〉の余波によってそのシステムを崩壊させ、再利用されることのなくなった各種廃棄物は街路に溢れ出し、結果として広大なスラムを形成した。崩壊したシステムは計画を無視してガラクタを生産し続け、それを取り込んだスラムはまた新たなゴミを生み出し続ける。ゴミで成り立つ〈

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〈蛇の星〉-3

〈蛇の星〉-3

〈蛇の星〉-2

-3-〈蛙〉とエリックは〈廃物街〉のはずれにある堤防の上を歩いていた。夕日を受けて海は見渡すかぎり暗い虹色に濁っていた。薄暗い空の下、中空になった流木の枝を〈蛙〉が吹き鳴らす不安定な笛の音が、青く輝くガラス片の蓄積した砂浜にこだまする。辺りには、口元を薄汚い不織布で覆った海女達の、日も暮れるというのに延々と腐敗物の間でウェットスーツに身を包んで潮干狩りを続ける姿と、周辺の住民が網

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〈蛇の星〉-4

〈蛇の星〉-4

〈蛇の星〉-3

-4-「船長。いや今は〈先生〉でしたかね。まあ、私は船長と呼ばせて貰いますよ。私にとってあなたは、いつまで経っても船長なんですから」

 エリックは後ろ手に縛られた状態で、〈宇宙カルト〉本部にあるルークの私室に立っていた。
 部屋の片隅にはビニールパイプに貫かれたままの〈蛙〉の死体があった。エリックは極力そちらの方を見ないようにしていたが、どうしても意識せざるを得なかった。
〈宇

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〈蛇の星〉-5

〈蛇の星〉-5

〈蛇の星〉-4

-5- ビニールパイプが全身に刺さったままの〈蛙〉は、ルークに向けて言った。

「ハハハハハ。逃げられたな、逃げられたな、ハハハハハ。ああ、ざまあないなあ」
「まさかとは思ったが、私の次にコンタクトしたのがエリック船長だったとはな。〈蛇〉も節操がないことだ」
「ああ、お前は期待外れだったよ、本当に。ご苦労様でした。彼で正解だ。やっと見つかったよ」
「お前ら、何を企んでいる?」

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〈蛇の星〉-6

〈蛇の星〉-6

〈蛇の星〉-5

-6-「〈ミュータント狩り〉! 〈ミュータント狩り〉! 〈ミュータント狩り〉! 報酬缶詰! 缶詰! 報酬は缶詰!」

〈六人の正気団〉からの依頼を受け、廃電線を腰に巻き付けた〈ターザン男A〉がそう大声で叫びながら錆びた鉄塔の先端から飛び降りた。はためく毛髪と長い髭に取り囲まれた荒い顔、そして腰ミノしか身に着けていない半裸のその姿はまさに誇り高き野生人そのものであった。

「参加者

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〈蛇の星〉-7

〈蛇の星〉-7

〈蛇の星〉-6

-7- デミイシは〈墜落地点〉周辺のゴミ壁からぼろぼろの不織布のシートを引き出すとそれを引き裂いて三等分し、エリックと〈蛙〉に一枚ずつ渡してから言った。

「おれの先輩言ってたここ〈墜落地点〉悪な空気プンプンらしいなんか悪いらしいお前らこれ顔にしとけおれもしとく」

 エリックと〈蛙〉ははそれに従い、しかめ面をしながらも腐った不織布を顔に巻いた。エリックは辺りを見回す。そこかしこ

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〈蛇の星〉-8

〈蛇の星〉-8

〈蛇の星〉-7

-8- アームストロング号の残骸の周辺には、枯死して石灰化した〈人柱〉で出来た灰色の肉の林が出来ていた。〈人柱〉の死骸同士を結ぶ死んだ触腕を切り払いながら、エリックらは前に進んだ。
 アームストロング号に近づくにつれて、デミイシの言う〈悪い空気〉はだんだんとその濃さを増しつつあった。エリックは〈蛙〉にそれを伝えたが、彼は口笛一つ返しただけで、一切構わずに残骸をよじ登り始めた。
 

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〈蛇の星〉-9  〈終〉

〈蛇の星〉-9  〈終〉

〈蛇の星〉-8

-9- 朝が来た。陽の光に照らされて、〈八番目の理想郷〉はどこも真っ白に輝いていた。水路を流れる水は透き通っていた。清浄な空気は冷たく香っていた。
 エキシは今年で六歳になる。今日はエキシら〈第十八番学校〉三期生の、待ちに待った〈卒業の日〉だった。
〈第十八番学校〉の講堂には、みな同じように髪の毛を剃り上げた百五十人の子供達が並んで座っていた。壇上の〈校長〉が言った。

「みなさ

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スケッチ - 赤いボタン

スケッチ - 赤いボタン

 駅と駅の間で止まったままになっているこの古い高架モノレールの窓からは、朝日に輝く緑青の海が見えていた。昨晩の焚き火跡は落書きだらけの車内にまだ焦げ臭く香っており、陽の光は車内に長い影を作っていた。照明は切れていた。単に電球が切れているのか、それとも何かが故障してしまっているのかは、カアスにはわからなかった。彼は赤紫色の薄い綿の座席に腰を深く座り直すと、がたつく窓を開けた。潮風が車内の空気と彼の短

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