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(ニンジャスレイヤー二次創作)ア・ボーイ・アンド・ヒズ・ホース #2

 ソウカイヤ、ラスベガス支部。通称ハイローラーズ。今年で設立から三百年を迎えるこの暗黒ヤクザ組織が、無慈悲で強大なるニンジャ存在によって運営されていることは、ガラスの荒野であるモハビ砂漠に生きるものにとっては公然の秘密である。

 道中、イシモチは道端に晒されたハイローラーズへの反逆者の死骸を一里塚めいて何度も見かけた。その首には罪状の書かれた看板。彼とその馬は、その都度、死骸に群がるミュータントハゲタカを捕えてはその日の糧とした。狂った肉葉を広げるサボテンを啜り、喉を潤した。

 イシモチも、タネフジも、そのような暮らしには慣れていた。リケンドー夫妻に拾われるまでは、お互いにそうやってこの核の落ちた砂漠を生き延びてきたのだ。唯一の違いといえば、かつては生きるために食っていたこと、今は殺すために食っていることであった。

 今彼らは、リケンドー邸の廃墟からかすかに続いている、おぼろげなニンジャソウル反応を追跡していた。それは前方のわびしいサルーンで止まっていた。

 イシモチは手綱を握る手に力を込める。タネフジはそれに応えるように、低く低く鳴いた。

    ◆

「わかってない、わかってないな、店長さん。アンタ、自分がわかっていないってことをわかっていないようだよ。エエ」カウンターに身を預けるテンガロンハットの男が店長に言った。後ろでは取り巻きの男たちがニヤニヤとした笑みを浮かべながら腕組みをして立っていた。

 テンガロンハットの男は続けた。「いいかい。ここはサルーンだ。酒場なんだよ。そうだよな。それでおれたちは──」ここで男は胸元のクロスライフルのエンブレムを見せた。「──ハイローラーズだ。わかるよな?」

「あんたたちが来ると、他の客が寄り付かなくなる」店主は額から汗を流しながら、そう言った。「頼むから、お代はいいから。それを飲んだらとっとと帰ってくれ」

「まあ、まあ、いいじゃねえかよ、マスター=サンよ。ちょっでいいから聞いてくれよ。なあ?」テンガロンハットの男は構わず続けた。「まあ、ほら、なんだ、あのよ。おれたちってのはちょうどこの間、ちょっとした大仕事を終わらせてきたところなんだよな。ちょっと行ったところにあるでっかいお屋敷。知ってるだろ? 知らないやつなんていないよな。でもあの家、ピューリタンだかモルモンだかなんか知らねえが、一滴も酒を置いてやがらねえ。こっちはもう喉がカラカラなんだよ。もうずっと飲めてないんだ。それなのに、おれたちに出す酒は一杯しかねえ、それを飲んだらとっとと帰ってくれってのはさあ──そりゃちょっと冷たいんじゃねえかなあ。なあ」

「な、なんだって……? まさか……」それを聞いて店主は磨いていたグラスを取り落とすと言った。「まさかあんたら、とうとうリケンドーさんまで殺ったっていうのか……!?」

「ああまあ、そうだね」テンガロンハットは何気なく言った。「殺ってきたところだね。一族もろとも。個人的にはずっと気になってはいたね。はは」

「……ハ……ハイローラーズ……このカスどもが……とうとうあの人まで……」店主はうつむくと呟いた。その目には涙が浮かんでいた。「……リケンドーさんはなあ……あの人はな……お前らみたいなチンピラに殺されるべきお人じゃねえんだよ……」

「ア?」テンガロンハットは言った。「え? 何て? 何!? 今なんか言ったよな!?」

「帰れ」店主の手には、カウンターの下から取り出された年代物のソードオフショットガン!「帰れ! いや、違う! そのまま動くな! ポリスが来るまでな。誰一人としてここからは出さねえぞ。もう通報は済んでいる。おれは、おれはお前らのこと、誰一人として許さねえ! 絶対にだ! 絶対に許さねえ! 一人残らず、ブタ箱にブチ込んでやるぞ!」

 銃口の震えているショットガンを見たテンガロンハットの男は目を丸くして、取り巻きを振り返ると大声で言った。「おいお前ら! これを見たかよ! 聞いたかよ!」

 取り巻きの男たちはニヤニヤと笑いながら、腕組みをしたまま頷いた。

 テンガロンハットは言った。「いやあ、痺れるねえ。なんだいあんた、もしかして、あのお屋敷の主人に恩でもあったのかい。あ? あれかい? もしかして、チンチンカモカモってやつかい……奥ゆかしい友情……男同士の……美しいね……ハハハ!」

「ふー、いや、はてさて……ん? あ! そうだ。そういえばよお。あの旦那さん、リケンドーさんだったか? そんな名前だったよなあ?」そして続けて言った。「ははは。あのオッサンさあ、死に際にだらしなく失禁してたこと……あんたに言ってたっけかあ? ああ? 厳しい顔つきで失禁てよ! ありゃ笑えたなあ! ハハハハハ! ハッハハハハハハ!」

 轟音! その瞬間、店主はテンガロンハットの顔面めがけて発砲していた。その瞳は怒りに満ちていた。

 テンガロンハットの男の上半身がカウンターから見えなくなってしまったのは、放たれた散弾で雲散霧消したからではない。超人的素早さで行われたブリッジ回避のためであった。

 上半身を戻したテンガロンハットの男の口元には鉛のメンポ。そして男は挨拶した。「ドーモ。わたしはハイローラーズのラトルスネイクです。さて。あんた今、おれを撃ったな? 撃ったよな? よろしい。それではこれから、正当防衛させていただきます。ドーゾヨロシク! イヤーッ!」

「アバーッ!」強烈なセイケンヅキを腹部に受けた店主は吐瀉物を撒き散らしながら酒棚に叩きつけられた。だが店主は即死してはいない。手加減されているのだ。ラトルスネイクのメンポの下のその細い唇は、そして取り巻きたちの口元は、再び訪れた一方的暴力の機会に、下卑た笑いで歪んでいた。

  ◆

 イシモチがそのサルーンへ足を踏み入れたとき、すでに惨劇は終わっており、そして酒盛りが始まっていた。

 イシモチは崩壊した酒棚に磔にされた店主に目をやる。それはクインシー=サンだった。彼はすでに死んでいた。おお、イシモチはかつてはこのサルーンへ、リケンドー氏の言いつけによりよく買い付けに来ていたものだった。

 イシモチはニンジャソウルの痕跡の源、カウンターのテンガロンハットを被った酔っぱらいの隣に静かに座る。そしてミルクを飲み始めた。

 テンガロンハットの男はそれを見ると笑いながら言った。「ハッハハ! すげえ! 酒場でミルク! 酒場でミルクだ!」

「はあ」イシモチはテンガロンハットのグラスを指差すと言った。「なんですか。じゃあそれ、飲ませてくれませんか」

「いいぜガキ。お前もこれを飲んで、大人の男ってやつになれよ。テキーラこそが男の飲みものってやつよ」テンガロンハットは喜んでバンザイ・テキーラの入ったグラスを差し出す。それに少しだけ口をつけると、イシモチは顔をしかめ、そのまま席をたち、サルーンを後にした。

 ラトルスネイクが酔っ払っていなければ、その不自然さにすぐに気づいたことだろう。首を傾げて再びグラスのテキーラを飲んだ彼がイシモチを追いかけてサルーンを飛び出してきたのは、数瞬後のことであった。

 イシモチは振り返ると言った。「ドーモ、ソウカイ・ハイローラーズ=サン。エンクレイヴです」

 ラトルスネイクは言った。「ドボッ、カッ、カカッ……ゴボボーッ!」

 今ラトルスネイクの肺の中では、バンザイ・テキーラが猛烈な勢いで暴れまわっていた。陸の上にいながらにして溺れるこの感覚にラトルスネイクは驚愕していたが、それがこの子供の仕業だということだけはわかっていた。

 一体これはなんのジツだ。このガキはどこのどいつだ。いやそれは今はどうでもいい。どこの誰だろうが、なんのジツだろうが、このガキを殺せばおれは解放されるはずだ! とにかくやらなければ!

「ムグォーッ!」濁ったカラテシャウトともにラトルスネイクのセイケンヅキが放たれる! だが万全のシャウトの伴わないカラテに十全の力が乗ることは決してない。エンクレイヴはやすやすとその拳を受け流すと、ラトルスネイクを引き倒し、そして取り出した水筒からさらに水を無理やり飲ませた。

「ゴボーッ! ゴボボボーッ!」苦しみ暴れるラトルスネイクの耳元でエンクレイヴは言った。「わかるか? ぼくはお前たちハイローラーズは許さない……まともに殺してやることはない……絶対にだ。せいぜい長く苦しむといい……それがお前らの……」

 だがしかし「モガアーッ!」ウカツ! 死に際のニンジャのヤバレカバレを侮ってはならない! ラトルスネイクの決死の変則的な両手のツキがエンクレイヴの両耳目掛けて襲いかかる! これが全てのカラテガードを掻い潜る彼のヒサツ・ワザ、ダブル・ヘビ・ツキである!

 驚きに目を剥くエンクレイヴ。だがそのツキがエンクレイヴに届くことはなかった。両耳を貫き脳に到達せんとしたその直前、ラトルスネイクの首から上は、ニンジャスレイヤーの燃え盛る蹄により消し飛ばされていたからだ。

 ニンジャスレイヤーは、咎めるような目つきでエンクレイヴを射すくめる。エンクレイヴは恥じるように目を反らすと、服を払って立ち上がった。そしてそのまま再びサルーンの中に舞い戻り、大きく息を吸うと言った。

「ドーモ、ソウカイ・ハイローラーズの皆さん。エンクレイヴです。今日は皆さんを殺しに来ました。よろしくお願いします」

「アッコラー!」「ナマシャッテコラー!?」「ナンデニンジャ!?」 どよめく店内。そして声が上がった。「センセイ! ラトルスネイク=センセイ! オネガイシマス! オネガイシマス!」

 だがしかし彼らの頼りのセンセイが現れることはない。代わりに入り口から入ってきたのは、ラトルスネイクの生首を加えた殺意の黒馬、ニンジャスレイヤーだった。

「ウマナンデ!?」「ニンジャナンデ!?」「センセイナンデ!? アババババーッ!」ニンジャが馬! 馬がニンジャ! そしてセンセイの生首! あまりの異常事態に彼らは狼狽した。浮足立って怯えるハイローラーズにイシモチとタネフジはゆっくりと歩み寄る。そして一人づつ殺していった。

 まるでかつてのハイローラーズが、リケンドー氏たちにそうしたように、ゆっくりと殺していった。

    ◆

 リケンドー邸廃墟。未だ残り火が燻るそこに、一人の白髪のニンジャがいた。彼の名はダークニンジャ。ソウカイ・ハイローラーズのトップヒットマンである。

 ダークニンジャは腰のリボルバーをガンスピンさせながら廃墟を歩む。残った金品の回収を命じた彼の部下が、いつまで経ってもこの地から戻ってこないことを訝しんでのことであった。

 そして彼は厩舎にたどり着くと、ある爆発四散跡を見つけ、驚きに眉を上げた。そこは彼が目をつけていた逞しいあの黒毛の馬、タネフジ7の寝床の前であった。ダークニンジャは、当然その素晴らしいオーガニック馬の回収も命じていた。

 彼の類まれなる知性、そして深遠なるニンジャ知識は、即座にこの状況から結論を導き出した。ごく稀にではあるが、人間以外の動物にもニンジャソウルが憑依することがあるのだという。おそらく、タネフジ7にニンジャソウルが憑依し、そして我が部下を返り討ちにしたのであろう、と。

 送り出した彼の部下──コーンヘッド──は決してカラテ弱者ではなかった。あの美しい馬に、コーンヘッドを殺すほどのニンジャソウルか。素晴らしい。なんと素晴らしいことか。ダークニンジャはこの飽いた世界に、久しぶりにちょっとした新しい喜びを見つけた。そしてハイローラーズの本拠、光り輝くネオラスベガスへと、意気揚々とサイバー馬を走らせていったのであった。

(つづく)

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