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(ニンジャスレイヤー二次創作)ア・ボーイ・アンド・ヒズ・ホース #3

「アーレエエエ!」日本から招き寄せたリアルオイラン達の、弾けるような嬌声が夜空に響く。ここはネオラスベガス。モハビの宝石、悪徳の都だ。そのネオン輝く街路のど真ん中を、サイバー馬に乗って駆け抜けるこの男を咎められるものなどどこにもいない。男のたなびく髪は白く、その鋭い眼差しの奥には静かな熱狂が広がっていた。彼の名はダークニンジャ。ソウカイ・ハイローラーズのハイ・ニンジャである。彼の黒いニンジャジャケットの背中には、クロスライフルのハイローラーズエンブレムが銀糸で大きく刺繍されていた。

 彼の思考は今あの黒馬、タネフジ7のことで一杯になっていた。馬。ニンジャアニマル。それもカラテが強い。稀有な例だ。是非とも欲しい、この手にしたい……。意思疎通は可能だろうか? あの屋敷の主へトドメを差す前に面白半分で敷地中引きずり回したが、当然あの馬もそれを見ていただろう。果たしてそんなことをしでかしたおれのことを、どう思っているだろうか?

 当然恨まれていることだろうな。馬に忠義というものがあればだが。ダークニンジャは暗く笑った。そんなヤツを力でねじ伏せ、屈服させ、その背に乗る。ああ、なんと楽しみなことだろうか。

 ハイローラーズの本拠地、カジノ・オットット44に辿り着いたときにも、ダークニンジャの顔にはまだ笑みが張り付いていた。それがあまりにも珍しいことだったので、それを見て名状しがたい恐怖を覚えたガードマンは、少しだけ失禁した。

    ◆

「コーンヘッド=サン達がやられただと?」
「はい。残念ながら」

 オットット44ビルの最上階、回転ペントハウス。ソウカイ・ハイローラーズのボス、ドン・ラオモトとダークニンジャは、漆塗りの見事なルーレット台を前にして向かい合っていた。

 ハイローラーズのモットーはあくまで日本風だ。それがこの三百年の間ですっかり捻じ曲げられてから久しいが、ともかく彼らはそれを誇りに思っていた。

「ムウ。ヤツらはまだ、このワシへの借金を少しも返せておらんぞ」ラオモトはウイスキー・サケを飲みながら言った。ハイローラーズは構成員を組織への借金で縛り上げる。それを存命中に全額返済できたものは存在しない。このダークニンジャを除いては。「仕方ない。いつものどおり生命保険の支払いを返済に充てることとしよう……そこにこのワシが直接この事務に携わることによる事務的経費を加算して……おや」

 ラオモトは肩をすくめると言った。「結局同じ額が必要になってしまったなあ。なんとも、毎度のことながら、経済とは不可思議なものだ。ムハハハハハ!」
「すぐに親族へ取り立てさせましょう。何人か向かわせます」ダークニンジャは慣れた様子でそう答えた。「ブルーギル=サン、イルヘッド=サンでいかがでしょう」
「構わん、構わん、好きにやれ」ラオモトはコメ・テキーラを飲みながら言った。「それにしても返す返すだが、コーンヘッド=サン達のことは残念だったな? 悪くはない腕前だった。品性はないが」
「全くもってそのとおりです。ただ、油断したあの者のウカツとも言えます。何事も……」
「ふむ。ニンジャを殺す。それも複数のニンジャを。たしかリケンドー邸にはニンジャはいなかったはずだな。ただの人間にそんな芸当が可能なのか? 一体どうなっている?」
 突き刺すような口調の質問! だがダークニンジャはそれに臆することなく、淡々と答えた。
「リケンドーの縁者のうち、一名だけ死体が上がっていない者がおります。名を確か」ダークニンジャはそこで一旦息を切ると、言葉を続けた。「イシモチというんだとか。拾われ児のようです」

「なるほど? 続けろ」
「死に瀕した人間にニンジャソウルが憑依するということはままあります。そしてその直後には、暴走状態とでもいうべき制御不能の恐るべきカラテを備えていることも稀にあるということが知られています」

「なるほど。それで?」「レポートを見る限り、あの日にリケンドー邸へ他のニンジャ勢力が近づいた様子はありません。さらに、微弱ではありますが、正体不明のニンジャソウル反応が感じられました。となれば。私の見立てでは、その子供がニンジャとなり、油断したコーンヘッド=サン達を返り討ちにしたと、そう考えるのが妥当だと、そう思っております。ボス」なんという狡猾なワザマエか! ラオモトの強大な所有欲をよく理解していたダークニンジャは、希少なニンジャアニマルであるタネフジ7を確実に我が物とするべく、その存在を巧妙に隠して報告したのだ! かの偉人、ミヤモト・マサシの名言、「サバを数えるときはほとんど正確に」の通りであった。

「ムハハハハハ! 子供のニンジャ! ギャング殺しの! ムッハハハハハ!」ラオモトは天井を仰いで笑うと、瞬時に憤怒の形相を作り、ダークニンジャに言い放った。「冗談にもならん……。探せ……そして殺せえ……必ずだあ……」

「お任せください。すでに」ダークニンジャは冷たく言った。「ゴーストライダー=サンに、残されたニンジャソウル反応を追わせております」

「よい結果だけを聞かせろ。いいな……」ドン・ラオモトは立ち上がると、エレベーターへと向かって歩き出す。

「仰せのままに」ドゲザ姿勢のまま見送るダークニンジャを一瞥もせず、ラオモトは下界へと降りていった。今日の集金ディナーショーは少しばかり荒れることになるだろう。ダークニンジャはメンポの奥で苦笑しながら、そう思った。

   ◆

「タネフジ」
「ああ。当然わかっている」

 夜道を駆ける一人と一頭。彼らは、ずいぶん前から、得体の知れないモーターサイクルに追跡されていることに気づいていた。

 イシモチはタネフジを反転させると、謎の乗り手に相対して言った。

「ドーモ、エンクレイヴとニンジャスレイヤーです。ついてきてるあんた、一体誰だ? 名乗ってくれよ」
「なるほど。確かに馬と子供、どちらもニンジャだ。珍しいこともある……」

 ロードレザーに見を包んだその男は、アイドリング状態のチョッパーバイクに跨ったまま、フルフェイスヘルメットを脱ぐと、地獄の底から轟くような声でアイサツした。

「ドーモ、エンクレイヴ=サン、ニンジャスレイヤー=サン。わたしはソウカイ・ハイローラーズのゴーストライダーです。わたしはエンクレイヴ=サンを殺しに、ニンジャスレイヤー=サンを拉致しに来ました。よろしくお願いします……」

 そのニンジャの頭は、青白い炎で燃え盛っていた。その忌まわしき炎を通して、空っぽの眼窩が彼らのことを見つめていた。

(つづく)

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