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(ニンジャスレイヤー二次創作)ア・ボーイ・アンド・ヒズ・ホース #1

 病んだ日差しが照りつけるネオモハビの一面の荒野。ネジ曲がった変異ウチワサボテンの間を、一頭の馬が歩いている。その背には日差しよけのフードを被った、痩せぎすの小柄な少年が載っていた。

 その馬の目は鋭く、その体躯は逞しい。そしてその瞳にはこの世のものならぬ暗い熱狂と殺意を湛えて、まっすぐと行く先を睨んでいた。手綱を握る少年のその手は細く、いかにも頼りなく見えたが、怒れる瞳は彼のその馬と全く同じ表情をしていた。

 その黒毛の馬はニンジャだった。それも邪悪なニンジャであった。ある忌まわしき雨の夜のこと、他の馬の死骸がいくつも横たわる厩舎で、彼は今背に乗せている少年に告げたのだ。わたしはニンジャになったのだと。ニンジャを殺すニンジャ、ニンジャスレイヤーとなったのだと。もはやタネフジ7ではないのだと。自らの流した血と襲撃者の返り血で真っ赤に染まった顔で、そう厳然と告げた。

 その足元には、燃える蹄で頭蓋骨を粉砕された、未だ手足を痙攣させている名もなきニンジャの姿があった。

 その事実に少年が発狂死しなかったのは、その夜彼の家族を一晩にしてニンジャたちに皆殺しにされ、そして自らも半死半生の目にあったことによるショック状態が原因なのではない。死の淵から蘇った彼自身もまた時を同じくして、ニンジャソウル憑依者となっていたからだ。

 少年の名はイシモチと言った。イシモチは、タネフジ7のその言葉を聞いたとき、あの温厚な愛馬が異形の存在に変貌してしまったことを理解し、そして魂の新たな同居人の発した声無き悲鳴と深い畏れを感じ取った。恐怖に震えた。失禁さえした。

 だが同様に、自らに宿るこの抑えがたい新しい感情が煮えたぎる復讐心であること、襲撃者たちに対する冷たい殺意が自らの中から止めどなく湧き上がってくること、そして目の前の友の精神にも全く同じものが渦巻いているであろうことにも気づいていた。

 イシモチは言った。「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。エンクレイヴです」
 タネフジ7は答えた。「ドーモ、エンクレイヴ=サン。ニンジャスレイヤーです」

 イシモチは、タネフジの蹄をどかせると、カラテの型をとった。死にかけたニンジャと目があう。何事かうめいている。おそらく命乞いであろう。彼は気にせず、そのまま、養父から習った下段突きをそのニンジャの陥没した頭部へとめがけてまっすぐに打ち込んだ。打ち込んだ。繰り返し打ち込んだ。このニンジャが女中にロウゼキ・アンド・サヨナラを働く場面を、イシモチは押し込まれたクローゼットの中からはっきりと見ていたのだった。イシモチの拳には憎しみが籠もっていた。彼の拳は今や熱い憎しみのハンマーであった。

 「イヤーッ!」「アバーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!」「イヤーッ!」「アバババババーッ! ブエエーッ!」オーバーキルである。そのニンジャはしばらくのたうち回ったあと、動かなくなり、そして静かに爆発四散した。

 だがそれで彼らの心が晴れるものでは到底なかった。少年と馬は目を合わせる。彼らは狩りを始めた。まだ敷地内に残り、意地汚く残骸を漁っていた何人かの襲撃ニンジャたちに襲いかかったのだ。彼らを一人づつ分断し、追い詰め、そして全て殺した。蹄で頭をかち割って殺した。背後から頸動脈を締めて殺した。得物を奪い取り、それを突き刺して殺した。ああ、だが朝が訪れても、彼らの育ての親を殺した、肝心のあの忘れようもない白髪のニンジャの姿だけは、どこを探しても見つけることはできなかったのだ。彼らはそのためにこの殺戮を始めたというのに。

 だが手がかりは得た。クロスライフルのエンブレム。それはかの極東ヤクザ組織、ソウカイヤのラスベガス支部構成員の証だった。

 これで彼らの旅の行き先は決まった。それは以前のような、ちょっとした冒険気分の観光旅行などではない。戻る家などもはやない、復讐のためのラスベガスへの過酷な旅路であった。

 養父を殺したニンジャを殺す。養母を殺したニンジャを殺す。寄る辺のない我らをここまで育てた大恩あるあの一族に、このような非道をなしたニンジャどもを全て殺す。それが彼らの、共通の目的であり、暗く冷たい原動力なのであった。

 バイオコンドルが、空高く飛んでいた。乾いた風がただ吹いていた。

 馬は不満げに鼻を鳴らす。一人と一頭は、そのまま黙々と、歩みを進めていた。

(つづく)

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