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【作品レビュー】国内各地のライブハウスやクラブ、レコ屋などアンダーグラウンドなヴェニューと、所縁ある世界のアーティストのプレイが楽しめる映像シリーズ『In:Depth』

デジタルチケットのプラットフォームであるZAIKOとA.C.T Japanが共同で制作をはじめた日本のアンダーグラウンドな音楽カルチャーとその外縁にフォーカスを当てたドキュメンタリーシリーズ『In:Depth』

日本各地のヴェニュー=“場”と、そこに集うアーティスト=“人”をメインに据え、国内外の気鋭アーティストによるパフォーマンス映像とインタビューを交えた構成で送る映像企画で、現在全3章、計11エピソード、トータル19時間超の映像すべてがZAIKO限定で月額440円で観ることが可能だ。ここでは足早ではあるが本編の内容と見どころについて紹介しよう。

Forestlimit(東京都 幡谷)

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まず第1章は東京都内に在する4つのヴェニューを取り上げる。エピソード1でスポットを当てるのは渋谷区幡ヶ谷のクラブ、forestlimit。東京随一のDIYなアンダーグラウンドスポットであり、多様なアーティストやDJが交流するサロンとしても機能する名店だ。パフォーマンスにはforestlimitで“Ideala”を主宰するAKIRAM ENのDJ、モスクワからのゲストプレイヤーとしてPavel Miliyakovがライブセットを携え登場。どちらもオルタナティブな場に呼応したプレイで、forestlimitで日夜繰り広げられるパーティーの一片を想像する助けになることだろう。
https://www.forestlimit.com

heavysick Zero(東京都 中野)

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エピソード2では中野ブロードウェイを抜けた先にある老舗クラブ、heavysick ZEROをフィーチャー。ヒップホップをメインに数々のDJやラッパー、ビートメイカーを輩出している。ここではheavysick ZEROで10年間レジデントを務めるパーティー“SLOW LIGHTS”のレジデント陣による4台のサンプラーでのB2Bビートライブ、フランス在住のDJ/プロデューサーで“SLOW LIGHTS”ともゆかりの深いMIDORIがパフォーマンスを披露。クラブが生んだグローバルな交流を感じ取ることができる。
http://www.heavysick.co.jp/zero/

SHeLTeR(東京都 渋谷)

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エピソード3は八王子市にあるこちらも老舗、SHeLTeRをピックアップ。四半世紀に渡り営業を続け、ミュージックラヴァーから愛され続けられている、東京でも有数の“場”である。長い店の歴史のなかでチューンアップを重ねられたサウンドシステムでパフォーマンスを披露するのは、SHeLTeRで15年ものあいだパーティーを行ってきたDJのChee Shimizu。そしてセルビア出身でChee Shimizuとも交流を持ち、SHeLTeRでの音響体験に衝撃を受けたというDJ/レーベルオーナーのVladimir Ivkovicもリモートで参加。両者ともSHeLTeRという場のムードをDJプレイで表現している。
https://www.at-shelter.com

Lighthouse Records(東京都 渋谷)

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エピソード4では渋谷を代表するレコードショップ、Lighthouse Recordsにフォーカス。ダンスミュージックのレコードをメインに扱い、東京はもちろんのこと日本各地のDJにとってなくてはならない存在である。パフォーマンスにはDJの瀧見憲司、イギリスからNick the Recordが参加。どちらのDJもベテランらしい抑揚の効いたグルーヴと選曲審美眼が光る。ふたりのLighthouse Recordへの思いは映像内のインタビューに詳しいが、なかでも瀧見による“ここは渋谷有数のプロショップである”との言葉が響く。
https://lighthouserecords.jp

Azul(大分県)

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第2章では九州エリアの音楽にまつわるグッドプレイスを紹介する。最初に紹介されるのは大分県は別府のAZUL。風光明媚な温泉街としても有名な別府でダンスミュージックをメインに担うクラブである。ここでは別府出身のDJであるSatoと、アムステルダム在住の電子音楽家でありDJ、Lena WillikensがDJプレイを。長年AZULでプレイを続けるSatoの起伏に富んだテクノ中心のセットから、Lenaによるニューウェーブ、レフトフィールドな選曲の流れに唸らされる。
https://www.instagram.com/azuloita/

Kieth Flack(福岡県)

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続くは福岡は天神親不孝通りで27年ものあいだ営業を続けるKIETH FLACK。国内外のさまざまなジャンルのアーティストを招聘する福岡の顔的なクラブである。福岡のアンダーグラウンドシーンでひときわ異彩を放つアーティスト、スポーツガーデンひがVJのCHANOMAの映像をバックにDJを行う。そして食品まつり a.k.a. Foodmanら日本アーティストのリリースも活発に行うUSの音楽レーベル、Orange Milkを主宰するGiant Clawのライブ/ビデオパフォーマンスも衝撃的だ。
https://kiethflack.net

Navaro(熊本県)

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ところかわって、熊本。熊本城下市街地のほど近くにあるNAVAROは熊本の音楽シーンのハブとして愛される、チェッカー模様のフロアが目を引くクラブ/ライブハウスである。ここではNAVAROをホームとして活動を続けるDJ RyuheiがDJパフォーマンスを。続くニューヨーク出身のベースミュージックDJ/音楽家/プロモーターのAurora Halalも、NAVAROでの来日を振り返り、リモートでのDJを行う。熊本とブルックリンという距離も“場”の力によって縮められることがわかるエピソードである。
https://navaro.info

kalavinka/Sextans(福岡県)

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九州エリア最後のエピソードでは福岡のレコード/セレクトショップ、そして音楽レーベルとしても活動するKALAVINKA/SEXTANSを紹介する。独自のレコードセレクトで好評を博す暖かみのある雰囲気の店内で、現オーナーのp.coによるヴァイナルオンリー、酩酊感のあるDJプレイに続き、フランス出身で現在はロンドン在住のDJ/レーベルオーナーのCedric Wooがワールドミュージックやレゲエを中心にプレイ。本人が強く影響を受けたというDavid Mancusoに倣ったロフトスタイルのDJは視聴者にリラックスな時間を届ける。
https://sextans.jp

OPEN(東京都 新宿)

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第3章では舞台を東京に戻し、独自の理念で運営を続けるヴェニューに焦点を当てる。まずは新宿御苑近くでレゲエがメインのクラブとして営業を続ける名門、OPENを紹介する。この店のレジデントセレクターであり、共同経営者であるBIG Hのマイクを混じえながらのDJはOPENが持つ歴史の積み重ね、レゲエクラブにとってのサウンドシステムの重要性を感じさせる。UKレゲエシーンのベテランで、OPENで結婚パーティーを行ったこともあるCHAZBOによる貴重なライブダブミックスも見どころだ。
https://www.facebook.com/Reggae-DUB-club-OPEN-209137905858073/

Anagra(東京都 半蔵門)

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続くエピソードでは半蔵門のギャラリーでありオルタナティブスペース、ANAGRAを取り上げる。アーティストが集って共生していく場として8年。現在では個展やイベント以外にもA.N.Dというウェブメディアも展開をはじめた。ここではANAGRAの磁場を体現するアーティストとしてMunnraiがマシンライブを披露。3年前に展示を行ったGabber Modus Operandiとしても知られるバリのアーティスト、Ican Haremが先鋭的でレイヴィーなセットでANAGRAへのラブコールを送る。
https://www.anagra-tokyo.com
https://www.instagram.com/anagra_tokyo/

Contact(東京 渋谷)

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そして『In:Depth』プロジェクトのラストを飾るのは渋谷は道玄坂にある大型クラブ、Contact。かつての西麻布YELLOW、ELEVENから連なる大箱クラブの系譜をいまも守る聖地とも呼ばれる場所だ。インタビューでは各人がクラブにおいてのジェンダーバランスについての配慮を提起し、そこからContactにも出演するアーティストSapphire Slowsのライブセット、そしてロンドンで20年以上のキャリアを誇るDJ、Jane Fitzのプレイへと紡がれる。アーティストのチョイスやインタビューでの発言ひとつひとつに日本が世界に誇るべきContactの矜持を感じ取ることができるエピソードだ。
https://www.contacttokyo.com

少なくとも国内の音楽シーンにおいて、ドキュメンタリー映像としてここまで微細に各ヴェニューと各地のプレイヤーを紹介する企画はこれまでなかったように思う。望むべくはこのシリーズが今後も継続していき、網羅的にさまざまな場所やアーティストがアーカイブされていくこと。ここに映されているのは“場”を回路とした、音楽やアートを生業とした人間たちの記録だ。この記録が映像を通してさまざまなひとの記憶に残ることを祈る。

カルチャーをこのような時代のなかでも衰退させないためには、過去を記録し、検証、継承されること、そして来るべき新しいフェーズに向けアップデートを繰り返すことが必要なのである。そしてそれが成されることこそ、文化そのものが進歩するということなのではないのだろうか。

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IN:DEPTH
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