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【インタビュー】ermhoi - 私はあくまでインディー・ミュージシャン|MIDNIGHT RADIO

ZAIKOによるサブスクリプション型プレミアム会員サービス「ZAIKO プレミアム」にて、深夜ラジオ風番組『MIDNIGHT RADIO』の配信が12月2日からスタートした。本企画は、ermhoi、カメレオン・ライム・ウーピーパイ、食品まつり a.k.a foodmanxTaigen Kawabe (Bo Ningen)、SUKISHAといったいま注目のミュージシャンがトークと演奏を披露する映像コンテンツで、各エピソードにつき1組のミュージシャンが登場する。

初回には、シンガーソングライターでmillennium paradeやBlack Boboiのメンバーとしても活躍するermhoiが出演し、自身のルーツから12月15日にリリースされる最新アルバム『DREAM LAND』まで、様々なトピックでトークを展開。ハープを用いた弾き語りも披露された。

この記事を読む皆さんには、本稿について「MIDNIGHT RADIO」のボーナストラックのようなものだと考えてほしい。この記事を読んでからMIDNIGHT RADIOを聴き(あるいは観に)に行っても楽しめるだろうし、その逆もまたしかりである。また、今回のインタビューに際し、ermhoiと共同でスペシャルなプレイリストも作成した。ぜひそちらも併せて楽しんでほしい。

取材:川崎友暉 
撮影:マジック・コバヤシ

- MIDNIGHT RADIOでも仰ってましたが、ニューアルバム『DREAM LAND』はこれまでとは異なるアプローチをとっているそうですね。今までは英語が主言語として使われていたところ、日本語を使用されたり、DTMによる打ち込みでなく弾き語りで制作された楽曲もあると聞きました。なぜ今このタイミングで方向転換をされたのでしょうか?

元々そういうアコースティックなサウンドが好きだったんです。私の母国語も日本語ですし、もっと自分に正直になるというか、本来の自分って何だろうっていうのをちゃんと意識して音楽を作りたいと考えるようになりました。というのも、前作『Junior Refugee』からの6年間、いろんな人のパフォーマンスや、音楽に関係のない様々な表現を見てきて、やっぱり一番ぐっとくるものって、自分に正直だったり嘘がないものだなって気付いたので。私も嘘をついてきたわけではないんですけど、カッコつけてきたっていうか、あまり自分を出さないような表現をしてきたと自分では思ってるんです。今はそこにしっかり踏み込んで、自分と向き合ってもいいんじゃないかというふうに感じています。

- それは時代の影響もあるのでしょうか?

むしろ時代から切り離された実感がありますね。今までは毎日新しい情報を手にして、その情報をもとに自分の見たいものを見てました。なんとなくトレンドのようなものがあって、それにちょっと近付きながら、こういうイベントで演奏したいから音楽を作るとか、自分から世界に合わせていくようなところがあったんです。そういう場面がコロナ禍以降減って、私も多くの人と同じように家にこもるようになりました。世の中と関係ないところで音楽を作るようになったっていうのもあって、それがさっき言った“自分に正直になる”っていうのと繋がってきますね。外で演奏するには、やっぱりエレクトロのような、“人を踊らせたい”とか、何かそういう意図があって曲を作ったりとかもしてたんですけど、もう今はそうではなくなったというか。自分が楽しいとか、自分が気持ちがいいとか、限りなく主観的な部分で判断するようになった気はします。

- まさしくパンデミック前とは違うマインドなわけですね。2019年ぐらいのermhoiさんは「社会と音楽」の関係性について鋭く切り込んでいた印象があります。そういう意味では、今作はその時とは真逆のベクトルで作られたアルバムと解釈できそうな気もしますね。

そうですね。やっぱり当時は私が、社会に対する怒りだったり意思を表すことに対して、リスナーも私の音楽が社会とどう繋がっているのかという視点で聴いてくれてたんですね。だけど本来の私はそれだけじゃないですよっていうことも、今は伝えたくて。誰かのために音楽を作るっていうのも、もちろん意義があることだと思うんですけど、自分のために音楽を作って、それが自分以外の人に聞いてもらえるんだったら結果オーライっていう。今はその方がより自然だし、私もそういう音楽のほうがすんなり聞けるんですよ。やっぱり攻撃的な内容の音楽って、テクスチャーからもなんとなくそれが伝わってくるんですよね。感覚的な話ではあるんですけど、今は“自然とそこに佇んでる”みたいな音楽を作りたいんです。

- わかるような気がします。私、実はermhoiさんと同じ年なんですけども、パンデミック以前にermhoiさんが仰っていたことも非常に共感しておりました。そして今仰った、現在の変化にも。何というか、怒り疲れた感覚は確かにあります。

ある一定のところまで怒りが達してしまうと、それが病になってしまう場合があると思うんです。ここ最近は、それを何となく感覚で察知していた気はします。これ以上、その感情に触れても仕方ないっていう。今はそれを多くの人が同時に感じているタイミングでもあると思うんですね。もちろん問題から逃げるわけではなくて、捉え方を変えるっていうような、そういうシフトチェンジの時期だったのかなと。もうちょっとこう、横にズレてみるとか、後ろに下がってみるとか、そういう感覚はあるような気がします。

- そう考えると、ermhoiさんと藤倉(麻子)さんの関係は理想的であるように思われますね。MIDNIGHT RADIOでも仰ってましたが、ミュージシャンと映像作家ではアート観が異なるというお話は興味深かったです。私は2015年にリリースされた「Why?」のMVでお2人のことを知ったのですが、あれから6年経ってお2人ともシーンで評価されているというのは凄いことだと思います。

本当はもっと頑張りたいんですけどね(笑)

- 私を含め、オルタナティブな場所に居心地の良さを感じる人間は励まされていると思いますよ。Black BoboiやMillennium Paradeでも活動されていて、ついには『竜とそばかすの姫』のような超メジャー映画にもミュージシャンと声優として参加されました。これもまさに「ズレ」ではないかと感じますが、ご自身としてはどう捉えていますか?

いやでも『竜とそばかすの姫』に関しては少なからず葛藤もありましたね。サントラの制作はともかく、自分が声優をやるっていう観点が今まで全くなかったので。これまでとは違って“何でもやる人”になるのか、そういう選択をしたことによって自分の意思とは違う方向に行ってしまうんじゃないかとか…。そういう懸念をどう整理していくかは考えました。やっぱりメジャーな世界っていろんな人が動いてくれて、多くの人がサポートしてくれるから、様々なことができるようになるんです。もちろん、それに応えられるように私も一生懸命動くし、100%力を出しますけど、不安は常にありました。

『竜とそばかすの姫』の制作は楽しく終われたので杞憂だったんですが、“私はあくまでインディー・ミュージシャン”っていうのは今後も貫いていきたいです。インディーズは自分でライブハウスに連絡するし、ギャラ交渉もするし、MVのプロデュースにも関わるので、すごく大変なんですけどね。面倒くさくなることもあるんですが、これを続けていないと、結局自分は自分じゃなくなっちゃうなっていうのを、最近すごく実感してるんです。

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- 確かに大作との関わり方はインディー・アーティストの至上命題な気がします。…でも、個人的には、WONKの江﨑(文武)さんと制作された『ホムンクルス』のサントラは大変素晴らしいと思いましたよ。Warpからリリースされたと言われても信じますもん。

それは素直に嬉しいです(笑)。この映画は監督にも「こういうジャンルの作品で、こういうスタイルで撮ります。音楽はそれに合わせてもいいけど、合わせなくてもいいですよ」っていうような感じで最初お話があったんです。「ここはこういう感じの音」っていう指定がワンシーンぐらいはありましたけど、それ以外は私たちに任せてくれました。ここはこういう感じだよねって文武と認識を合わせながら、何曲かリファレンスを選んで制作に入りました。各々担当を振り分けて、私が担当したところはエレクトロな部分が多いですね。まぁとにかく自由でした。シーンによりますけど、Arcaやヨハン・ヨハンソンの曲を参考に聴いてました。でもホラーやサスペンスって、音がないほうが怖かったりするじゃないですか。この映画のサントラを作る上では、そういうバランスを考えましたね。

- 自分で質問しておいてなんですが、ermhoiさんの場合、そもそもの音楽の作り方がサントラ的なのではという気がしてきました。これもMIDNIGHT RADIOで仰ってましたけど、世界を対象化するための作品作りってまさに映画音楽的だと感じるんですね。

そう思います。ストーリーが好きなんですよね。ビジュアルってそれだけでストーリーが成立しうると思うんです。“そこにあること”そのものによって意味が成立するというか。ものの配置だけで、みる人に物語を想像させることができるのはビジュアル表現の素晴らしさだと感じます。音は視覚よりも抽象的ですけど、私も音でそういう作品を作りたいとは思っています。表現として私が理想的だと感じるのは、映画で言うとテレンス・マリックの『天国の日々』や、それこそヨハン・ヨハンソンが劇伴を担当した『Mandy』ですね。『Mandy』は本当に凄い映画だった。あの世界に入りたいとすら思いましたね。…いや、すごく怖い世界だから入りたくはないんですけど(笑)。

- 『ホムンクルス』のメインテーマもMillennium Paradeが担当してましたが、価値観や志が同じ同世代のアーティストがカッティングエッジなことをやって、それを多くの人が聴くという状況は音楽シーンにとってポジティブな要素だと感じます。まさしくシフトチェンジをみんなで楽しみながら実践できているというか。

それはありますね。世代が少し上のアーティストからは羨ましがられるんですよ。「以前はこんな自由にできなかった」って。ジャンルごとに世界観がバラバラだったし、“ロックとヒップホップは相容れない”みたいな状況もあったと。その話を聞いたときに私の身の回りを想像してみたんですけど、全くそんな様子はないんですよね。アイナ・ジ・エンドさんとROTH BART BARONが一緒にポカリのCMの曲を作るっていう、メジャーの方ととインディーオルタナティブバンドがタッグを組む場面だって今は全然ありえるわけじゃないですか。上の世代が感じていたような不自由さはずいぶん少なくなって、私みたいなインディーアーティストもできることが増えている実感はあります。

- そういう意味では、今の音楽シーンは本当に面白いと思います。このまま突き詰めていけば良い未来が待っていそうですよね。個人的にも楽しみにしています。最後に、今後の展望を教えてください。

アルバムがリリースされてからライブをたくさん行う予定です。12月には大阪・東京のいくつかの場所を回って、来年以降は小林うてなとはハープデュオを組んでライブをやります。MIDNIGHT RADIOの最後に披露した弾き語りを2人でやるので、あれを気に入っていただけた方はぜひ遊びに来てください。

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【プロフィール】
ermhoi
日本とアイルランド双方にルーツを持ち、独自のセンスで様々な世界を表現する、トラック メーカー、シンガー。2015年1st Album "Junior Refugee”をsalvaged tapes recordsよりリリー ス。 以降イラストレーターやファッションブランド、映像作品やTVCMへの楽曲提供、ボーカルやコーラスとしてのサポートなど、ジャンルやスタイルに縛られない、幅広い活動を続け ている。2018年に小林うてなとjulia shortreedと共にBlack Boboi結成。フジロック19’ のレッドマーキー出演を果たす。2019年よりmillennium paradeに参加。 2021年3月には”Thunder”をBINDIVIDUAL recordsよりリリース。
https://twitter.com/dooonermhoi
https://www.instagram.com/ermhoi

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【アルバム情報】
ermhoi
New Album『DREAM LAND』
2021.12.15 Release
PECF-3263 / ¥3,300

[収録曲]
01. Introduction
02. 埋立地
03. Dream Land Song
04. Beautiful
05. Softly Sinking
06. Kani
07. Learn while you sleep
08. Pine Tree
09. House
10. Mountain Song
【作品情報】番 組:MIDNIGHT RADIO
出 演:ermhoi、カメレオン・ライム・ウーピーパイ、食品まつりxTaigen Kawabe (Bo Ningen)、SUKISHA
配信日時:12月2日(木)より隔週木曜日(全4回)

各エピソード1組のミュージシャンが、真夜中をイメージした、未来的でありながら80年代の懐かしさもあるDJブースの中で、深夜のラジオ番組風パーソナリティとなって視聴者にトークと曲をお届けします。フリートークのほか事前にTwitter等で募集された“リスナー”からの質問に回答するコーナーと、自らのライブ演奏や好きな音楽をオンエアする構成になっています。出演するアーティストには、millennium paradeにも参加しているermhoi、Spotify選出の「RADAR: Early Noise 2021」にも名を連ねるカメレオン・ライム・ウーピーパイ、UKレーベルHyperdubから作品をリリースした食品まつりと彼に親交の深いTaigen Kawabe (Bo Ningen)、幅広い音楽性で支持を集めるSUKISHAがラインナップ。曲やトークを通して、まさに今要注目なアーティストと繋がりを感じられる番組です。
https://zaiko.io/premium/media/midnight-radio
https://youtu.be/8e8ggSzy6X8