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差し出がましくも問わず語りに        〜朝倉未来 後[1]格闘家の新たな地平

*格闘家の皆様におかれましては肩書、敬称を省略させていただきました。   ありったけの敬意を込めて。RIZINの盛栄を祈念しつつ。

〜 格闘技ファンでない方々へ 〜

朝倉未来は格闘家の新たな地平を開いた

本業だけで喰えない現役格闘家が多く、テレビ番組があってファイトマネーも良かったのは唯一RIZINという状況で、そのRIZIN のMMA(総合格闘技)に参戦して大活躍、選手でありながら格闘技系YouTuberとして羨ましがられるほどの高額所得者になった。フォロワー数220万人、(案件を除き)個人年収10億円(昨年末時点)とアナウンスされている。

真似できそうで越えられない

格闘技とは別の仕事で成功して総収入が増えただけ、格闘家としての実力、ファイトマネーとも世界レベルには程遠いと見る向きもあるけれども、格闘技を広めるためにRIZIN榊原代表の了承を得て、目的に適う動画を作ってバズらせた事実は「普通に」凄い。しかし何より見事なのは、名作「街の喧嘩自慢」で言えば朝倉本人が闘うシーン、相手が弱ければ素人の視聴者に分からない「絶妙な加減」をしてリアルファイトに見せる、極上のリアリティ作品に仕上げたこと。YouTube上だから許される手心、許されなくてはならない。格闘家や格闘技好きYouTuberなら真似したくなる、誘引力抜群だ。にもかかわらず、動画を観て企画の完全コピーは簡単に見えてクオリティで追いつけない、品質差別化戦略に妙がある。舞台裏、人選の良さ(勝てても「見せたくない絵」になる相手は選ばない)。素人相手にレベルの違いを見せ、勝たなくてはならないから主役は本当に強くなければ駄目で、一応ルールを知らせていても掴んだり投げ、組みもあり得る。となると総合格闘技選手ならできそうだが、頭突きや急所蹴り等反則も想定すれば「喧嘩で慣らした総合格闘技選手」、「分からない加減あり」の闘いに詳細な台本を用意できたら「アクション俳優」が適任だ。演者としての華も必要。となるとこれらの特性を併せ持つ人は誰か。筆頭は朝倉未来。ほかにすぐ思い浮かぶ、膝十字靭帯を痛める前の前田日明氏、は茶番が嫌い(UWFインター以降の非プロレス系総合格闘技選手は八百長と揶揄されない誇りを過剰に持っていたから除外)。それ以前にサイズがデカすぎて対戦を希望する素人はいまい。主役は朝倉のように人並み範囲の体躯でないと務まらない訳で、よく考えられている。青木真也選手は、今や芸事の世界で己の道を究めんとする哲学者だから、引き受けないが最大の理解者たりうるか。

結果としてその道で成功した人と、成功するべくして成功する人の違い

人と変わらないトレーニング内容。チャンピオンになり、高額なファイトマネーを手にして成功者とみなされます。一流になるまでに得意技を磨き、特殊なトレーニングを課したり様々な創意工夫はあると思います。しかし、
ライバル達との大きな違いは練習量、「努力する才能」「一意専心、練習の虫」です。
一方、朝倉未来はRIZIN所属のプロになった頃、格闘技団体の盛衰、RIZIN(連盟)ビジネスの優位性に鑑み、プロ格闘技の問題点は何か。一選手の立場で何を成すべきか。試合結果でタイミングを測りながら課題を達成し、クレベル戦で方針変更して今がある。
ご自身は特質の一つとして「客観視できる」と語っていますが、寧ろ近江商人の経営哲学「三方よし」の複眼的視座に近いです。対して二方よし、BtoBでWIN-WINの関係は、Cを騙して大儲けだったり、出所不明の噂、悪行が知れ渡って世間の顰蹙を買います。

彼はさしずめ「(現代)商武師」、と書いて勝負師と読みたいところ

「商」は現代の商人道。先の近江商人のように損得勘定が適切で三方を丸く収める。自己犠牲を強いず、むしろ人を活かす商売の達人。「武」は、官吏であった武士の武士道ではなく、生活保障のない一介の武芸者が持つ武人精神。こちらの場合「商武」の商人でもあり、面子にこだわらず何人も死に追いやらぬ構え。切腹や自死などさせぬ。つまり、覚悟はあれど殺生しない武人ゆえ、汚れのない任侠精神の持ち主。損得勘定の名人は、基本的に自分にメリットがないことはせず、ともすれば冷たい人に思われがち。だからこそ、ここ一番で「仁の端」と言われる「惻隠の情」を発動します。燻っているかつてのライバルへ「こっちに来ないか」。全然得はないけれど。これが「男気」です。「師」は指導者、先達の意を込めました。

                           (続く)

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