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ラインハルトの「自分と同じ考えを相手に期待する」ことの危険性

『銀河英雄伝説』のラインハルトといえば政治・軍事ともに優秀なキャラクターですが、ときどき人事の采配ミスを犯しています。

  • ケンプにイゼルローン要塞攻略を任命したが失敗する

  • レンネンカンプを高等弁務官に任命したが早々に失敗し、同名統治の混乱を招いた

  • ビッテンフェルトを回廊の戦いの先発隊に任命するが、ラインハルトの部隊到着を待たずに戦闘開始し、ファーレンハイトの死を招く

  • トリューニヒトを高等参事官に任命したら、(彼が断ると想定していたのに)承諾された

  • ロイエンタールを新領土総督に任命したが、彼の叛乱により失敗する

  • オーベルシュタインらにハイネセン治安維持を任命したが、彼とビッテンフェルトの不和によりさらなる混乱を招いた

ロイエンタールについては彼のプライドの高さや幼少期のトラウマ、他に新領土提督を任せられる政治的人材が少なかったことにも原因があるのと、レンネンカンプについては最初から失敗を期待していた節があるので、やむをえない部分がありますが、他の失敗を見ると、ラインハルトが相手に期待しすぎて失敗したという共通点があります。

例えば、オーベルシュタインとビッテンフェルトの不和による混乱を知ったとき、ラインハルトは「彼らが不仲なのは承知していたが、公務であれば私情を挟まずにやると思っていた」と言います。ラインハルト自身、オーベルシュタインに好意は無くても重用するような合理的な人ですから、私情を挟まずに仕事することを期待していたのですが、その予想が外れたわけです。

また、トリューニヒトに高等参事官を承諾された際も「どの面さげて奴は自分が売った国に戻るというのだ」と批判しますが、ラインハルト自身が武人らしさや誇りを大事にする人ですから、トリューニヒトにも(自分と同じ程度の)羞恥心はあり、高等参事官を断るはずと予想していたのでしょう。

ケンプに対してはイゼルローン要塞攻略時に「ガイエスブルグをぶつければイゼルローンを無力化できるのに、なぜそうしないのか」と自分と同じ思考を期待しています(それならそう指示すれば良いと思うのですが)。

ビッテンフェルトに対しては回廊の戦い時、ラインハルトの部隊が到着するまで戦闘禁止と命令していましたが、猪突猛進な彼に戦闘禁止を命じるのはそもそも無理があったと思います。戦闘後に「卿らしい失敗だ」とラインハルトに失笑されていますので、彼の性格を理解していたはずですが、命令に従うという軍人としての良識を期待していたのかもしれません。

こんな感じで、それぞれの失敗の原因を見ると、ラインハルト自身が持つ武人らしさや合理性を相手にも期待したが、相手がそれに応えずに失敗するという共通点があります。逆に、ラインハルトと同じく合理的で頭が良いヒルダやシルヴァーベルヒ、武人的だが命令に従う合理性も持っているミッターマイヤー、ミュラー、ワーレンなどは上手く使いこなし、成果を出せています。

優秀な経営者やマネージャーにありがちな失敗として、自分と同じレベルの考えや能力を部下に期待してしまうことがありますが、ラインハルトも見事にそれに陥っていたように思います。気をつけたいものですね。

※こうしたラインハルトの采配ミスを補い、人事上のアドバイスをしていたのがヒルダやオーベルシュタインですが、ヒルダは途中で皇妃になったことで政治的発言力を失い、オーベルシュタインは(ミッターマイヤーに「平地に乱を起こす」癖があると指摘されている通り)自身もトラブルメーカーです。彼ら以外に人事で頼れる部下がいなかったのがラインハルトの不幸かもしれません。

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