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ポケモンカードゲームがなぜ急に大復活ヒットしたのか、考えてみた

ポケモンカード、知ってますか?

その名の通り、ポケモンを題材としたトレーディングカードゲーム(以下、TCG)です。

最初のシリーズの発売は1996年。当時は初代ポケモンが空前の大ヒットを飛ばしていたこともあり、ポケモンカードもつられて大ヒットを記録しました。もちろん私も買いました。直撃世代なので。

が、これは瞬間最大風速のおはなしで、実はその後のポケモンカードはサッパリ存在感がなくなってしまい、10年以上もの間、ごく一部のTCGプレイヤーがプレイしている程度の立ち位置に甘んじ続けていたのです。

その間、国内TCG界のトップTierを走っていたのは「遊戯王」と「デュエルマスターズ」で、この2大タイトルに大きく水を開けられてポケモンカードを含む他の小規模タイトルが続いていくような状況。


ところが!!!

2018年の中ごろから周囲でも急速にポケモンカードのプレイヤーが増え始め、2018年の後半には新カードパックが発売されれば即売り切れ!というちょっとしたお祭り状態に。

軽く調べてみたところ、2017年対比の2018年は売上ベースで500%以上程度、2018年対比の2019年は300%以上程度になっているようなので、まぎれもない大ヒットを飛ばしているようです。
2017年対比の2019年で言ったら15倍とかになるので、これはすごいですね。(※数字の正確性は微妙ですが、とにかくすごく特異的に伸びているということ)

TCGタイトルの国内シェア率でみても、「遊戯王」や「デュエルマスターズ」と同格の売上を「ポケモンカード」が叩き出すようになり、いまや国内TCG界のトップTierタイトルに仲間入りしているようなのです。

ちなみに、実はnoteにもポケモンカードの記事がたくさんあります。
(例: ご家族でポケモンカードをプレイされている方のほっこりマガジン↓)

20年以上前に発売して一度は下火になったゲームがなぜいまさら大ヒット?

なんでや??? 一度は下火になったタイトルが大復活するなんて、TCGの常識から言ったら考えられないぞ?? なにかあるはず……なにかあるはずだ……。

と、思い続けてはや一年。

実は最近、会社のポケモン部でポケモンカードが流行っていたので、ビッグウェーブに乗ってデビューしてみました!

1996年にスターターパックを買ってすぐに飽きた以来のポケモンカード。
今やってみることで、この1年謎のままだった「ポケモンカードはなぜ大復活したのか」が理解るかもしれない。

そんな期待を胸にプレイしたみたところ…………

…………わかりました。完全理解。

いや、完全理解はさすがに言い過ぎかもしれませんが、プレイしての気付きとポケモンカードの歴史を照らし合わせていったところ、(あくまで個人的な見解になりますが)いくつかの復活要因がみえてきました。

「ポケモン」というコンテンツのパワー

具体的な要因をあげていく前に、前提の話をします。

冒頭で、TCG界は長らく「遊戯王」と「デュエルマスターズ」の2大勢力であった、と書きました。

これらはマンガが原作で、もともと一定のコンテンツパワーも有したうえで、ゲーム性も受け入れられてヒットしたゲームだと思います。

でも、よく考えてください。ぶっちゃけコンテンツパワーだけでいえばポケモンのほうが全然強いはずじゃないですか???

個人的には、遊戯王は穴があくほど読んだマンガでカードだけじゃなくてカプモンなんかも飽きるほど遊んだし、デュエルマスターズはコロコロコミックで始まった当時MTG(マジック・ザ・ギャザリング)プレイヤーだったこともあり思い入れの深いマンガです。

しかし、そんな名作たちでも、一大国民的コンテンツのポケモンと比較してしまえばコンテンツパワーの差は歴然だと思います。

とどのつまり、下火時代のポケモンカードはコンテンツパワーでは他タイトルに大差をつけているのに、そのわりに全然売れていないわけです。

逆に言えば「ポケモン」というコンテンツのパワーを活かしきれば素直にヒットするはず。
大ヒットコンテンツを新たにつくる!というよりは、「ポケモン」のカードゲームを売るうえで、しかるべきやるべきことをやるということが必要で、実際その形で復活したようにみえます。

要因1: ゲーム性の単純化

従来のポケモンカードは、ゲームを楽しむために考えなければならないことがやや多いゲーム性でした。

他のTCGと比べたら複雑なわけではなくむしろ簡単なほうなのですが、TCGプレイヤーにとっては簡単でも、TCGをプレイしたことない人にとっては面倒くさい・複雑だと感じる、「もう一歩」というさじ加減だったのです。

これが2016年末に発売されたサン&ムーンシリーズから変化しています。(その前のシリーズからきざしはある)

具体的には「GXポケモン」というカードタイプが追加になりました。超雑にいうと何も考えず最初からすぐ出せて強い攻撃ができるポケモンのことです。

これによって「強いポケモンをとりあえず場に出して」「なんか強そうな技で攻撃する」ぐらいでサクッと相手のポケモンを倒すことができ、特に初心者同士がより気軽に楽しめるゲーム性になりました。

この単純化は、ポケモンというコンテンツの特性を踏まえると、新規プレイヤーの定着に大いに貢献していると思います。

ポケモンは小さな子どもやライトゲーマーなども含め、マスに通用するコンテンツです。そういった人たちをTCGの世界に連れてくるには、このぐらいわかりやすいほうがいいでしょう。今のポケモンカードはTCGプレイヤーよりも、むしろ非TCGプレイヤーを強く意識してデザインされているのだと思います。

実際、今のポケモンカードのプレイヤーは非TCGプレイヤーが中心のようです。(他のTCGの売上もポケモンに食われて下がるどころか好調なので)

ところで、ゲーム性が単純になった!というと、特にコアゲーマーの方は「それじゃあ底が浅くなってすぐ飽きるんじゃないの?」と思いますよね。

これはある意味そのとおりなのですが、実際はあまりそう感じないようになっています。そのあたりは、次の項で説明します。

要因2: 発売サイクルの変化

従来、TCGは3ヶ月に一度ぐらいの頻度で新カードパックが出るのが一般的でした。今でも3ヶ月サイクルが主体のタイトルもあります。

でも、今の時代の情報流通速度を考えると、3ヶ月スパンは長すぎます。ひとりで、または友達と少ない情報の中であーでもないこーでもないとデッキを考えてた時代とは違い、インターネット経由で強いデッキや大会で優勝したデッキの情報がすぐに手に入ってしまうので、強くなるのも早いです。それだけ飽きがくるのも早い。

ポケモンカードも2015年ごろまでは3ヶ月に一度が通常の発売サイクルでした。2016年のサン&ムーンシリーズがスタートした前後は1ヶ月ないし2ヶ月のサイクルで発売するようになり、2018年の大ヒット前夜ごろからは毎月新カードパックが出るようになるというように、徐々に短期化しています。

発売サイクルの短期化にはふたつの効果があると思います。

ひとつは、マインドシェア。

短い頻度で発売されるほうが、ポケモンカードについて考える機会が増えるので定着しやすくなるし、ポケモンカードの情報に触れる機会も増やせるので、PRにもなります。これはWebサービスの改善&告知サイクルが短いほうがよいのと似た理屈です。

ふたつめは、飽きの解消。

TCGをやらない人にはイメージがわかないかもしれませんが、新しいカードパックが発売されると、その中のたった一枚のカードによって従来の戦略が通用しなくなることもよくあります。販売サイクルの短縮がデッキ・戦略の賞味期限も短縮し、新しいカードを使った戦略や対策が完成してしばらくすると、またすぐ次の課題がふってくる状態をつくりだします。これにより、先述した単純化のデメリットも打ち消します

ようは毎月続編ゲームが出るようなものです。1本1本は長く遊べないかもしれないけど、毎月新作をプレイしたらトータルでは長い時間遊べますよね。

要因3: YouTube進出

2016年にポケモンカードは20周年を迎え、ポケモンカード公式チャンネルがスタートしました。

公式チャンネル以外にも、ポケモンカードについての動画を毎日のようにあげているYouTuberが今ではたくさんいます。

YouTubeはもはやマスメディアみたいなものなので、ディープな層もライトな層もみているし、大人も子供もみています。どの層に対しても圧倒的に知名度がある「ポケモン」というつよつよIPを備えたポケモンカードは、すべてのTCGの中でYouTubeともっとも親和性が高いでしょう。

「お気に入りのYouTuberが紹介してるのをみてポケモンカードを始めた!」という人も多いし、毎日更新されるYouTubeの動画をみることで、学校の友達とカードの話で盛り上がるのに近い感覚を持てる。これもマインドシェアに寄与してますね。

しかもポケモンカードは一試合あたりの試合時間が短いゲームなので、YouTubeでみるのにちょうどいいです。

要因4: 500円デッキ

1〜3の条件が整ってきてあとはきっかけがあればヒットするという状況の中で、起爆スイッチになったのはコレです。

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(公式HPより引用)

通常TCGではスターターセットは1000円〜1500円程度するのがあたりまえのなかで、500円で遊べるセットが2018年7月に発売されました。

明らかな戦略的投資商品で、価格ももちろん破格なのですが、複数の(それまでポケモンカードと全く縁がなかった)人気YouTuberが発売当日に紹介していたりと、入念なPRを仕込んでいた様子もうかがえます。このデッキで初めてポケモンカードをプレイした人もたくさんいたと思います。

この価格設定は、子供が買いやすくなる効果もあると思いますが、むしろ初期ポケモン世代の大人にウケたのでは?と思ってます。

1500円だとちょっと気合がいるけど、500円なら「友達と一回遊んで終わるとしても、まぁいいか」と思える絶妙なライン。

初期ポケモン世代は親になっている人も多いですから、久しぶりにプレイしてハマって、子供と一緒に遊んだり……なんてこともありそうです。

このスターターデッキは、7月の発売時にすぐ売り切れたかと思うと、9月の再販時にも数時間程度で売り切れるという大ヒット商品でした。

ポケモンカードの復活は、「教科書どおり」だった

というわけで、まとめるとこうです↓

・ゲーム性を少し一般向けに調整して
・時代にあわせた販売サイクルにしたり
・プレイヤーとのコミュニケーションラインを築いて
↑新規プレイヤーの受け入れ体制を整えたうえで

・YouTube等を使ってPRをがんばり
・戦略的価格商品で一歩目のハードルを下げ
↑新規参入を促し、爆発的ヒットに至った

なにか飛び道具があったということではなく、2016年ごろ以降、本来の「ポケモン」の持つポテンシャルを発揮できるように数年かけてプロダクトとマーケティングを調整してきた結果なのかなと思いました。

まさに教科書どおり!といった感じですが、長い歴史を持つ商品でこれができたということがすごい。

2019年12月のスタン落ちでどうなる???

実に20年ぶりにポケモンカードをやっているのですが、やっぱりみんなでわいわいやると面白いですね、カードゲーム!

現代ポケモンカードのサクサクさ&とっつきやすさは、昔ほどゲームに時間を使わなくなった今の自分にとってもちょうどいいです。

ところで、TCGには「スタン落ち」というものがあります。

「公式大会のスタンダードなルールで使えていた古めのカードの一部が使えなくなる」という新陳代謝システムのことです。

このシステムによって、ゲームバランスのコントロールを容易にしたり、新規参入ハードルを下げたり、新しいカードの販売を促進したりするわけですが、デメリットとしてスタン落ちはゲームをやめるきっかけにもなり、一時的にプレイヤーが激減するのが通例です。

そして、ポケモンカードは2019年11月末に、大復活以降で初めてのスタン落ちを経験します。

個人的に、これまでのTCGの常識とは違う売れ方をしているようにみえるポケモンカードが、鬼門である「スタン落ち」をどう乗り越えるのか、ちょっとわくわくしてます。

通例どおり引退者が大量発生してしまうのか、それとも、なんなく跳ねのけてTCG業界のまだ見ぬ境地に到達するのか。

12月以降のポケモンカードをお楽しみに!

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