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食う寝るところに住む処


ずーっと抱えていた違和感が、40を超えて薄らぎつつある。

20代前半から38までずーっと地方で編集の仕事をしてきた。拘束時間は長いが、夢のある仕事ではあった。

取材したり、文章を書いたりしながら暮らしていた。自分の企画した特集がハネたり、記事の反響がでたり。そんなときは喜びも感じた。

ただ、労働環境は非常に厳しいものだった。校了前は夜中まで、朝も早い。えらい人は毎朝の朝礼で怒鳴り散らかす。有給は取れない。いくら働いても残業代はつかず手取りは十数万。思うことを書いたり発言したりしたら呼び出されて怒られる。トイレを素手で洗い、トイレに入ったらトイレットペーパーの三角折りを強いられる。

へんな会社だったなと思う。

それでも、好きなことだからなんとか続いていた。

38で思いがけないことがあり、転職をした。
編集から離れ、それでもまあ紙を中心にディレクションする仕事なので、前職に近しいところはある。でも本を作る仕事ではない。

寂しさはあるが、それより何より多幸感が上回る。

年収が跳ね上がり、欲しいもの、食べたいものがある程度思うように得られるようになった。

風邪をひいていないのに休んでも、誰も嫌な顔をしない環境になった。

旅行に行きたいとたった二日休んだだけで文句を言われるのはおかしなことだと初めて知った。

結婚やパートナーのあるなし、家族事情までつっこんで聞いてくる前職の人間関係がアットホームだと感じていたが、必要な時だけ最低限相手の事情を聞き、相手を尊重する優しさがあることを初めて知った。

違和感にもやついたりざらついたりしたときに、知らないふりをしてやり過ごしていたが、本当は砂を噛むような気持ちになっていたのだ。そんなことにすら気が付かなかった。ずっと、ずーっと嫌だったんだよ!今ならはっきり言えるよ!

生活>やりがい

生活が満たされることで、生きていることを実感する日々だ。20代のときはだせぇな!多少まずしくてもやりがいのある仕事を選んだ方がいいじゃねぇか!と思ったかもしれない。

でも、今はこのひりひりしない穏やかな暮らしが心地いい。なににも替え難いものだとつよく思う。

今日トイレに入って三角折りせずに出てくることができた。いつも勝手に手が動いてしまい、癖になっていたのだ。4年たってやっと呪いが解けたのである。万歳脱社畜!万歳私の暮らし!!

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