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20051003 体温計(3)

 水銀式の体温計$${^{*1}}$$はなぜ上がりっぱなしになっているか。水銀溜の近くが極端に細くなっていて$${^{*2}}$$膨張した水銀が戻りにくくなっているようにしてあるらしい。それにしてもなぜ体温計には水銀なのか。アルコール温度計$${^{*3}}$$でもいいような気がする。

 アルコール類では駄目らしい。水銀は表面張力が強い。表面張力$${^{*4}}$$とは、液体を構成する分子が互いに強く引き合って表面を丸くしようとする力である。つまりで凸凹の表面にはなりたがらず、できるだけぬぺっとした表面になろうとする。水銀はこの力が非常に強いので管の太さが変化$${^{*5}}$$すると凸凹を嫌って途切れてしまう$${^{*6}}$$。アルコールや水は、水銀よりも表面張力が弱いので、ちょっとやそっとの凸凹に従ってしまう。またアルコールや水の分子に含まれる水素原子はガラスを構成する酸素原子$${^{*7}}$$と強く引き合う$${^{*8}}$$ので、ガラス管の中に入っているとなかなか途切れない。

 体温を測定するために体温計を$${^{*9}}$$に入れて温度が上昇している時は、水銀が膨張して水銀溜まりからどんどん押し出されていくので管が極端に細くなっていたり曲がっていても$${^{*10}}$$途切れることはない。水銀と体温とが大体同じ温度になった頃、脇から体温計を取り出す。その瞬間から水銀の温度はどんどん冷えて室温に戻ろうとする。水銀が冷えて収縮するので押し出された管内の水銀は互いに引き合って水銀溜まりに戻ろうとするが、表面で引き合う力の方が強いので細く曲がった部分$${^{*11}}$$で水銀が途切れてしまう。途切れれば管に残った水銀はそれ以上水銀溜まりに引き込まれなくなり動かなくなるのでその時の体温を指し示したままになる。

 最近は電子式の体温計が普及してきたので水銀式の体温計を殆ど見なくなった。水銀は有毒$${^{*12}}$$であるということと電子式体温計の値段が下がったということが理由になっているだろう。電子式は電池が必要だが、水銀式は割らなければ半永久的に使える。割れなければ有毒も何もないのだが、ガラス製品なのでどうしても割れる場合がある。そこで水銀を使わなければ毒性の心配はない。

 アルコール類ならばいいかもしれないが、上述したように水銀でないと体温計にならない。水銀でなくとも表面張力が水銀並みの液体で無毒な物質を使えばいい。

 水銀の代わりに無害なガリウム$${^{*13}}$$を使った体温計$${^{*14}}$$がある。ガリウムの融点は29.8℃$${^{*15}}$$なので体温ぐらいの温度で液体になっている。この融点の低さを利用している。ガリウムは体温では融けるが、室温では固まってしまう。そこでガリウムに人体に無害な他の元素を混ぜて固まる温度を室温以下$${^{*16}}$$にしているようだ。

 電池を使わず無害ならガリウム体温計$${^{*17}}$$が普及しても良さそうだが、今まで見たことも聞いたこともない。

*1 20051002 体温計(2)
*2 テルモ ヘルスケア情報局[健康情報]-[体温計の歴史]-[水銀体温計豆知識]
*3 TDK Science Museum:温度と温度計の科学史
*4 表面張力
*5 Stock photography picture of constriction in a clinical thermometer
*6 AOS 3 Lecture Screens
*7 工業用ガラス-ガラス形成
*8 「自己組織化&自己集合」-ナノエレクトロニクス 表面張力による造形
*9 20041118 恐怖の報酬
*10 Clinical-thermometer.jpg
*11 留点温度計
*12 水銀が毒として働くとき
*13 ガリウム
*14 Non mercury Glass Basal Thermometer. Free Shipping :: Education by Design Store
*15 ガリウム(データノート)とは - コトバンク
*16 Galinstan: Information From Answers.com
*17 Allmed.net :: Catalog :: Diagnostics :: Thermometers :: Gerathermョ Non-Mercury Glass

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