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20050702 エレクトロン焼夷弾

 エレクトロン焼夷弾というのがあった。焼夷弾$${^{*1}}$$というのは、燃えやすい油脂や薬品が詰まった爆弾で攻撃目標を焼き払う事を目的とした爆弾のことである。太平洋戦争中、アメリカ軍による日本本土の攻撃の際、大量に用いられた$${^{*2}}$$。

 木造家屋の多い日本では甚大な被害を受けた。戦争において敵地攻撃の目的は敵軍の軍事力制圧にある。軍事施設が主に木造であればこの焼夷弾は理にかなった兵器あるが、木造の軍事施設など殆どない。明らかに一般市民を対象にした兵器である。非戦闘員に対する残虐行為は許し難い$${^{*3}}$$。ひとたび戦争が起これば理不尽な犠牲を強いられるのは一般市民である。終戦から六十年が経ようとしている今日、日本の多くの人々は戦争に対する想像力がかなり弱くなっている。焼夷弾が一般市民を狙い打ちした残虐な兵器であったと思わない。これが過ちを繰り返す要因になる。

 油脂が詰め込まれた焼夷弾のことは空襲を経験した父から聞いたことがあった。焼夷弾とはそう言うものだと思っていた。最近、「エレクトロン焼夷弾」という言葉を知った。油脂が入った焼夷弾とは違う。「エレクトロン」なのである。

 戦時中もこの言葉が用いられたらしい。砲台研究の大家であるネーモン氏$${^{*4}}$$に頂いた昭和二十年七月三十一日の横須賀海軍警備隊の軍極秘資料「横須賀海軍警備隊戦闘詳報 第六号」に記載されているのを見つけて知った。この詳報の最後に「エレクトロン焼夷弾ハ消火容易ナリ 浴室及倉庫ニ各十数発命中セルモ直ニ消火シ得タリ」とあった。

 エレクトロンと言えば電子$${^{*5}}$$である。ということは電子焼夷弾とは一体何のことだろう。それになぜ電子という言葉があるのにわざわざ「エレクトロン」としたのだろう。

 エレクトロン焼夷弾のエレクトロンは、電子という意味ではない。マグネシウム合金$${^{*6}}$$をエレクトロン$${^{*7}}$$と称するらしい。それにしても何故この合金をエレクトロンというのだろう。調べてみたがよく判らない。

 エレクトロン焼夷弾はこのエレクトロンが燃えるのだろうか。燃焼剤を入れる筒がエレクトロンでできていたようだ。燃焼剤は酸化鉄の粉とアルミニウムの粉を混ぜたものだったらしい。炸裂後はエレクトロン自体も燃えやすいのだろう。詰め込まれていた燃焼剤はテルミット$${^{*8}}$$と呼ばれる。ヒンデンブルク号の塗料にはこのテルミットが含まれていた$${^{*9}}$$ので、これがあの惨事$${^{*10}}$$の原因とされている。

*1 焼夷弾の筒(横浜空襲資料) 横浜市 総務局 行政部 法制課 横浜市史資料室
*2 東京大空襲・戦災資料センター
*3 20010926 焼夷弾
*4 20030927 遺構探訪(4)
*5 20010731 子の意味
*6 マグネシウム合金について|テストパネルの製造販売や試験片への加工の株式会社アサヒビーテクノ
*7 材料-エレクトロン
*8 テルミット反応
*9 20050628 ヒンデンブルク号の事故
*10 報道写真展 特別編

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