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20061101 玉虫厨子

 玉虫厨子$${^{*1}}$$というのがある。教科書に出てくるが、これが何のためのものかよく判らないまま憶えていた。とにかくタマムシの翅が貼り付けてある塔の小さな模型みたいなみたいなものだと思っていた。一度も実物を見たことがないので、高さが大体60cmぐらいと勝手に想像していた。

 実際は高さが227cmもあるようだ。それから厨子とは仏像を入れる箱だから仏壇みたいなもの$${^{*2}}$$と考えればいいらしい。この玉虫厨子が作られてから千四百年近く経過しているが、それに貼られているタマムシの翅の色は変化していないという。これは凄いことだ。タマムシの翅の色が変化しないこともそうだが、そういう素材を選んで使ったという先人の知恵が凄い。たまたま千四百年も保ったという結果なのだろうけど驚異的である。

 とは言っても残っている翅はほんのわずか$${^{*3}}$$らしい。玉虫厨子というぐらいだから全体に翅が貼ってあると思っていた。作られた当初は沢山貼ってあった$${^{*4}}$$に違いないが、千年以上も効く糊はなかったのかも知れない。

 物の色は大抵褪せる。タマムシの翅の色$${^{*5}}$$が褪せないのは、発色の仕方が少し変わっているからだ。タマムシの翅の色は構造色$${^{*6}}$$と呼ばれている。構造色$${^{*7}}$$というのは物体の微細な構造によって出てくる色$${^{*8}}$$のことで、CDの虹色やしゃぼん玉などの色がその例である。自然の物ではタマムシの他に孔雀の羽やある種の蝶の翅などもそうだ$${^{*9}}$$。CDの素材や石鹸水はもともと透明であるが、それらが光の波長に近い細かい凹凸になったり極薄い膜になって、太陽の光や電球の光が反射したり通過するとそれに含まれる特定の波長の光の強さが変化して色が現れてくる$${^{*10}}$$。

 普通の色は、その物に含まれている色の素によって現れる$${^{*11}}$$。色の素の化学的な構造が変化するとその色は変わってくる。物の色が褪せるのは熱や強い光によって色の素の化学的構造が変化するからである。一方、構造色は色の素とは関係ないので、物の微細な構造さえ変化しなければ色褪せしない。従って構造色の方が色の保ちが何となく良さそうな感じがする。まぁ、何れにしても色というは当てる光の色によって変化してしまうので、その物の不変の性質とは言い難い$${^{*12}}$$。

 当時、玉虫厨子を作った人はタマムシの翅の色が色の素ではなく構造色であるということに気付いていなかった$${^{*13}}$$に違いない。ぴかぴかした色なので普通の色とは区別をしていたのだろう。特殊な色だから厨子に貼ることを思い付いたのか。それとも子供の頃に捕まえたタマムシの死骸を見つけて色が褪せていないことに気付き、採用に至ったのかも知れない。

*1 国宝 玉虫厨子
*2 仏壇の知識/ウェブ仏具
*3 法隆寺国宝「玉虫厨子」に玉虫の羽が使われている。しかも玉虫の羽が2500ヶ所!!!
*4 玉虫厨子
*5 タマムシ(TEXT-kohiyama)
*6 ヤマトタマムシの翅は構造色
*7 魚の体色変化の不思議を探る-バーチャルラボラトリ
*8 10月号|企業情報|積水化学
*9 構造色の写真
*10 構造色
*11 赤い色素とか青い色素とかがありますが、どうして色がついているのですか?
*12 20040507 金属の色(2)
*13 タマムシの翅の構造色


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