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20061208 ヘマムショ入道と火間蟲入道

 ヘマムショ入道$${^{*1}}$$と呼ばれる落書きがある。「へのへのもへじ」「つるニハ(つる三ハ)◯◯ムし」のような絵文字である。こんな感じの絵$${^{*2}}$$だ。この絵は山東京伝$${^{*3}}$$の「奇妙図彙$${^{*4}}$$」に載っているヘマムショ入道である。この「奇妙図彙」には沢山の落書きが掲載されている$${^{*5}}$$。

 妖怪に「火間虫入道(ひまむしにゅうどう)$${^{*6}}$$」というのがいる。この絵は江戸時代の妖怪絵師である鳥山石燕$${^{*7}}$$の画図百鬼夜行に載っている。絵には次のような解説がある。

 火間蟲入道
「人生勤(つとむる)にあり。つとむる時は匱(とぼし)からず」といへり。生て時に益なく、うかりうかりと間(ひま)をぬすみて一生をおくるものは、死してもその靈ひまむし夜(よ)入道となりて、燈(ともしび)の油をねぶり、人の夜作(よなべ)をさまたぐるとなん。今訛(あやま)りてヘマムシとよぶは、へとひと五音相通(ごいんそうつう)也。

 とある。「匱(とぼし)」は乏しいの意味、「うかりうかり」とは浮かれて、「五音相通$${^{*8}}$$」とは、五十音図の同行の音が互いに変化する現象を指す言葉で、ここでは「ヒマムシ」の「ヒ」が「ヘマムシ」の「へ」に入れ替わったという意味である。ヘマムショ入道は室町時代からある$${^{*9}}$$ようなので、絵の解説はむしろその逆で、「ヘマムシ」から「ヒマムシ」を作ったのだろう。

 この「ヒマムシ」は「ゴキブリ」のことではないか、という説があるようだが、どうも納得がいかない。むしろ火間蟲入道の姿を見ていると「カマドウマ$${^{*10}}$$」に見えてくる。縁の下から猫背で行灯の油をなめている姿は、カマドウマの背中を髣髴とさせる。縁の下から巨大なカマドウマが出てきて上がり端(はな)の行灯の油を舐めるとしたらこんな感じになるのではないか。絵の左下には竃(かまど)と釜とが描かれている。これもカマドウマ(竃馬)を暗示しているかもしれない。

*1 へまむしょにゅうどう -にふだう 5 【ヘマムショ入道】の意味 国語辞典 - goo辞書
*2 hemamusyo_nyuudou.jpg
*3 20030611 己已巳
*4 [奇妙図彙] / 山東菴 [撰・画]
*5 請求記号:ヘ13_02822 33カット
*6 himamusi_nyuudou.jpg
*7 20030626 児玉と木霊
*8 ごいん-そうつう -ゐんさう- 1 0 【五韻相通】の意味 国語辞典 - goo辞書
*9 白隠の文字絵:第1回(花園大学国際禅学研究所)
*10 いきもの図鑑 (動物園新聞2002年冬号より)マダラカマドウマ

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