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20021224 ゲーデル数

 日常生活で使う大きな数はせいぜい「億」ぐらいまでだろう。あの屋敷は数億円ぐらいしたらしいとか、宝くじの一等は一億円だとかぐらいである。その上の「兆」や「京」は使わない。

「おっ、その腕時計格好いいな、高かったろう。いくらだった」
「五兆円」

といった冗談は言わない。余りにも大きな数$${^{*1}}$$は数えることがほぼ不可能になるので通常は使わない。

 大きな数は通常では想像できないような非常に沢山の量を表す場合に使える。宇宙に存在する原子の数はどれくらいか、と言われたら「$${10^{100}}$$(10の100乗)ぐらいだろう」といった具合に数文字で簡単に表せる。

 こうやって具体的な巨大数を考えることは簡単そうだが、すぐに行き詰まるような気がする。ただ単に百桁の数を作れと言われても最初にでたらめに数字を百個並べて、次にその数の何処かの桁を換えて二つ目の百桁の数を作り出すと言う作業になるだけであろう。これでは何ともつまらない。見た目に詰まらないのである。しかもその百桁の数は意味がないのでますます詰まらない。

 こう考えていくとそれ自体に意味を持った巨大な数$${^{*2}}$$というのは、何かの量として考えるのは限界がすぐに来そうである。

 ゲーデル$${^{*3}}$$という数学者が自然数の公理系に関する不完全性定理の証明$${^{*4}}$$をするために「ゲーデル数$${^{*5}}$$」という数を作った。「自然数の公理系に関する不完全性定理の証明$${^{*6}}$$」という短い文の中には「公理系」や「不完全性」などという聞き慣れない、もしくは聞いたことがあっても意味がよく判らない単語が二つも入っている。これではゲーデルが「何を証明」しようとしたのか説明にならないい。「自然数の公理系に関する不完全性定理の証明」とは矛盾がなくそれ自身が矛盾していないということを定理として証明できる自然数の理論体系を作ることは不可能であることを証明することで、ゲーデルはそれを「数学的に証明」した。

 定理は文字を使って記述されるので、文字で記述された様々な定理が矛盾がないかどうかを数学的に証明するために、ゲーデルは文字やその文字で構成される文章に番号を付ける工夫$${^{*7}}$$をした。それがゲーデル数である。ゲーデル自身がその番号をゲーデル数と名付けたのか後生の人々が名付けた*8のかは判らない。

 そのゲーデル数というのはとてつもなく大きな数になる。その数は素数の累乗の積で表され、その累乗はゲーデル数といった具合である。例えば$${2^n \times 3^m \times ...}$$の$${n=2^5 \times 3^7=69984}$$、$${m=2^{11} \times 3^{13}=3265173504}$$となっているのである。最初の項の$${2^n→2^{69984}}$$だけでも二万桁以上の数になるので、この調子で行けば宇宙の原子の総数を表す数よりも遙かに大きくなる。しかもその数自体に意味がある。

 具体的でしかも無茶苦茶大きな数が出来るというのはこのゲーデル数くらいしかないのではないかと思った。が、コンピュータ上の電子データは元はと言えば二進数で記述されているので、これを数と見なせば、現代では日常的にとてつもなく大きな数を扱っていることに気付いた。

*1 20021211 超巨大数
*2 HBM-01 数学-01 数詞アニメ
*3 Gödel, Kurt (1906-1978) -- from Eric Weisstein's World of Scientific Biography
*4 III.Godel - Page(5th.Takashi Tachibana)
*5 Godel Numberings
*6 ゲーデルへの道
*7 絵画会 ゲーデルの不完全性定理
*8 20010806 オイラー

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