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プロ吹奏楽団の客入が少なくて寂しい件をお金の面から考えてみる

以前から言われていることかもしれないし、最近SNSでよく見かけるようになっただけなのかもしれませんが、「プロ吹奏楽団」の客入りが少なくて寂しいなあ、という意見を見ることがあります。

やはり感情面で見れば、自分も盛り上がっている場所に居たいですから、もっと客入りが良ければさらに楽しめるのになあ、という意見には同感です。(鑑賞マナーの件は一旦置いておきます)

ここで、「じゃあどうすれば客入りが改善されるか」という割と枝葉的な話になっていきがちなのですが、ことお金の面から見てみると、そんなに悪いことでもないんじゃないか、という視点が生まれましたので少し考えたことをつらつらと(なんの学術的なデータもないままに)書いてみようかなと思います。

プロ吹奏楽団の客入りの少なさについては、「その年の吹奏楽コンクール課題曲を演奏した場合」と「そうでない場合」の落差と絡めて語られることも多いのかなという印象です。

そこで、仮に1,000席のキャパシティのホールと仮定して、売上について考えてみます。

吹奏楽コンクール課題曲を演奏する、クリニックをする、そういう演奏会の場合、主なターゲット顧客は「中学校や高校の生徒さん」と「顧問の教員」となるかと思います。

コンクールの課題曲を演奏するような部活であれば生徒数もそれなりにいらっしゃると思いますので、メインのお客様は生徒さんです。ここでは教員の方は申し訳ないのですが試算から外して考えます。

学生席というとだいたい500円から1,000円くらいかなと思います。

今回仮定した1,000席のホールを学生席(学生チケット)で完売させた場合を試算してみます。演奏者からのチケットのバラマキ(無料配布)もないと仮定します。

すると、
・学生席(500円)を1,000席完売した場合のチケット売上=50万円
・学生席(1,000円)を1,000席完売した場合のチケット売上=100万円

となります。

50万円では売上が到底足りないので(ホールって高いからね)以降は学生席を1,000円として考えましょう。

課題曲コンサートで1,000円の学生席が1,000席完売しました。売上は100万円です。ひとまずめでたい話です。

そして、そうではないコンサート(定期演奏会など)での客入りが少なかった。

例えばコンサートを聴きに行った「吹奏楽編成のクラシック音楽が好きな層」の人たちから「客席の半分も埋まっていなかった」というような嘆きがたまに発信されます。

この場合、つまり定期演奏会など吹奏楽コンクールと絡めなかった演奏会の場合、メインとなるターゲット顧客は「吹奏楽コンクールに臨む生徒」ではなく「吹奏楽編成のクラシック音楽が好きな層」、しかもそれなりに経済力のある大人、ということになるかと考えられます。(あくまでもメインのターゲット顧客が、です)

そこで、今度は学生席ではなく一般席で考えてみます。

一般席も価格帯は色々ですが、プロ吹奏楽団の価値を考えてここは5,000円で設定してみましょう。(もっと高くても売れるようになればそのほうが良いですが、それについても一旦置いておきます)

その場合、満席になった課題曲コンサートと同じ100万円の売上を上げるには、

100万÷5,000=200

つまり200席埋まれば(売れれば)良いわけです。

あくまでもお金の面からのみの視点で考えると、「客入りが少なかった」といっても、このホールの場合はキャパ(1,000席)の1/5が埋まれば課題曲コンサートと同じ売上になるわけですから、あまり悲嘆するものでもないのかなという話になります。

以上がお金の面からの話です。

視点を変えてみると意外と大丈夫そうに見えますよね。(実際の収支は知りませんが)

ただそうはいっても、演奏者のモチベーションや、客席の盛り上がり、より多くの利益を生んで活動を継続すること、そういったことを考えると、大人をメインターゲットとした、学生席より高額な一般席の販売が主目的となる演奏会でも、もっとお客様を呼びたいですよね。

楽団にも、使命や伝えたいこと、やりたいことがそれぞれにあると思います。企業で例えるなら「企業理念」のようなものです。

そこで、「200席(200人の聴衆)しかいないとそれが達成できない」のであれば、必要になるのが売上(客入り)を上げるための「戦略」です。

とはいえこの「戦略」、厄介なもので、正解がありません。

あくまでも各楽団ごとの「ゴール」に対して策定されるものですので、ケース・バイ・ケースなのです。

ただバラして考えてみればそんなに難しいことではなくて、「誰に」「何を」「どこで」売るか、という話なので、「演奏会のコンセプト」を決めること、そしてそのコンセプトについて発信していくのが良いかもしれません。コンセプトを決める際には必ず「誰に」「何を」「どこで」が付随してきますからね。

できれば同じコンセプトに基づいたシリーズを続けていくことが理想です。

今年はこれ、来年はあれ、とフラフラしていると、「この楽団は何がしたいのかな?」という印象となり、なかなかファンが付きにくいものです。よほど演奏が顧客の好みと合っていればコンセプトはどうでもいいかもしれませんが、おそらくその結果が200人とか、「客入りが少ない」という現状なのでしょう。

シリーズのコンセプトを根気強く発信して、200人から250人、250人から300人と、少しずつ、そのコンセプトの演奏会を楽しみにしてくださる「熱狂的なファン」を増やしていかねばなりません。(演奏のクオリティについては言わずもがなです)

コンセプトもいろいろです。「誰に」「何を」「どこで」によって変わってきます。

対象は人口ボリュームの多い40代なのか、50代なのか、それとも30代なのか、60代なのか。オタク層なのかそうでないのか。

演目は新作を中心にするのか、ノスタルジーを喚起するような作品を中心にするのか。それとも再演に恵まれない名作の発掘をするのか。

多種多様なコンセプトが生まれることと思います。

もしあるプロ吹奏楽団が、「ほんとは課題曲コンサートやりたくないんだよなあ」と思っていたとしたら、それをやらずに済むように、他の演奏会の収益を上げていく必要があります。

大事なことは、奇抜なコンセプトや「他にない演奏会」のような表面上の派手なことだけではなく(場合によってはそのほうが良い場合もあります)、「ターゲット顧客はそれを受け入れるかどうか?」です。

顧客の日常の連続性の中にスルッと入っていけるコンセプトかどうか。

つまり顧客が普段どんな曲を愛好していて、どんな曲をライブで聴きたいと考えているか、などです。そもそもそのターゲット顧客はライブに足を運ぶ層なのかどうか、ということも考えなければいけませんね。

「吹奏楽編成のクラシック音楽を聴いている」「演奏会に足を運ぶ可能性が日常の中にある」「子供が吹奏楽をやっているので少し興味や関わりがある」そういった日常の連続性を意識しなければいけません。

「コンセプト」と「ターゲット顧客の受容(需要ではなくて受容)」が両方揃うことで、初めて客入りの改善が生まれ始めるのではないかな、と思います。

日常の連続性という視点から考えると、「いままで吹奏楽編成の音楽を聴いたことがない人にも裾野を広げたい」という理念をお持ちの楽団の場合、連続性の切り口を上記とは変える必要が出てくるのがわかるかなと思います。

他に売上を補填する案としては、ファン向けのマーチャンダイズ(ブランドロゴやキャラクターなどを商品化した商品)を増やして、ネット通販で遠方のファンにも楽しんでもらいながら利益を増やす、というようなことも考えられますが、今回はそういうお話ではないのでやめておきます。

今日は「プロ吹奏楽団の客入が少なくて寂しい」という話を、感情視点ではなく金勘定視点から見てみました、というお話でした。

久しぶりに吹奏楽の話を書いたのですが、学術的なデータも何もない思いつきのパヤパヤなので、「そういう視点もあるよね」くらいで見てもらえればと思います。

普段からこういうことをプロ楽団の事務局の方たちは考えられていると思うので、外野の心配って意外と杞憂だったりするんじゃないかなー、と思ったりしている昨今です。

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