未踏に採択されるための戦略

2021年度未踏事業に「シェルスクリプトへのコンパイルを行う静的型付けスクリプト言語の開発」というテーマで採択されました。

未踏は若手のIT人材の登竜門であり、憧れの対象の一つでもあります。私も未踏に憧れを持っていた一人でもあります。

もちろん、その分採択へのハードルは非常に高いものがあります。ただ、未踏には独特の採択傾向があり、そのための戦略というのが間違いなく存在すると考えています。

未踏に採択されたい人に向けて、記憶の新しい今のうちに、私がとった戦略についてのメモを残しておきます。

当然ですが、これらは私がとった戦略であって、正解ではありません。他にも採択されるためにやったことを書いているブログ等はありますから、それらを参考にしつつ、後悔しないためにも自分の納得のいく方法をとってもらえればと思います。

1. 作りたいもののコアを明確にする

未踏に応募するのであれば、自分が作りたいものであることは絶対条件です。

しかし、完全に自分が作りたいものそのままである必要はありません。後述しますが、未踏に採択されるためには、ある程度の内容を調節すること重要です。応募するテーマについて、何が自分がやりたいことのコアであるのか、逆に言えば、そこまでこだわらない、変えてもいいという部分はどこなのかというのをまずは明確にするべきです。

2. PM ごとの採択傾向をみて、狙うPMを決める

未踏では、一人の PM に高い評価をもらえれば採択されるようです。そのため、各 PM の採択傾向を把握することが大切です。PM からのメッセージは公表されていますし、過去の採択テーマから見えることも多いです。

筑波大学のように未踏採択者を多く出している大学に属している場合、過去の採択テーマの提案書類を見せてもらえる機会があるという話も聞きます。私はそのようなつながりはありませんでしたが、利用できる場合は大いに利用しましょう。

私は竹迫PM担当プロジェクトとして採択されましたが、これは当初からの狙い通りの結果でした。過去の竹迫PM担当プロジェクトには「OSに依存しないキーマッピングのカスタマイズシステム」や「C++ユーザのためのパッケージマネージャの開発」など、ある意味でイノベーション性のそれほど高くないプロジェクトでも採択されている傾向が読み取れます。PMメッセージでも、『筋の良い「車輪の再発明」は大歓迎です』と書かれています。また、言語処理系が関係するテーマでの採択も一定数あり、このテーマで採択してもらえる可能性は十分にあるという公算がありました。

3. 内容を未踏にふさわしいものに調節する

未踏に採択されるためには、その名の通り未踏である必要があります。いくら車輪の再発名が大歓迎とは書かれていても、未踏性の一切ないものは採択されません。

まず間違いなく、世の中には似たようなソフトウェアが存在します。もしまったく存在しないように思えた場合、それは間違いなく調査不足です。

PMもそのあたりのことはわかっているはずなので、既存の似たようなソフトウェアがなにも書かれていないというのは、おそらくマイナス要因になります。

既存のソフトウェアに対して自分のアイデアの優位性が見つからない場合、ぶっちゃけでっちあげてしまえばよいのです。なにも最初に思い付いたアイデアだけで勝負する必要はありません。

たとえば、私が採択されたテーマでは、静的型付けというのは完全に未踏のための後付けです。また、世の中には bash へ変換する言語はいくつか存在するため、変換対象を POSIX 準拠のシェルスクリプトにすることで差別化を図っています。これもオリジナルのアイデアではなかったものです。

この内容を調節する段階で、作りたいもののコアを明確にしておくことが効いてきます。絶対に譲れないラインを設定しておくことで、それ以外については柔軟に変更することができます。

ただし、あまり夢を見すぎることはお勧めしません。あくまで、自分ができる範囲のことを目指しましょう。自分で実現できないテーマは採択されません。機械学習の基本的な知識を持たない状態で、機械学習ですごいことをするという提案をしても採択されません。私の場合も、二次審査ではコンパイラについてどのような勉強をしてきたかは質問されました。提案テーマを実現する技術があることは説明できるようにしておくべきです。

4. PoC 程度のプロトタイプは作っておく

最低限でもいいので、ある程度動作するプロトタイプは作るべきです。これには、提案の際に情熱をアピールできる、作り始めることでいろいろと整理されて問題点が見えてくるなどの効果があります。

加えて、採択された場合に、すでにある程度作業が進んでいるというのは大きいです。未踏に採択されることはもちろん大きな目標ではありますが、本当に大きな試練はむしろ採択されてからにあります。未踏に採択されれば、結果を出さなければなりません。皆実力のある人ばかりですから、その中で良い結果と認められる成果を出すのは簡単なことではありません。

もちろん契約期間外の作業にはお金は出ませんが、未踏の目的がお金であるという人はまずいないでしょう。

追記: 未踏採択を狙うことはアイデアの質を上げる

未踏に採択されることを目的にしてしまうのは不純な動機ではないかと思われるかもしれません。

しかし、それは逆です。既にあるアイデアを未踏採択を目的として調整することは、間違いなくアイデアの質を高めることにつながります。自分の頭だけで考えていたアイデアだったのが、他人からどう評価されるかを意識することで、より良いものになるはずです。

ただし、未踏に採択されるためにアイデアの根本を変えることはお勧めしません。譲れない部分、もっとも情熱を持っている部分は守るべきです。

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