見出し画像

「構造」と「スケール」 の話 (建築の話 その2)

「建築」と「アート」の違い

先日も書きましたが、私はバリバリの理系人間で建築学科に入ったので、最初に有名建築のドローイング(鉛筆によるデッサンーーそれもひたすら斜め45度に直線を引き続けその陰影だけで平面図を書くというある種の修行)を行なったり、数ミリ単位で模型づくりを行なったり、ということをやると知って初めて、芸術系の学科に入ったなぁ、という印象を持ちました。

そうなってくると、建築はアートなのか?という風に思い始めてきますし、高校の友達やサークル仲間にそういう話をしていると、「建築ってアートとどう違うの?」という話になりますが、結論から言うと、建築とアートの違いは、前回トピックであげた「コンセプト(=作品の全体につらぬかれた、骨格となる発想や観点)」の実現性のハードルの違いだと思います。

アートの中にも社会性のある(鋭く社会に切り込む)ものや役立つものがたくさんあると思いますが、それは基本的に作成者の思いやクライアントの思いを汲んだもので、ある意味そういう「コンセプト」の作品だと言うことができます。対する建築は社会的要請から機能性・安全性が求められ、様々な制約の中で純粋に「コンセプト」を体現するのは難しい。(実際に設計を仕事として行うと、要件整理や関係者との調整の割合が大きくなりコンセプトは見失いがちです、、、)

そんな中で建築のコンセプトを形にするために重要なのが、機能性や安全性を担保するされた空間を造るための「構造」と「スケール」ではないでしょうか?「構造」や「スケール」はコンセプトを制約するものであると同時に、コンセプトを体現するための重要な概念でもあるという話です。

「ホキ美術館」にみる構造

構造をテーマに好きな建築を挙げるとすると、日建設計の「ホキ美術館」です。内部は、写真で見るよりも奥行きが感じられる空間という印象で、意匠的には、自動扉のサッシュを設けず内外の壁を連続にしたり、バックヤードをガラス張りで見せたり、天井点検口を丸型にしたり、階段の天井をカーブにして垂れ壁扱いにしたり、建築好きがニヤニヤするような工夫がたくさんあります。

そういった意匠上の工夫もさることながら、やはりこの建築の強烈な特徴は、大きく張り出した筒状の構造でしょう。これはキャンティレバー(片持梁)というもので、本当だったらこんな無理をせずに箱の先端に柱を下ろせばいいのに、それをしません。

設計者のこだわりでしかないという風に見えなくもないですが、この張り出した筒が自立したような構造を採用することで「写実主義の絵画という森の中を一筆書きで散歩する」という、この美術館のコンセプトをより強固にしていると私は思います。(ちなみに、実際にはこの筒状の部分は奥の大きな構造体から持ち上げて支えています)コンセプトを体現するための構造的な表現は建築ならでは、という感じがします。

「代々木体育館」にみるスケール

トップ画面に掲載した代々木体育館は丹下健三という大大大建築家の代表作品なのですが、この建築は本当にすごい。(語彙力喪失)

2020年のオリンピックに向け、新国立競技場を建設中ですが、数年前にごたごたがありましたね。。。個人的にはザハ・ハディドが設計した当初案が東京にできれば、1964年のオリンピック時にできた代々木体育館に匹敵する作品ができる、と期待したものです。(現在建設中の隈研吾のものもそのうち愛着がわくと思いますが)キールアーチが支えるスタジアムは、構造的な必然性を感じる力強い建築です。

話を代々木体育館に戻します。トップに掲載した代々木体育館は、体育館という大きなスケール感の無柱空間を作り上げるのに、吊り橋と膜を組み合わせるような構造で解決しており、なんとも優美な佇まいです。これには丹下さんだけでなく構造設計の川口衛さんの存在も大きく関わっており、構造の話だけでもしっかりトピックが書けるような作品です。

ところで、丹下さんは戦後、若い頃から日本を代表するスター建築家として、広島原爆資料館や香川県庁舎等、様々な有名作品を残してきていますが、いずれもスケール感の操作が非常にうまいと感じます。

建築とアートの違いとして「スケール」という要素を挙げました。機能的に考えると、集まる人の人数、それによって必要な面積、階段や廊下幅、家具レイアウト等、保育園なら小さめに、老人ホームなら少しの段差もなくし、体育館なら天井高を高くし、、、様々な行動によってスケール感が規定されます。

そういった当たり前の要求も大切ですが、建築の中にはより根源的な人間のスケール感に訴えかけてくるものがあります。例えば、実際よりも広く見えたり、居心地のよい狭さを感じたり、張り詰めた空気感を表現したり、、、人間も動物なので、本能的に空間のスケール感から何かを感じ取ることができます。(そういった空間を実現するために構造が存在するとも言えます)

実際に、代々木体育館は体育館という広い空間でありながら、天井が中心に向かって高くなっているため、のぺっとせずにより緊張感のある空気を感じます。そして周囲に対してはこのなだからな曲線が威圧感を与えず優美にそこに佇むわけです。

まとめ(るの難しい…)

なんか文章がうまくまとまりませんが、アートの違いに着目して「構造」「スケール」というワードを紹介し、それらにまつわる建築の話を語ってみました。

前回書いたように、建築をその設計者の思想や発想から読み解くときにはコンセプトに着目することが重要ですが、そのコンセプトを実際の形に落とし込もうとしたときには、建築材料の性質や人間の身体性の問題から「構造」や「スケール」の制約は避けて通れないものです。しかし、それらを制約として捉えるのではなく、コンセプトを形にするための要素として捉え、アイディアや技術により、コンセプトをより強固に体現することができるのも建築の面白いところだと思います。

ざれーご

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?