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「意思決定」と「評価軸」の話 (建築の話 その5の3)

前回はポンポンと調子よく連日で投稿できたので、勢いでこのシリーズすっきり終わらせたいと思っていたのですが、「意思決定」や「評価軸」ということをスポットに当てて、自分の好きな建築を取り上げるのは難しく、しばらく筆が止まっていました。

前回までで「意思決定を行う建築主がフラフラしてたら、建つものも建たない、その最たる例が豊洲市場や新国立競技場だ」という話をしました。実際に、建築主が行政やそれに準ずる団体である場合は、いろんなシガラミもあり、責任が分散されて、我が事でなくなって、決定スピードが遅くなる、ということが侭あります。

また、「評価軸」が異なる市民・利用者を満足させるのは難しく、出来たあとの非難が一番少ないように、最大公約数をとった無難な建築となることが多いのも事実です。

いろんな人から愛される建築、というのはどういうものかというと、やはり美しい、カッコ良い、使いやすい、等いろんな要素がありえると思いますが、多くの人が「ここが好き」と思えるポイントが分散されている建築ではないでしょうか。多様な評価軸があること、その評価軸の中でいくつかのポイントは自分が納得できること、この「納得感」というところが重要だとお考えます。

先ほど手を止めて、いろいろ自分が見た、あるいは使った建築を思い出してみましたが、やはりなかなかそういった理想的な建築は思い浮かびません。「駅」というプログラムは、東京駅であれ、京都駅であれ、その他有名建築家が手がけたものなどでも、人が集い、思い思いの過ごし方・使い方をしているという点で理想に近いような気がしますが、基本的には電車に乗る、買い物をする、といった用事があって始めて訪れるところです。

建築家がワークショップで設計した公民館? フリースペースがおしゃれで使いやすい図書館? 大規模なスポーツ施設? 教会や劇場といったプログラムも人が集まりやすく、お気に入りの場所になっている人も多い建築も多数あると思います。

でも、もっと根底で「みんなが好きな場所」でなんとなく集まってしまう場所ってないかな、と思って思いを巡らせているとふと思い出しのたが鴨川でした。

鴨川のような建築は作れるか

私は京都人で鴨川までは歩いて15分くらいのところに実家があるので、やはり贔屓目に見てしまうのですが、この場所が好きです。

ここにはいろんな目的の人がいや目的がない人も、思い思いに人が集まってきます。デルタでは、水遊びをする子供から、青春を謳歌する大学生、社会に疲れたサラリーマン、ゆっくり散歩するお年寄り、あらゆる人が集まってきて、それはそれは絵になるわけです。

デルタでなくても、等間隔の法則でお馴染みのカップルの憩いの場となり、ストリートミュージシャンが演奏していると思えば、大道芸の練習をしている若者がいたり、その過ごし方は本当に千差万別で、でも共通してあるのは、鴨川が気持ちの良い場所だということではないでしょうか。。。

鴨川のように「みんなが好きな場所」を建築でできたら、それは素晴らしいことだし、やはり自然には敵わないなあと思いながらも、実はあの空間は荒れ狂う鴨川を治水しようというところから始まった土木工事の賜物でもあるわけで、そういった人の手が加えられたものでもあるわけです。以前テレビで、「里山というのは原生林と違って人の手が加えられて美しい景観を作り上げるという概念」というのをみたことがありますが、それも似たような話でしょうか。

やはり建築も、自然や街並みのコンテクストを具に読み取ったり、リノベーションする建物の元の姿や本来の意図を汲み取ったり、元ある環境を活かすことで重層性が増したり、様々な「評価軸」に耐えうる強度の建築ができると思います。その際には、やはり建築士や施工者だけでなく、意思決定を司る建築主の審美眼が重要になってくると思います。

まとめ

という感じで、月並みな意見でこのシリーズを終えたいと思います。

5回(+2回)を通じて、建築について書いてきましたが、結局何か面白いことが言えたわけではないですし、自分としては数年前、学生をやっていた時から思考が深まったとも思えません。

が、やはり書ききったことに意味がある、と思っています。デザインや設計というと、専門家の仕事のイメージがありますが、私はそれらの概念はむしろ思考方法のことだ、と思っています。キーワードにした10の言葉がありますが、中でも「コンセプト」や「スケール」「ディテール」「レイヤー」などのカタカナ用語は建築業界の人が当たり前に使う言葉ですが、建築を仕事にしていない人でもモノの見方として役に立つものだと思いますし、だからこそ素人的に(というか専門家でない)自分の思考をドライブさせるためにこういった文章を書いてみた次第です。

次回からまた別のこと(建築以外)をいろいろとタイピングしていきたいと思っています。もう少しテーマに縛られずに気ままに文章を書いていきたい、毎日とは言わずとも更新頻度を上げて、文章を書く練習を進めていきたいと思います。

ざれーご

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