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アメリカ製保健室(毎週ショートショートnote)

創立100年を記念した、僕らの学校の全面改修が終わった。
青銅色の巨大な門、そびえ立つ巨大な女神のモニュメント。
冷たい床はビロードの絨毯敷きに、
寒々しかった教室の蛍光灯はシャンデリアに変わった。
学食には特製チーズバーガーがお目見えだ。
アメリカに心底憧れる校長の、長年の夢だったらしい。

でも僕の心が躍ったのはやはり保健室だった。
ブロンドの髪も麗しい、アン先生が赴任してきたのだ。

「ダイジョブ、メヲトジテ」

毎夜眠れないまま登校し、保健室に直行する僕は、先生が優しく甘い声で歌ってくれる英語の子守歌に、心底癒されまくりだった。
薄暗く味気ないモグラの巣穴に太陽が差しこんだようだった。

半年ほどたったある日を境に、甘い子守歌は突如としてアメリカ国歌に変わった。

「アン先生、ど、どうしたんですか?」
「MAGA!」

先生はもう、それしか言わない。
心なしか、目つきも口調も攻撃的だ。

ーそうか。母国の大統領選が近いんだ。

(400字)



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