昔懐かしい商店街の入り口に立ち、夫婦で歓声をあげた。

「１度来てみたかったんだよな」

夫が嬉しそうに言う。

昭和あのころ通り。

その名のごとく、３００ｍほどの通りにレトロな風情の店が軒を連ねている。
本当に遠いあの頃にタイムスリップしたみたい。
私たちは腕を絡ませてそぞろ歩きを楽しむ。

電気屋のショーウインドーの前に長い行列ができていた。
皆の人気を集めているのは、４本脚のテレビよりも古めかしいリモコンのようだ。

『チャンネルの数字を押すと、その同じ年数分若返った貴方に戻れます。』

効果は２時間。
さらに同じ数字を２度押せばその倍、３度押せば３倍の年数戻れるという。

店員の説明を聞いている間にも、高齢のカップルが瞳を輝かせ店の奥へと吸い込まれていった。
私たちも列に並んだ。夫の鼻息が妙に荒い。

「早く押したい押したい押したい押したい、押したおしたいっ」


最後は聞き間違いかしら。
でも夫の額には、既にポツポツと赤いニキビが膨らみ始めている。

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