見出し画像

Une Semaine à Zazie Films 週刊ザジ通信【7月20日㈬~7月26日㈫】

いよいよ岩波ホールが今週金曜日、29日で閉館となります。閉館が発表になったのが、年明け1月11日。心の準備をするために、半年間の猶予をもらったような気になっていましたが、アッという間にその日はやって来てしまいました。閉館が発表になった直後は、その事実をすんなりと受け入れがたく、「存続のための署名運動をして、親会社の岩波不動産に決定を覆してもらうよう働きかけてはどうか?」とか「クラウドファウンディングを立ち上げてはどうか?」とか、そんな話が出ることもありましたが、やがて立ち消えてしまいました。当事者の皆さんがそうしたことを望まれず、静かに閉館して行く、という選択をされたのだと思います。

ならば、せめて“さよなら、岩波ホール”特集を組んでもらえないだろうか?と、誰もが考えたことでしょう。54年の間に上映された、66の国と地域、274本の中から厳選した「これぞ岩波!」と言うべき作品を並べて、日替わり、もしくは回替わりで上映する企画。バーチャルで勝手に番組編成させて頂くと…

先ずはエキプ・ド・シネマの活動の始まりの作品、サタジット・レイ監督の『大樹のうた』、ジョージア(グルジア)との深い結びつきの端緒となった『ピロスマニ』、時代時代を彩った大ヒット作の数々(『八月の鯨』、『宋家の三姉妹』、『山の郵便配達』、『おばあちゃんの家』、『大いなる沈黙へ』、『ニューヨーク公共図書館』)。ゆかりの監督たち(敬称略)の作品『痴呆性老人の世界』(羽田澄子)、『大理石の男』(アンジェイ・ワイダ)、『眠る男』(小栗康平)、『父と暮らせば』(黒木和雄)これらと肩を並べるにはヒット感が足りないけど『落穂拾い』(アニエス・ヴァルダ)も入れちゃえ(笑)。個人的趣味で『フィオナの海』と『ジプシーのとき』も!

画像1

しかしそうした特集も行われることはありませんでした。これも“普段と変わらない上映作品を、普段と変わらないまま上映して使命を終える”という道を、敢えてスタッフの皆さんが選んだのだと思います。“閉館”が結果的にイベント化してしまい、連日お祭り騒ぎになってしまうより、それはそれで“岩波ホールらしい”というか、“岩波ホールの矜持”ということなのかもしれません。

今回の閉館に際しては、多くの方が岩波ホールにまつわる様々なエピソードをブログで語ったり、ツイートしています。当通信では閉館の発表直後に、ザジと岩波さんの“馴れ初め”や、上映して頂いた配給作品について書いてしまっているので重複は避け、業界の方でもあまり書かないだろうと思われることに触れておきましょう。それは“岩波ホール忘年会伝説”(笑)。

岩波ホールは、毎年年末に劇場の下の9階にある広いスペース(岩波サロン、と呼ばれています)で、ホールゆかりの方や配給関係者や新聞の映画記者、映画評論家の方々を招いて、立食パーティ形式の忘年会を主催してくださっていました。コロナ禍の影響でここ3年は開催されていませんでしたが、参加者はおそらく延べ100名以上の大きな会。スタッフの皆さんにはもちろん、日頃お世話になっている顔見知りの出席者の方々に、まとめて年末のご挨拶が出来る、大変有り難いイベントでした。

画像2

私が参加し始めたのは、『落穂拾い』を公開した年からなので、今から20年前。当時、噂で「忘年会の後半はカラオケ大会になるらしい」と聞いていました。「岩波でカラオケ?イメージ合わない」と思われましたか?私も思ってました。が、しかし、噂は本当でした。中締め後にカラオケがセッティングされると、当時在職されていた経理担当のKさんが率先して「兄弟船」辺りを熱唱して場を温めてくださり、その後は有志が次々自慢ののどを聞かせてくれます。私も歌いましたとも!当時は30代だったので、出席者の中ではまだ若いほう。高年齢の方々にも聴いて頂けるよう「上海帰りのリル」やら「長崎の鐘」を選曲。いきなり手を取り合ってダンスを始める男性女性もいらっしゃったりして、「ここはダンスホールか!」という光景が繰り広げられるのでありました。岩波ホールを会場に、舞台「百物語」を上演し続けていた俳優の白石加代子さんも忘年会に参加されていた年もあって、白石さんの「みだれ髪」の生歌を聴けたのは貴重な体験でした。

しかしその“第二部”のカラオケタイムも、私が初めてマイクを握った数年後には、前述の経理担当Kさんが定年退職されたこともあってか行われなくなりました。実は私はMC役をKさんから引き継ぐ気マンマンだったので(なぜ外部の人間が!)突然のカラオケ終了にここだけの話、大きく落胆したのでありました(笑)。

岩波ホール閉館にあたって、忘年会のカラオケを思い出している方は、はたして業界内に何人いるのか、いや私以外にいるのか?という話もありますが、古き良き時代を懐かしく思い出して、しんみりしています。明日は、ホールにお別れを告げに行ってきます…。

texte de Daisuke SHIMURA

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?