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バレンタイン特別企画:クトゥルフ神話TRPGシナリオ「チョコの鍵」

前書き:
これ、アルシャードガイア(今セイヴァーだっけ)とかインセインでプレイした方がやりやすいよ。

はじめに:
 このシナリオは”クトゥルフ神話TRPG”に対応しているような気がするシナリオである。
 作りたての探索者、3~4人向けにデザインされているんじゃないかな。
 プレイ時間は探索者の作成時間とシナリオ製作者にツッコミを入れる時間を含まずに3~4時間前後を想定している。
 舞台は現代の日本、季節はバレンタインデーである。
 探索者は一緒に博物館に行く設定であり、初めから顔見知りである。探索者の職業は何でもよい。チョコレートが嫌いな探索者は製作してはならない。
 地名は特に考えていないので、適当に処理すること。

あらすじ:
 ある日、博物館で開催されていたマヤ文明展に見学しに行った探索者達は、そこで当時の製法で作られたチョコレート飲料をご馳走される。
 その日から、探索者達の夢の中に恐ろしい神が現れ、「チョコの鍵」を探すよう命じる。
 マヤ文明展の展示の監修を行っている棚岡宗歩(たなおか・そうぷ)教授が探索者達に接触を図り、探索者達に神の使命を果たすよう依頼する。
 探索者達がチョコの鍵を探すと、その鍵はるるいえ堂という古道具屋にあることが分かる。
 チョコの鍵を入手しようとした探索者達は、このチョコの鍵が無尽蔵のチョコが埋蔵する超チョコ次元に繋がるゲートを開く鍵であることを知る。
 実は、マヤ文明で信仰されていた神カイワンはハスターの異名の一つであり、マヤの人々にチョコレート飲料として黄金の蜂蜜酒を伝えたのであった。
 突如として襲来した黄金の蜂蜜酒チョコゴーレムと黄金の蜂蜜酒チョコアーマーに身を包んだ棚岡教授にるるいえ堂の守り(玄関扉)は突破され、チョコの鍵は奪われる。
 探索者達は街中に溢れ出すチョコをかき分け、マヤ文明展の企画で再現されたカイワンの祭壇まで辿り着き、超チョコ次元に繋がるゲートが完全に開放されるのを防がなければならない。

主要NPC:
 棚岡宗歩(たなおか・そうぷ)
 某大学の教授であり、マヤ文明の歴史文化を専門としている。
 中肉中背の柔和な人物であり、普段は温厚な人柄だが、専門の研究に関しては熱狂的である。学生時代はラグビーの選手としていい汗を流していた。
 マヤ文明の神々について記されたターナー写本を入手し、そこに書かれていたチョコレート飲料(黄金の蜂蜜酒)の製法を自ら実行し、飲料を試飲したところ、見事に黄金の蜂蜜酒中毒と化してしまった。
 加速度的に正気度を失った彼は、それに反比例するかのようにターナー写本の内容を理解し、カイワン(ハスター)信仰に目覚めた。
 彼は黄金の蜂蜜酒チョコレートをカイワンから賜った至宝と解釈しており、神の祝福であるチョコレートで世界を埋め尽くすことで世界は平和になるという、狂信者としてもいささかぶっ飛んだ思考に至っている。
 その結果、彼は黄金の蜂蜜酒チョコレートに魔力を付与し、自由自在に操るという独自の魔術を開発することに成功した。
 この呪文は彼の狂気と情熱が生み出した代物であり、他人には原理がさっぱり理解できない。

嘉多蘭弗(かた・らんどる)
 骨董店るるいえ堂の店主。
 チョコの鍵を所蔵しており、その危険性も理解している。
 

導入:
 バレンタインも近いある日、探索者達は博物館にマヤ文明展を見に行く。
 マヤ文明展の呼び物は、古代マヤの人々が神々に生贄を捧げたという神殿の祭壇の復元である。
《歴史》もしくは《オカルト》ロールに成功すると、この祭壇の再現度が非常に高く、マヤ文明の遺跡に存在した祭壇を現代の材料で完全再現したものだと分かる。
《マヤ文字》ロールに成功すると、祭壇に刻まれている神名がカイワン(Qai-hwann)であることが分かる。しかし、その後《オカルト》ロールを行い成功しても、カイワンという名前に心当たりはない。
 マヤ文明展の展示の終わり近くには、古代マヤの製法を再現したというチョコレート飲料「天空のショコアトル」の試飲会が開催されており、飲料が無料で振舞われている。
 探索者達には出来立ての飲料が手渡される。この飲料は大変魅力的な芳香を放っており、味もとても美味しい。
 飲料を飲んだ者は、全身に気力がみなぎり、五感が冴え渡るような気分になる。

悪夢:
 探索者達がマヤ文明展を見て帰宅し就寝すると、全員が同じ夢を見る。
 昼間に見た古代マヤ文明風の遺跡に集められた探索者達は、祭壇の前に巨大な人影が立っていることに気づく。
 人影はローブを纏っており、パレンゲの翡翠の仮面のようなのっぺりした仮面を顔に被っている。
 人影の上空には、怪鳥のような生き物がぐるりと輪を描いて飛んでおり、夜空には二つの月が浮かんでいる。《天文学》ロールに成功すると、二つの月や他の星の位置から、この場所は地球以外の星で太陽系の外であることが確信できる。
 ローブを纏った巨大な姿をした存在は、「鍵を探せ……」と告げる。
 《アイデア》ロールに成功した探索者は、この夢の光景がモノクロで、見えている全てのものに色が付いていないことに気づく。
 この夢を見た探索者は0/1D6の正気度を喪失する。
 

教授:
探索者達が手掛かりを求めてマヤ文明展に行くと、そこではマヤ文明展の展示の監修を行っている棚岡教授が講演会を開催している。
棚岡教授はマヤ文明の知られざる神カイワンについて語り、カイワンはローブをまとった姿で現れると言う。
教授は講演会の終了後、会場でしばらく片づけ作業を自分で行っている。
探索者達が教授に話を聞きに行くと、教授は気さくな態度で応対してくれる。
教授は探索者の質問に丁寧に回答してくれ、鍵の話を出すと目の色を変える。
君達もカイワンの啓示を受けたのかね、と言い出し、カイワンが「チョコの鍵」と呼ばれる神宝を求めているという夢を自分も見たと主張する。
カイワンはマヤ文明で密かに信仰されていた神であり、信仰する人々に平和と安らぎを与える神だと教授は主張する。《心理学》などで教授の真意を探っても、教授が心の底から神を信じていることが分かるだけである。
教授はカイワンの意思を叶えたいと熱っぽく語り、探索者に報酬を出すとまで言う。

チョコの鍵を求めて:
チョコの鍵の在処を探すには、《図書館》や《オカルト》などの技能でロールを行う必要がある。
《図書館》技能では、インターネットの記事で、チョコレートで作られた精巧な鍵という触れ込みの品がオークションで日本の古美術商に売却されたという内容のものを発見できる。
《オカルト》技能では、チョコレートの鍵というものが好事家の間で噂されており、魔女裁判時代のセイラムを初めとして、持ち主を転々とし、いずれの持ち主も心臓発作で亡くなっているという情報を入手できる。
これらの情報を手に入れた上で、もう一度《図書館》ロールを行うことで、チョコレートの鍵の現在の所有者がるるいえ堂という骨董店の店主であることが分かる。

るるいえ堂:
るるいえ堂(このシナリオは適当なので、るるいえ堂は東京にあるとは限らない)には店主の嘉多蘭弗(かた・らんどる)という40歳くらいの男性がいる。
探索者が彼にチョコの鍵があるかどうか聞くと、彼ははぐらかそうとする。
《説得》ロールに成功すると、しぶしぶチョコの鍵がるるいえ堂にあることを認める。
彼の話によると、チョコの鍵は門にして鍵なる神という存在が戯れに作り出したもので、チョコレートでできた世界に繋がる門を開閉できると言われている。
「伝説では、その世界のことは超チョコ次元と呼ばれている」

襲撃:
蘭弗が頭の悪い発言をした直後、るるいえ堂が突然物凄い勢いで揺れる。
探索者達が外に飛び出すと、茶色の巨人がるるいえ堂を揺さぶっている。
辺りに漂う甘い香りから、この巨人がチョコでできた存在であることはすぐに気づくことができる。
チョコゴーレムの全身は硬化したチョコで覆われており、探索者や蘭弗の攻撃を全く受け付けない。
場が混乱しているうちに、るるいえ堂に茶色の全身スーツのようなものを着込んだ人影が滑り込み、チョコの鍵を奪って逃げる。
変態の正体ははチョコスーツを着込んだ棚岡教授で、彼はチョコの鍵の力を用いて、この世界と超チョコ次元を繋げ、世界をチョコレートで満たし、偉大なる神カイワンに世界を捧げると小躍りしながら宣言する。
彼にグラップルなどを仕掛けても、表面がつるんと滑って掴めない。
教授はるるいえ堂の外に出ると、空中を飛んできた茶色の虫のようなものにチョコの鍵を渡してそのまま地面を滑るように逃走する。
とても人間が追いつける速度ではない。
一方、蘭弗は店を破壊しようとするチョコゴーレムに対し必死に抵抗し、ストーブを投げつける。
投げつけられたストーブはチョコゴーレムの巨体に命中し、焦げたチョコの匂いを漂わせると、その部位が溶けていく。
狂乱した蘭弗は溶けた部位に決死の飛び蹴りを敢行し、自らの足の骨と引き換えに、見事チョコゴーレムを粉砕することに成功する。
蘭弗は探索者達にチョコの鍵と世界の命運を託してリタイアする。

崩壊:
探索者達が自動車などを使ってマヤ文明展が開催されていた博物館に向かうと、街中をチョコでできた人間やチョコビヤーキーが闊歩し、多数のおばあさんがチョコチップクッキーを焼く終末的な光景を目撃する。
博物館へと続く道はチョコの海に埋め尽くされており、進入するにはこの海を超えなければならない。
一番手っ取り早い手段は《水泳》技能だが、キーパーはプレイヤーのアイデアを積極的に採用して構わない。
大量の氷やドライアイスを用意してチョコを固めて橋を作ろうとしたり、博物館に地下搬入路が無いか探したり、様々な手段が考えられるだろう。
あまりに破壊的な手段(どこかから爆発物を調達したり、博物館に重機で突っ込もうとしたり)を使用した場合には、チョコの海が実はチョコショゴスだったということにして、盛大に決戦をすると楽しいかもしれない。

儀式:
プレイヤーが博物館に侵入すると、その内部はチョコによって模された古代マヤ文明の遺跡と化している。
棚岡教授がいるのは、展示ホールの祭壇である。彼はチョコの鍵で儀式を行い続け、超チョコ次元へ通じる門を拡大している。
ホールの祭壇には、棚岡教授とチョコで出来たカイワン――ローブを纏い仮面を被った巨大な像が置かれている。あとチョコゴーレムも2体いる。
探索者達がホールに踏み込んだ時、既に儀式は半ば、5回の回転を済ませている。あと4回鍵を回すことで、超チョコ次元への門は完全に開け放たれ、地球上のすべての物質はチョコになる。
超チョコ時空への門が大きく開き始めると、突然ホールの周囲の空間に異変が生じる。黄金の蜂蜜酒の影響下にある人間(つまりこの場にいる全員)は、自分達が今いるホールが、現実世界から切り離されたことを自覚する。
そして、ホールの周囲からいきなり熱が発せられ、ホール内部のチョコが溶け始める。
ホールの外からは人間には到底再現できないような狂った旋律の鼻歌が聞こえ、ホールはゆっくりとした勢いで揺れ始める。
《アイデア》ロールに成功するか、狂気に陥っている探索者は、自分達のいるこの状況が湯煎されるチョコレートのボウルの内部のように感じられる。
このことに気づいた探索者が自分の感覚を研ぎ澄ませ(POW×5でロールする)と、自分達が今、蒼白のドミノマスクを付け、黄金製の黄の印で飾られた髪飾りをつけた美しくまばゆい女性によって湯煎されている真っ最中である光景を幻視してしまう。
彼女の名前はテッサリア、カルコサの王女にして最後の王の娘である。シナリオ冒頭の夢に出てきたのは、カイワン=ハスターではなく、実は彼女である。
敬愛する父親、黄衣の王にバレンタイン(に類する人類には理解できない何か特別な時空的座標)のチョコレートを贈るため、彼女は超チョコ時空のチョコレートを求めたのである。
この宇宙的家庭的真相に至った探索者は、1/1D10の正気度を喪失する。
棚岡教授は自分が勘違いしていることにも気づかず、探索者を警戒しながら儀式を完遂させることに専念している。
湯煎によって、チョコスーツを含む全てのチョコ製品は毎ラウンドごとに1D6の装甲を喪失する。

ハッピーバレンタイン:
チョコの鍵を奪取すると湯煎が終わり、ホールの周囲が極低温になったかと思うと、ホールが超自然的方向に傾けられる。
探索者達はホールのチョコが全て型に注がれるまでに脱出しなければならない。
脱出口になるのはチョコの鍵で開かれた超チョコ次元への扉のみである。
探索者達が超チョコ次元への扉に向かうためには、《水泳》技能で注がれるチョコの流れをかき分けて進むか、《登攀》技能で部屋の段差などを駆使して這い上がる必要がある。
これらのロールに失敗した場合、最後のチャンスとして、チョコが全て注がれる寸前、反り立つ急斜面と化したホールの床面を駆け上がり、《跳躍》技能ロールで扉に飛び込むことができる。
跳躍にも失敗した探索者は、チョコと共に奈落の彼方へと墜落して、チョコの海の中に水没し、そのまま固められる。
彼らが最期に見る光景は、娘が手作りしたチョコレートを食べようとする黄衣の王の蒼白の面の下の素顔である。

超チョコ次元:
超チョコ次元は文字通りチョコでできた世界であり、単に物質がチョコになっているだけではなく、次元に存在するあらゆる概念もチョコになっている。
例えば、時間は秒・分・時ではなくホワイトチョコ・ミルクチョコ・ストロベリーチョコである。
どういうことなのかって?私も超チョコ次元の存在じゃないからよく分からない。
とにかく、チョコの鍵をもう一度使用して、現実世界への扉を開かない限り、探索者達も超チョコ次元に浸食されてこの次元の存在へと還元されてしまう。

どっちに回す?:
探索者に要求される最後の選択肢、それはチョコの鍵をどちらに回すかということである。
探索者がチョコの鍵を握った時点で、脳裏には門を開く呪文が思い浮かび、呪文を唱えながら鍵を回すことで門を操作できることは理解できる。
しかし、その超自然的手段で得られた情報の中に、鍵をどちらに回すかは入っていない。
結論から言うと、必要なのは門を開くという意思で、鍵はどちらに回しても問題ないのだが、プレイヤーには悩んでもらおう。

門を開けば、超チョコ次元から帰還することができる。
博物館や街は未だチョコまみれだが、何とか宇宙的脅威は去った。
宇宙的家庭的恐怖を乗り切った探索者達が恐れるものなど……「このへんで、濃い紅茶が1杯怖い」

シナリオを解決した探索者は1D10の正気度ポイントを回復する。
手元にはチョコの鍵があるが……食べる?

・データ

チョコゴーレム
ゴリラや黒クマ、ゾウなどのデータを流用する。神話生物でも構わない。
具体的にどのデータを使うかは、キーパーの優しさと冷酷さに左右される。
ただし、装甲と正気度喪失の項目だけ、以下のものに置き換える。
装甲:12、ただし熱による攻撃によるダメージは、その量と同量分だけ装甲を減少させる。
何らかの手段で1点以上のダメージが通ると、全身のチョコが砕け即死する。
正気度喪失:0/1D6

チョコビヤーキー(超小型)
STR 1 CON 1 SIZ 1 DEX 25 HP 1
武器:なし
正気度喪失:0/1D2
チョコで作られたビヤーキー。小さい昆虫程度の大きさだが、空を飛ぶスピードは健在。
棚岡教授が探索者の監視に用いる。

棚岡教授
STR 12 CON 12 SIZ 13 INT 15 POW 14
DEX 13 APP 11 EDU 20 HP 21 DB +1D4
武器:
タックル、50%,ダメージDB
技能:《マヤ文字》92%,《ラグビー》50%,《説得》56%,《歴史》93%,《チョコ作り》50%
呪文:《チョコレートに魔力を付与する》《偉大なるカイワンの祈り》(ハスターの招来/退去)、《テツチャプトルのチャイムに魔力を付与する》、《ショコアトルの調合》(黄金の蜂蜜酒の製造)、《名状し難き誓い》(名状し難き約束)、《石の儀式》(ハスターの開放)

チョコスーツを着た教授
STR 32 CON 20 SIZ 21 INT 15 POW 14
DEX 22 APP 0 HP 21 DB +2D6
装甲:20、ただし熱による攻撃によるダメージは、その量と同量分だけ装甲を減少させる。
何らかの手段で1点以上のダメージが通ると、全身のチョコが砕け、通常の棚岡教授に戻る。
武器:
チョコビーム、35%,ダメージ1D6
巨大チョコボール、20%,ダメージ3D6+db
タックル、50%,ダメージDB
正気度喪失:0/1D6

チョコの鍵:
SIZ 1 POW 9
武器:心臓への甘美な苦痛 55%、ダメージ1D3
呪文:《超チョコ次元の門の創造》《心臓停止》
ヨグ=ソトースが作った?超チョコ次元へ通じる門を開閉する鍵。
どう頑張っても超チョコ次元にしか通じないため、まともな魔術師やカルティストの関心は引かない。
食べると消滅するが、いつの間にか再生する。
チョコの鍵を食べた者は、そのたびに心臓への甘美な苦痛を食らう。なお、チョコの鍵は食べても食べてもついもう一口……と手が伸びてしまう。

・ターナー写本
 英語。正気度ポイント喪失は1D2/1D6。〈クトゥルフ神話〉に+4%。 〈人類学〉に+1%。〈ナアカル語〉に+1%。研究し理解するために平均3週間。斜め読みに6時間。
呪文:偉大なるカイワンの祈り(ハスターの招来/退去)、テツチャプトルのチャイムに魔力を付与する、ショコアトルの調合(黄金の蜂蜜酒の製造)、名状し難き誓い(名状し難き約束)、石の儀式(ハスターの開放)

参考文献:
Bret Kramer "notes on the turner codex" Sentinel Hill Press, 2013.7
Oscar Rios "Ripples From Carcosa" Chaosium, 2014.8

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