20200428 ファミリー・マートってマフィアの直営店みたい

 春粧が極まり麗らかが各地を席巻していくと、どうやら柔らかな陽光に目覚めた草花が、それらを揺蕩させる風に乗せて花粉を娑婆中へ撒き散らし始めたらしい。
 僕は嚏をした。
 花粉症とかいう免疫の反逆を罹患している。風呂上がりには嚏がよく出る。洗濯し、日向に干されたバス・タオルに付着した花粉を吸い込んでしまった所為だろう。花粉程度の矮小な存在に僕の肺がきゅうと締め付けられ、下腹部に痛みを生むことがあってなるものか。顕微鏡でもなければよくよく視認できない癖に、人様の身体へ内部攻撃を試みるなど不躾千万である。何よりも腹が立つ事実は、これが奴らの交配に拠って引き起こされていることだ。どうして、聖人君子とも呼び声高きこの僕がこのような仕打ちを受けねばならない。セクスプロイテーション映画にあるような、ドラッグ蔓延するナイト・クラブでの乱痴気パーティ宜しく、雄しべと雌しべの遠隔乱交騒動に巻き込まれる必要がどこにある。草木国土悉皆成仏など生温い。奴らを御仏の御許に送ることができようか。ヤマトや佐川が配送しようと、断じて僕は送らない。何故なら悔しいからだ。
 僕はまた嚏をした。

 日々が過ぎ去り、過去の遺物とすら呼べない価値なきものへとなり腐るスピードというのはとても恐ろしい。緑豆もやしも舌を巻くスピード狂である。ややもすればハード・ラックとダンスっちまう可能性を孕んでいる。坂を際限なく転がり落ちる球体宜しく自乗の加速の止め時を失ったそいつに、僕は追いつこうという足掻きの素振りすら見せず、優雅に悠長に煙草をぷからぷからと呑んでいる。そうこうしていると、無聊を託つばかりの僕を慰撫するヘタイラの代替品である、ボアダム焚刑草が弾切れを起こす。伽藍堂になったハイライト・メンソールのソフト・パッケージをあらん限りの握力を以って握り潰した。
 そして僕は途方に暮れると、いそいそと支度を済ませコンビニエンス・ストアに向かう。
 無職に重なる外出自粛で、僕はただひたすらにぼうっとしていた。出かける先は近所のファミリー・マート以外にない。鰥男の僕がファミリー・マートに足を踏み入れることは許されるのだろうか。しかし、僕はファミリー・マートに行かなければならない。
 いつものようにチョコチップ・クッキー(ショートニング由来のざくざく感がとびきりのもの)と珈琲を手に取り、レジに向かえば238番を二つ注文する。そしてKさんという女性店員を眺める。鰥の分際で、分不相応なファミリーに割り入る理由が彼女だ。なんだか可愛い雰囲気を纏っているからだ。余分なことは話さない。気持ち悪がられるのばかりは避けたい。優良な客一号だか、二号だかでありたい。彼女の世界にいるストームトルーパーでありたい。「ああ、今日も元気に働いているなぁ」と眺めて退店をする。あなたとコンビになってみたい。
 僕は店先にあるスタンド灰皿の傍で煙草を吸った。外から大きな窓越しに店内を覗くと、ド助平成人誌を手に取るおっさんと目が合った。僕の行く末は彼なのかも知らない。そう思うと泣きたくなった。
 僕はひゅっと煙を吸い込むと噎せ返った。

映画観ます。