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わたしが見た建設業「写真家から見た建設業と現場の人の魅力〜写真で伝える建設業の魅力〜」

写真家 山崎エリナ

震災を経験して、道路の大切さを知る

 1995年の阪神淡路大震災を経験し、家は全壊になり、いつも利用して当たり前にあった道路は大きな亀裂が入っていて、高速道路が分断された光景を目の当たりにして「この先、神戸の街はどうなるんだろう」と不安で立ち竦んだあの日。どれだけ道路が大切なのか、道路が安全であることが当たり前だという思いは一転した。

インフラメンテナンスの現場を撮影するきっかけ

 これまで「世界を旅する写真家」「心象写真家」と呼ばれ、世界や日本での旅で、何気ない日常のありのままの姿を撮影した作品が多く、その中でも代表作の一つが写真集「ただいま おかえり」(小学館)の作品です。
 友人が住む熊本の球磨村を舞台にした3泊4日の旅の中であたかも故郷に帰ってきたような感覚で切り取ったショートストーリー写真集。この作品を見てくださった福島の建設会社の社長が「こんな物語性のある作品を撮る人が現場を撮ったらどうなるだろう」と、2017 年秋に撮影のオファーをいただいたことをきっかけにして、インフラメンテナンス現場の撮影活動がはじまった。

現場には真摯に向き合う姿があった

 ある日は道路舗装工事、トンネル内の道路補修、プレキャスト施工の現場、橋梁の吊り足場の狭い空間での橋脚補強するための作業など、いろいろ
な現場に訪れた中で1番に心動かされたのが「人」だったのです。初めての現場からそうでしたが、現場全体というよりは作業する人の連携作業の早さや経験を積んだ技術、真摯に向き合う姿に魅了させられ、気がついたら人ばかりを撮影していました。

写真が結ぶトンネル人生

 雪深い山形の水路トンネル工事を終えて、道具を置きに来て振り返った瞬間のとても自然ないい笑顔をレンズに向けてくれました。
 この写真を写真展で展示していると、偶然に足を運ばれた80代くらいの男性が、この写真の前でずっと佇んでいました。気になりお声をかけると、「私は昔、トンネル掘りをしておりまして、まさにこの笑顔は私のトンネル人生を表してくれている」と、涙ぐみながらお話ししてくれました。写真はこうして誰かの人生に寄り添えることができるのだと感じた大切な一枚でもあります。
 こちらは写真集「インフラメンテナンス 〜日本列島365日道路はこうして守られている〜」に掲載。

現場の一人一人がヒーローに見えた

 新潟の冬は海から吹き込んでくる想像以上の強風、凍りつくその風にもなんのそのと黙々と作業する姿に引き込まれて一人一人にスポットを当てて撮影したくなり、気がついたら作業する人の目の前50センチという至近距離で撮影していました。もう無我夢中でファインダー越しに映る一人一人に焦点を当てると、ふと見せてくださる笑顔がとても輝いていました。
 この写真は写真集『Civil Engineers 土木の肖像』に掲載。
 全国各地でもそうですが、これまで作業している間「辛い、暑い、寒い」といった言葉を現場の方から聞いたことがありません。どんな環境にも真摯に向き合う姿、精神力には頭が下がる思いになります。

写真を見て一般の方、女性から驚きの反応

 インフラメンテナンスなどの「現場では建設業のことを理解されにくい」、「何かあった時だけ批判される」罵倒を浴びることもあるということを現場の方々から聞きました。
 私が現場で感動した思いを写真で伝えたいという思いになり、これらの作品のインフラメンテナンス写真展を全国各地で開催しました。
 すると一般の方々から驚きの反応がありました。「これからは看板を見たら感謝して通るようにします」、「こうして守ってくれていたんだと知りました」、「写真から現場の方々の誇りを感じます」と、小さなお子さんも「ありがとう。みんなかっこいい」という言葉を最後に残してくれます。
 写真は建設業の魅力、人の魅力を伝える一つのツールになるのではないかと、現場撮影に携わらせていただいていることへのエールをいただいたような思いになりました。

建設業の希望の光

 地域の特性や現場を知り尽くしたベテランの方が若きホープに語りかける姿、それをしっかり受け止めるかのように聞き入る姿、この一瞬を切り取れた時、建設業の希望の光を見つけたような胸高なる思いになりました。
 こうして土木、建設など、私たちの暮らしを守ってくれている人がいることに感謝の想いが溢れます。写真集『ローカルゼネコンの素顔』に掲載。

土木のアポロ計画と呼ばれた巨大構造物と向き合って

 これまで人にクローズアップしてきた作品に加えて、巨大な構造物と向き合った時、橋脚が血の通った生き物に見えてきたり、構造物としての曲線美など、目線が広がっていった。
 しかし、これらを作り出し建設したのも人だと考えると、計り知れない技術の結集だということを知る。その巨大なトンネル、橋梁、道路を守っている人もまた人なのだ。
 そしてまた巨大な構造物に立ち向かう技術者たちの一瞬も逃したくない思いで追いかけてしまう。
 私にとっての建設業の魅力は現場最前線の人、現場を陰で支える人、各分野のエキスパートたち、やはり「人」なのだ。
 日本で誇れる人たちが全国の道路を守ってくれていることに感謝せずにはいられない。

[全建ジャーナル2023.7月号掲載]

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