落ち葉とくちづけ

玉石混淆。有象無象たちがひしめきあっていたGSブームであるが、そのなかでもアルバムを出せるなんていうバンドはまだいいほうで、ましてや主演を張れる映画が作られるなんていうバンドはよほどラッキーだったんだと思う。

ヴィレッジ・シンガーズである。今ではほとんど再評価されることのないヴィレッジ・シンガーズである。特にうるさ型のGSマニアからは、うとまれるであろうヴッレッジ・シンガーズである。

曲も「亜麻色の髪の乙女」とか、おとなしめなものばかりだし、ルックスもブルーコメッツみたいなおっさんぽい七三だし、今見てみるとなんの魅力も感じないのだが、そのヴッレッジを配して映画が作られたということは、リアルタイムにては相当な人気を得ていたのだろう。

だが、男のファンは一人もいなかったであろうと、勝手に想像する。

んで、そのヴィレッジを配した『 落葉とくちづけ』なんであるが、あのあまったるい感じのぜんぜんアシッドな雰囲気を出していないヤツらが、モップスみたいなカッコして、もの凄いガレージ度の高い曲を演奏する。

この曲は「亜麻色の髪の乙女」より、百倍は破壊力がある。セックス・ピストルズとまではいかなくても、ラモーンズがこの曲を聞いたらあなどれないと思っただろう。こういう曲をシングルとして売り出して行けばヴィレッジに対する後年の評価も変わっていただろうにと悔やまれる。

そのヴィレッジたちの友人が信子という女で、学生時代シェークスピアの演劇とか一諸にやっていた。その信子は現在、CMタレントをやっているが、くる仕事は怪獣の着ぐるみに入ったりとかばっかり。そのディレクターにベビー・白木みのる。

信子のお見合い相手に、若き日の蛾次さん。交番の警察に獅子てんや・わんや。化粧品のセールスガールに、どうにもとまらなくなる前の山本リンダ、と結構豪華と言うか異色な顔ぶれを揃えている。

でも、それだけではストーリーにならないので、田舎から仮面ライダーに変身する前の藤岡弘が上京してきて、信子をつけ回し、現在なら完全にストーキング行為として、警察のご厄介になる行為を続ける。

もともと藤岡と信子は同郷で、信子は二年前に記憶喪失になり、行方不明に。それを訪ねて藤岡はヤッケを着て東京にやってきた。そして信子に一諸に田舎に帰ろう、と言う。

当然、それを信子はキモイと思い拒絶する。

そんなキモイ、仮面ライダー一号に変身する前の藤岡なのだが、漫画家志望でもあった。「コミックパンチ」という明らかに、「平凡パンチ」を意識した雑誌に作品を持ち込むが、

「君のは現代的感覚がないんだよ。もっと若者は刺激的なものを求めているんだよ」

と、編集長にどやしつけられしょげかえるが、以後編集者の香山美子に目をかけられ、ペンキ屋のバイトを続けながら、漫画を描いてゆく。ここでの香山美子もやはりいい。

ということはさておいて、この作品の最大の目玉はストーリーに絡んでくることはないのだが、あのオックス、失神で一世を風靡したオックスの動く映像を見られるということだ!しかも場所は新宿にあった伝説のゴーゴークラブACB(アシベ)。

オックスが巻き起こした失神現象について、学者が分析したりするのだが、これでメンバーのインタビューとか撮っていたら完璧だったと言える。

いや、なぜオックスをフィーチャーした映画を作らなかったのか?会社としては、いいとこの坊や的なヴィレッジで手堅くいこうと思ったのかもしれないが、それではまったくもって「若者は刺激的なものを求めているんだよ」という声には答えられないではないか!

ヴィレッジが演奏しているシーンを見ても、

「あー。あのテスコのアンプとかキーボード、今じゃ相当プレミアがついてるんだろうな」

とか余裕で見ていられるのであるが、オックスが出てきた瞬間、もう目は画面に釘付けになってしまう。そんな破壊力をオックスは持っている。

ちなみに実際のオックスは他のバンドにすぐにケンカ吹っかけるわ、演奏終盤には機材をぶっ壊すわで、その編み上げのブーツを履いたアイドル的ルックスとは裏腹に相当ワイルドなバンドだったらしい。

余談だが、なぜオックスを主演にした映画がなかったのかと思った俺は、10年くらい前にそれを漫画にして「アックス」に送ったら林静一先生から個人賞をいただき、それ以後本格的に漫画を描くようになった。

幻のオックス主演映画を漫画にしてみる。そのアイデアがなかったら、漫画道を歩むこともなかったかもしれない。そういう訳で俺にとって、オックスはすごい思い入れの強いバンドなのである。

信子はしつこい藤岡の話を聞いているうちに、ノイローゼになりそうになっていた。そしてGS映画のパターンなのだが、今までつき合っていたヴィレッジは偽物だったことが分り、自分が本当に記憶喪失なのではないかと思い始めていた。

藤岡の語る故郷。そこには茅葺き屋根の家があり、その軒先には干し柿が吊るしてあるという日本の原風景とでもいうべき姿があった。

だんだん頭おかしくなってきた信子は、藤岡に惹かれ始め、ふたりして街のポストや車、看板、ありとあらゆるものを白いペンキで塗り始めた。

ビートルズの二枚組アルバム、通称「ホワイトアルバム」をなにも印刷されていない白一色にしては、と提案したのはヨーコ・オノであったが、藤岡と信子の街を白一色で塗りつぶすというアイデアは、ヨーコ・オノを凌駕するものであったのか?それともそこからインスパイアされたものだったのか?

田舎の駅に降り立ったふたり。ふたりは山奥を目指して歩き始める。

だが、一向にして集落は見えてこない。

「まだ?どこまでいくの?」

「あとちょっとだ。あの峠を登ったところなんだ」

そして、ふたりの眼前に広がったのは・・・

なにもない荒涼とした荒れ地だった。

立ち尽くす信子。呆然としていた藤岡は走り出し、膝を突き号泣する。記憶喪失で頭おかしかったのは藤岡のほうだったのだ。

ここに高度経済成長のなかで消えていった農村。そして故郷を失った失郷民の姿を見ることはできないだろうか?

って、そんなの完全な深読みしすぎなだけなんだけど。

その後、香山美子のもとに藤岡から漫画の原稿が送られてくる。

そこには枯葉のなかに埋もれた、藤岡と信子がモデルとなっているふたりの姿があった。

しかし、そんなセンチなことはどうてでもいい!とにかく絶叫をあげるオックスの映像美に注目すべし! 

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高橋宏幸

気まぐれな漫画家、イラストレーターです。そして大の映画好き。これからどんなことを描こうか、書こうかと日々奮闘中。http://makcolli.wixsite.com/hiroyukitakahashi
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