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リトル・ガンファイト



リトル・ガンファイト 作/絵 LAIN.
1章 決闘

子供の想像力の高さは大人にはとても真似できません。しかしそんな大人もかつては子供であったことは確かです。歳を取ってもあの頃のような自分の世界というものを失わないでいられたら、人生はきっと楽しく感じられるのかもしれませんね。
これは、ジリジリと太陽が輝く8月の暑い日。誰も知らないところで、とある決闘が行われていました。白い建物が並ぶ誰もいない街、本来なら車が通っていそうな道路の真ん中で2人のガンマンが睨みを効かせていた。
2人の黒い影がしばらくピクリともしないまま静止していたその時、静寂に飽きた男は口を開け言った。
ガンツ「ふっふっ、か弱いお嬢さんにそんな"ぶっそう"なものは似合わないぜ」
ウータン「ぶっそう?銃は私にとって、飼い猫やデザートのように愛しいものよ。それをぶっそうだなんて、ずいぶん、あきれた臆病者みたいね」
ガンツ「なるほど、よく分かった。お前は泣いて謝ってももう逃げられないぞ。この俺様に逆らって、生きていられる奴は一人もいない!生意気な口を聞いた罰を与えてやるぞ」

そう言って右手にリボルバーを構えたのは、焼けた肌にカーボーイハットを被り、サングラスをかけた身長106cmの男、ガンツ。対するは右手にオートマティックを持った水色のツインテールにクールなつり目が特徴の女ウータン。同じく身長106cm。
ズドンッ!
ウータンが先に発砲した。
ズドンズドンッ!
ガンツも負けじと打ち返す。
ウータン「その程度?」
ガンツ「こっちのセリフだ!」
お互いの服や肌をかすめ銃弾はあらゆる方向に飛び散っては周囲の壁やガラスを破壊する。風は穏やか、天気もいい夏の日、ただひたすらに銃声を響かせながら、お互いの力量を探る人。銃とは撃つごとに弾が減っていくもの、決着が長引けばその分リロードタイムも多く取らねばならない。しかしそれこそが銃好きにはたまらないポイントでもあるのです。ウータンの使うオートマティックの装弾数は10発、対するガンツのリボルバーは6発だった。

ガンツ「チッ、弾切れか...」
ガチャッ チャリンチャリンッ! スチャッ
ガンツはシリンダーを開けると1秒もかからず6発の弾丸を装填して見せた後、即座に銃口を向け、ウータンの顔目掛けて発砲した。ギリギリで建物の影に飛び込み、銃弾を避けたが流石に動揺を隠せない。
ウータン「(スピードローダーも無しにあの速さ、リボルバーの弱点は装弾数の少なさとリロードに時間がかかること、まるで隙がないわ...)」
ガンツ「見たか、まさに俺のリロードはレボリューション(革命)だ!」

舞台は変わり西部開拓時代のアメリカ、タンブルウィードが転がり、砂煙が舞う中でリロードと発砲を繰り返しながら2人は撃ち合っていた。

ガンツ「ここまで食いついてくるとは驚いた、しかしそろそろ終わりにしよう。俺様の家に代々受け継がれてきた銃で仕留めてやろう。」
ウータン「...!」
ガンツが取り出したのはきらびやかな装飾品で飾られた特注のリボルバー、ここでウータンは賭けに出た。何発もの弾丸を連射しながらガンツに向かって走っていく。すかさず打ち返すがギリギリで弾を避けるウータン、弾切れをお越し素早くリロードしようとするガンツだったが、いつもの銃に比べていくらか重量のあるリボルバーでは手元が狂う。その隙を狙って彼のリボルバーを撃ち払う。

ガンツ「ぐわぁ!お、俺のっ」
ウータン「くらえ!」
彼の顔に飛び撃りを食らわし倒れた彼に馬乗りになって額に銃口を突きつけた。
ウータン「格好付けて慣れない銃を使うからよ。確かに良い銃だけど、その彫刻 (エングレーブ) は何の戦術的優位性 (タクティカル・アドバンテージ) もないわ。」
ガンツ「くそっ!何だお前!闇雲に突っ込んでくるなんて...」
ウータン「私の中で銃は二番目、一番の武器は敵を倒すためなら何でもする強いハートにあるわ」
ガンツ「理解し難いな...」

その時、2人の周りにぞろぞろと足音を立てて、柄の悪い男たちが集まってきた。その中の一人がくわえタバコを道に吐き捨て、目をこれでもかと開いて大声を出した。
ならず者「お前ら賞金首だな!20,0000ポンドと80,000ポンド!」
ガンツ「80,000ポンドだぁ!?」
ウータン「あんたらに用は無い、こっちの邪魔しないで」
ならず者「けっけっ、2人合わせて100,000ポンド。こんな良い金ズルが目の前にいるってのに帰るわけねぇだろよ。お前ら行くぞぉ!」

ならず者は荒々しく周りを焚きつけこちらに向けて迫ってくる。ウータンに起こされジャケットの砂を払うと使い慣れたいつものリボルバーを取り出してめくばせした。
ガンツ「仕方ない、一時休戦だ。」
ウータン「いいわ、勝手に死なないでよね」
ガンツ「こっちのセリフさ」

3章 共闘

20人余りのならず者たちは2人に雄叫びをあげて突っ込んで行ったが、恐るべき速さでみるみるうちに倒れていく。2人の凄腕ガンマンにとっては大きな的はかえって狙いやすい。ならず者が半数ほどまで減ったところで、さっきの一人が小汚い馬車から使い古しのボルトアクションライフルを取り出してきた。それを見て思わず2人は叫んだ。
ウータン&ガンツ「はっ!ボルトアクションライフル!」
ウータン「あれほしい!」
ガンツ「ま、待て!」

ならず者は馬にまたがり、2人から距離を取りながら長距離狙撃に長けたボルトアクションライフルを発砲した。ウータンは早くあの銃の重量感やコッキングの感触を味わいたかった。残りのならず者をガンツに押し付け、馬を追いかけるが人の足では流石に追いつけない。そこで、近くにあった荷車から干草を拝借し、それを馬に見せて注意を引いた。
ならず者「お、おい!言うことを聞け!」
ならず者からボルトアクションライフルを奪ったウータンは満足げに笑みを浮かべると、クリップに弾を付けてライフルに装填、残っていたならず者を次々と打ち倒した。
ガンツ「ズルいぞ!俺様にも使わせろ!」

4章 決着
また舞台変わって今度は戦場へ、辺り一面は焼け野原となり灰色の煙が立ち上っている。アサルトライフルを抱え走るウータンとガトリングガンを打ちまくるガンツ。
ウータン「うおおおおおおっ」
ガンツ「当たれ当たれぇぇ!」

流石の二人にも疲れが見え始めていたその時、ウータンの足元から「カチッ」という音が鳴った。
ドカーーーーンッ!!
それは地雷だった、もちろん死んではいない。真っ黒焦げになって地面に這いつくばるウータンに勝利の笑いと共に近づいていくガンツ。
ガンツ「気を付けるべきは俺様だけとは限らないのさ、初めに言った通り逆らうものは生きては返さない。勝負の世界に情けは無用だ、お前もそれは分かるだろう?」
ウータン「...その通りね」

リボルバーを取り出してトドメを刺そうとするガンツ、しかしウータンは奥の手を隠し持っていた。
バンッ!
ウータンが発砲したのはデリンジャー、護身用に使われる小型の拳銃だ。撃たれたガンツの腹から血がドバドバと流れる。歯を食いしばり、フラ付きながらも負けじとガンツが出してきたのはピストルグレネード、しかし弾をこめる事も出来ず地面に落としてしまう。それを拾い上げゆっくりと落ちた弾を拾い、銃にこめるウータン。二度と立ち上がることはないといった程に深く地面にへたりこむガンツ。今まで銃一筋、賞金首を襲っては得意の高速リロードを駆使して大金を手にしてきた。しかし突如、勝負をふっかけてきた女に初めての敗北をあじあわされたのだった。
ガンツ「はぁ...はぁ...そいつでトドメをさすがいいさ。お前は今までで一番手強い相手だった、こんなにも楽しい勝負はした事がない。...さぁ、最後は綺麗な花火に変えてくれよ。」


その言葉を聞いたウータンは短い沈黙の後、銃口を空に向けてグレネードを発射した。弾は上空で光と爆音を轟かせ爆発した。そして唖然とするガンツに穏やかな口調で語りかける。


ウータン「あのリロードは見事だったわ。リボルバーでもオートマティック以上の早撃ちが出来るなんて驚かされた。私は旅をしているの、良さそうな相手を見つけて腕を磨くために。負けた事を周りに言いふらして欲しくなければ、一緒に旅をしない?」
ガンツ「お、俺がお前と?」
ウータン「その通り、競う相手がいた方が鍛えやすい。あなたはそれにピッタリ!
まさに、いいセンスうぼばばばばばば...」


突然、頭から水をかけられたウータン、気が付くと周りは自分達と同じ幼稚園児だらけ。今日はプールで遊ぶ日でした。

5章 空想
キャッキャと遊ぶ園児たち、ウータンとガンツは5歳の年長さん。今までのガンファイトは全て二人の頭の中で起きていた事なのでした。無口な子供だった為、先生たちもどう接すれば良いか困っていたが当の本人たちは今日もまた、水鉄砲やおもちゃのピストルを片手に空想の戦いを繰り広げていたのでした。そんな二人が成長し、数年ぶりに再会した後に結婚。夫婦で射撃場を営むようになるとはこの時は誰も考えていませんでした。

(完)

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