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獣とて、剣に焦がれることはある。 山の主を喰い殺し、妖魔さえ己が獲物とした魔狼は、その日生まれて初めて自身の脚より迅く、自身の牙より鋭いモノを見た。 近くの国に名を轟かせる剣豪、武路譲羽の剣である。 魔狼の牙を凌ぎ、駆ける爪に先んじて繰り出される斬撃に、魔狼は美しい黒毛を幾度となく裂かれた。けれど譲羽は魔狼の返り血さえ浴びることなく、涼しい顔をして月下に立っている。 魔狼は思った。この人間に勝つことは出来ない。 であればせめて。この山で最強を誇った牙の持ち主と