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逆噴射小説賞応募作

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物語の『書き出し』だけの小説賞。 逆噴射小説賞に応募した作品をまとめたマガジンです。 ※第一回賞は400文字、第二回賞は800文字の冒頭のみです ※ごく一部の作品を除き、続きは… もっと読む
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#逆噴射小説大賞2019

金剛石《ダイアモンド》の弾丸籠めて

「いいか? 撃てる弾は五発だけだ」  彼の声は、脳に直接響いてきた。  軽薄な、いつでも笑いの混じった高い声。  悪魔、と名乗られた時、だから私は驚きはしなかった。 「五発分は契約しちまったからな。アンタにも撃たせてやる」 「でも貴方、リボルバーなのでしょう? 六発目が撃てる筈じゃない」 「ギャハッ! 確かに、確かになァ! アンタ頭良いぜェ!」 「……馬鹿にしている、のかしら」  溜め息が出る。馬鹿にされるのは嫌いだった。  叶うのならば、この悪魔の宿った拳銃を、井戸の

I・F ライフアシスト疑似人格イマジナリー

「とりあえず、撒けたか?」 『近くにはいないね。でも、モードが解除されない……』  夕方の街。暗い路地裏でしゃがみ込むオレに、スタッグは言いにくそうに答えた。  顔を上げると、確かに視界の片隅には、戦闘中を示すウィンドウが残っている。 「ってことは、まだどっかにはいるのか」 『ごめんね、トウマ。何か変なんだ……』  宙に浮いていたスタッグが、俺の隣に降りてくる。  オレより少し低い身長の、クワガタモチーフの人型デザイン。  子どもっぽい声もその仕草も、普段と何一つ変わらない

息苦しくも生きて行く

(……何を間違えた?)  荒い呼吸を繰り返しながら、俺は曖昧な自問自答を続ける。  弟に酸素マガジンを渡した事。それは正しい行いだったはずだ。  今の配給酸素じゃ、次の発作で確実に息の根が止まる。  けど、そのせいで今度は俺の酸素が足りなくなった。次の配給どころか、三日後には自然呼吸もままならなくなるだろう。 (だから、ここへ来たのは間違いじゃない)  思った途端、熱い光線が頬を撫でる。  チリ、と嫌な音がして、激しい痛みが顔を襲った。 「っが……!」 「はいはい、足を

刀鬼、両断仕る

 夜明けから間もなくの、曇天。  山と山の狭間に開けた草原に、つんとした血の匂いが漂う。 「……あぁ、良いな」  小さく、男が呟いた。  返り血に全身を染めた男は、薄暗い空に己の得物を掲げる。  白銀の刃は一点の汚れも無く、鞘から抜いたばかりかのように煌めいていた。  けれど……そうでは無い。 「ぅ……ぁぁ……」 「さて、お前で最後だ」  血濡れの男は、目前の武士へと声を掛けた。  大鎧に身を包む彼は、青白い顔で震えながら、覚束ない手付きで弓に矢を番える。 「化け物、め…

最後の弾丸は誰を撃つ

「看板が読めなかったのか? 殺しはお断りだ」 「無意味な標語だな。まだ天国へのチケットが手に入るとでも?」 「まさか。死体の生産業にウンザリしただけだ」  尊大な態度を取るスーツの男に、ジュードは敢えて面倒そうな態度を見せる。  実際、ジュードはここ十年一度も殺しの仕事は受けていない。  というより……受けられないのだ、本当は。 「他を当たってくれ。いくら積まれても俺はやらない」 「それでは困る。この街で一番のガンマンはお前だろう」 「それは、そうだが」 「断るというなら