銀河剣豪星詣
曰く、この刀は天より降りし鉄から打たれたという。
であるなら、この刀が斬るべきも、やはり天に棲まう者なのだろう。
甲之助はそう感じていたから、紅い鉄船が降るのを見た時、心を躍らせた。
ようやくだ。人も獣も大蛇も百足も、彼の剣の前には障子同然だった。
けれど天より来たりし者ならば――この刀と故郷を同じくする者なら、身命を賭すに相応しい殺し合いが出来る筈だろう。
閃煌。そう名付けられた刀を、甲之助は見慣れぬ絡繰に振り下ろした。
肢体こそ狼に似ているが、ぬらぬらと月光を返す銀の肌を見れば、尋常な生き物でない事は明白だ。すらり、がしゃり。絡繰の狼は甲之助の刃を躱して散開した。
数は三。取り囲むような動きに、甲之助はホッと息を吐く。
夜の山。辺りを照らすのは、僅かな月の光のみ。呼気を放たぬ絡繰の位置を把握するのは一苦労だろう。けれどこれらは、おれを仕留める気だ。
(逃げられなくて、よかった)
心底から思う。
狼は降りた鉄船を守っているのだ。故に近付く者を許さないと言うなら、有難い。
「いざ……」
甲之助が踏み込む前に、狼が飛び出した。
三体が、同時に甲之助にかぶりつこうとする。首、腕、脚。それぞれに狙う場所も違う。足音から察した甲之助は、身を低く屈めながら、ぶんと刀で大きく薙いだ。
ぎ、ぎ、ぎ。金切り音と共に一時に、刃が狼の鉄肌を捉え、吹き飛ばす。
手首に感じる重みは、一体十貫といった所だろうか。存外に軽いと思いつつ、両断出来なかった事実に目を剥く。
(未熟か、おれも)
閃煌が天の刃なら、天の鎧を斬れぬ筈も無い。
確信する甲之助に対し、狼共は大きく口を開けて応える。
チカッ。彼らの喉奥の瞬きに、甲之助は本能的に刃を振った。
光線が、斬られる。
次の刹那、狼たちの首は落ちていた。
斬撃を彼らの眼は記録しない。代わりに彼らは最期、天の言葉を捉えている。
――お願いだから見逃して。あと、出来れば護衛して。
情けない声音だった。
【続く】
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