キングダムと達人伝の話

「達人伝」という漫画があります。

作者は、独自の解釈と圧倒的表現力で曹操の一生を描き切った「蒼天航路」の王欣太(キングゴンタ)先生。

現在連載中の達人伝の舞台は、古代中国の春秋戦国時代で、時間軸としては原泰久先生「キングダム」の前日譚にあたります。

キングダムを読んでいる人はけっこう多いと思いますが、キングダムにハマった人こそ、ぜひとも達人伝を併せて読んでほしい。両方を読むことで、相乗効果的な面白さがあると思っています。


そこで今回は、「キングダムのネタバレあり・達人伝のネタバレはなるべく控える」ルールで、特にキングダムは読んでいるけど達人伝はまだ読んでない方へ向けて、私の好きなポイントを挙げながらオススメしていきます。

(ネタバレに敏感な方はお気をつけください)



ということで進めていきますが、大きくトピックを挙げると、私が言いたいのはこれ一つです。


・何といっても両作品の「差異」が面白い!


キングダムはご存知の通り、秦の始皇帝が中国を天下統一するまでのお話。主人公の信も、ゆくゆくは秦の大将軍へと出世していく覇道の物語です。

一方の達人伝は、秦を「虎狼の国」と呼んで怖れている周辺各国から、荘子の孫である主人公・荘丹があらゆる達人たちを結集して、勢力拡大を目論む秦に対抗する物語。


平たく言えば、

「キングダム→秦が味方」
「達人伝→秦が敵」

という図式です。


たとえば、キングダムでは伝説の名君のように回想されている政(始皇帝)の曾祖父「昭王」は、達人伝ではまるで地獄の帝王のような描かれ方をしています。

同じ人物が出てきても、表現が思いっきり異なることが多いため、両方を知ることで得られる面白さがあります。あくまで両作品は歴史を基にしたフィクションですが、視点が二軸あることで理解もより深まるはずです。


達人伝は、キングダムの開始年代(紀元前245年)からさらに遡ること数十年前(紀元前280年あたり)からスタートしているお話なのですが、達人伝が話数を重ねていく中で年代が接近してきて、キングダムの登場人物が達人伝の中にもだいぶ登場するようになってきました。

まだ商人だった頃の呂不韋は達人伝の序盤から登場しますが、最近では若き日の李牧や龐煖、さらに無名時代の王騎などなど、キングダムを読んでいれば「ウオーッ!ついに出た!!」と思う人物が続々と現れ、否応なく盛り上がります。少し前からは、すでに政も登場しています。

基本的にキングダムと達人伝では、キャラクター描写を変えてきてるのですが(もちろん達人伝の王騎は「ココココ」とか言わない)。

一つ面白いのは、藺相如との故事「刎頸の交わり」でも有名な将軍・廉頗だけが、キングダムと達人伝で「ほぼほぼ同じようなキャラクター」として出てくるところです。どうやら廉頗は文献や経歴から見るキャラクターが完成されすぎているというか。廉頗の年齢も作品ごとに異なるはずなんですが、どちらも同じぐらい老いた百戦錬磨の気持ちがいいジジイとしての登場です。私はそんな廉頗が大好きですね。


それから、これは現時点で最もグッときた達人伝・キングダム両作品の「差異」で、まあまあ大きなネタバレなのですが、好きなところを挙げます。

秦の始皇帝の生母は、元は呂不韋が連れていた芸者の女性(後の趙姫)で、始皇帝の父である荘襄王から熱烈に見初められて妃になったのですが、そもそも呂不韋とはかねてより男女の関係にあったために「始皇帝の生物学上の父親は実は呂不韋だ」という噂が当時からありました。

キングダムでは「そんなもん、ただの始皇帝に対する誹謗中傷でしょう」として噂を一蹴しているのですが、達人伝では一体どうなっているのかというと……これは「歴史の正確な記述」よりも「漫画としての面白さ」をガンガン選び取りがちなゴンタ先生らしい最高の一手で、もはや言わずとも伝わってしまっていますが、非常に熱い展開が待っています。ぜひ読んでほしい。


そういえば、キングダムでは濡れ場的なものがあまり登場しませんが、ゴンタ先生の漫画はいつもまあまあ濡れ場に重きが置かれています。

以前、ゴンタ先生の代表作「蒼天航路」がどのような三国志作品かを説明する機会があったとき、私は「劉備と曹操のベッドシーンの描き方で対極的な両者の違いを表現している三国志」みたいなことを言っていました。劉備が大学一年生の覚えたてほんわかセックスだとしたら、曹操はガチガチのVシネマです。絵柄からプレイ内容から、完全に役割が棲み分けられています。

とまあ、昔からそういう感じなので、達人伝にもその手の要素が多数出てきます。そのあたりも含めて、私はゴンタ先生の大ファンなのですよね。人間を描くにあたって、セックスの描写は大事です。


では最後に。

そもそも「差異が面白い」どうのこうの以前に、単体の漫画として、キングダムも達人伝もメッチャクチャ面白いです。まだ読んでいない人は、気になったら読んでみてください。面白すぎて夢中になると思います。

そして、この両方を読むことで、さらにぶち上がれるようになるはずです。ぶち上がってみてください。

キングダムはまだ完結するまで何十年もかかると思いますが、達人伝はぼちぼち終わりに向かっていっているので、両方ともリアルタイムで追うことができるタイミングはもう長くないと感じています。この機会に是非。


達人伝は2019年1月現在22巻まで出ています。


キングダムは2019年1月現在53巻まで出ていますね。
(ところでKindle版の発売が一ヶ月遅れなのは何とかならないのですか……)

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