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ポテトの話

私はフライドポテトが好きである。

3歳ごろに、初めてマクドナルドでフライドポテトを食べた。
「その時に人生が始まった」といっても過言ではない。


マクドナルド、ロッテリア、バーガーキング、モスバーガー、ケンタッキーフライドチキン、ウェンディーズ、フレッシュネスバーガー、サブウェイ、ドムドムハンバーガー、ミニストップのホットスナック、イトーヨーカドーのフードコート「ポッポ」、それら思いつく限りの、ファーストフードのポテトたち。全部好きだ。

そのほか、家でジャガイモを細く切って揚げたお手製のポテト、レンジでチンするチンチンポテト、ファミレスのポテト、居酒屋のポテト、ハッシュドポテト、「インカのめざめ」を丸揚げしたポテト、濃厚なチーズがかかっているポテト、紙袋に粉を入れて振って食べるポテト、ハンバーグのデミグラスソースを吸い込んだ付け合わせのポテト、ビジネスホテルの朝食バイキングに並んでいるひどく冷めたポテト、残り物のポテトをクリームソースで覆って焼き上げたグラタン仕立てのポテト、そうしたありとあらゆるポテトの類、その全てを、私は愛している。

太さ細さ、サクサク感もホクホク感も、揚げていても焼いていても、塩でもケチャマヨでもディップでも、ジャガイモを調理したポテトであれば、その一切を問わない。どれもがポテトとして、ただただ尊い。

昔は、もっとポテトに好みがあった。できれば細くて柔らかい、皮なしのポテトが良かった。例えばマクドナルドやロッテリアのポテトを、持ち帰りのビニール袋の口を結んで、閉じ込められたポテト自らの熱気で「しなしな」にさせたものが「特上」だった。今も大好きだ。それでもいつからか、私は満遍なく全てのポテトを愛し始めた。


あれはシェーキーズの食べ放題だった。ピザやパスタなどのほかに、フライドポテトも並んでいた。輪切りにしたジャガイモをそのまま揚げた、フライドポテトと呼ぶべきか子供心にも戸惑いが生じるような荒々しいポテトだ。「フライドポテトも食べ放題!」と聞いてウキウキしていたのに「これ」なのかと思っていた。

しかし今では、あの荒々しいポテトのことが、何だか無性に恋しい。ろくでもない油で、チキンとかと一緒に揚げた時の風味がそのままこびりついたような、輪切りの雑なポテト。あんなポテト、あれ以来なかなか出会えない。今もあるのだろうか。行きたいような、行きたくないような感じがする。なんというか、上手くいかなかった恋のように、時々懐かしく思い出すことがある。


サイゼリヤの「ポテトのグリル」である。皮付きで、焼いてあって、食べると口内の水分を奪われるポテトで、あれはあれで良いポテトだった。

ところが、最近突然のリニューアル。皮がない、ダイス状のポテトに変わり果てた。それでもお前は「ポテトのグリル」を名乗るというのか。初めてその姿を見たとき、あらゆるポテトの形状のなかで、もっともワクワクしないポテトだと思った。ジャガイモから切り出したストーリーを想像し難いデザイン。これでは単なる「焼き穀物」「ディストピア・ポテト」ではないか。正直ショックだった。

しかしそれでも、私は「ポテトのグリル」を注文する。ケチャップを絞り出して食べる。サイゼリヤのポテトのケチャップは、ちょっと少ないと思うが、食べればたちまち、ポテトは良いものだと思ってしまう。可能であれば、何かしらの調味料を持参して食べたいような気もする。生まれ変わった「ポテトのグリル」との付き合い方を、元恋人との良好な関係を模索するような心地で見つめている。いい友人以上のものに、私たちはなれるだろうか。


フライドポテトを食べるとき、私はマシーンになる。
ポテトを自動的に口へと運び続ける、単一機能のマシーンになる。

一人で食べるときはいいが、誰かと一緒に食べる場合は、注意が必要だ。気付いた時には、風前の灯火になっていることがある。「食べていいよ」と言われたポテトに手をつけていたら、あっという間に無くなってしまい、「全部食べていいとは言ってない」と悲しそうに嘆かれたこともある。

ここがファミレスや居酒屋なら、何品も料理が並んでいる状態にして、ポテトだけに意識が集中しないようにしたい。ここではあえて「最初から注文しない」という選択肢もある。ポテトは私を狂わせるのだ。

こういった極端に好きな食べ物がある場合、その人にとって毒性があるからハマってしまう、というような話を過去に聞いた。その瞬間に私は「ああ、ポテトのことだ」と思った。ポテトに関して言えば、おいしい食事として好きというよりは、「幸福感をもたらす経口摂取型の概念」のようなイメージがある。冷静に考えたら、そこまでおいしいものでもないし。酒やタバコや薬物のほうに、より近いかもしれない。

これからも「ポテト」と書いて「しあわせ」とルビを振っていきたい。


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フライドポテトでガンギマリになるのだ。

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