MMS145武井さん

「株式会社という組織の有り様を研究し新たな時代にふさわしい会社像に変革している起業家」ダイヤモンドメディア株式会社 代表取締役 武井浩三さん(2017/03/22対談)

本記事は2017年に対談したものです。情報はその当時のものですので、ご了承ください。

●ご挨拶と出演者紹介

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三木:第145回マイクロモノづくりストリーミング本日も始まりました。本日はダイヤモンドメディア株式会社様にお邪魔しまして、新しいホラクラシーというスタイルの組織に非常に興味・関心があり実践されてるということで色々とお話を伺っていければと思います。よろしくお願いします。

武井:お願いします。


●enmonoとの出会いについて

宇都宮:元々三木さんとはお知り合い?

三木:いや、カヤックの柳澤社長の「何かおもしろい会社があるよ」っていうプライベート講演会みたいなのがあって…

武井:あれが最初ですね。

三木:それが1年半ぐらい前かな?2年ぐらい。鎌倉の某所で講演会があって、お話を伺ったのが初めてで。それでカマコンバレーにも興味を持ってほとんど毎月来ていただいて。

武井:そうですね。今カマコン入って月に2、3回鎌倉行ってますね。

三木:カマコン以外でも?

武井:そうです。そこからのご縁ですね。


●武井様のバックグラウンドについて

三木:ちょっとブログとかで拝見したんですけど、ご経歴はロサンゼルスに音楽留学、ギターか何かでしたっけ?

武井:そうです。小さい頃から色々音楽好きで、小学生ぐらいの頃からミュージシャンになりたくて。

三木:小学生ぐらいから?すごいな。

武井:ピアノやったり。ピアノといってもクラシックが嫌いで、ポップとかそういうのが好きで弾いてて、中学入ってすぐギター始めてバンドをやって、色んなジャンルをやったんですけど、ロックビジュアル系とかハードロック、ヘビーメタル、スカパンクとかオルタナティブとかメロコアとか全部やって、そしたら無駄なものがない音楽がだんだん好きになってきて、ブラックミュージックが一番無添加というか何も加わってなくてシンプルで、コード3つだけでこんなに心地良いものが作れるのかみたいなので、そこからブラックミュージックにどんどんはまっていって、ブルースとかファンク、R&B、ヒップホップとかが好きになって。

三木:ブラックミュージックっていうと無駄なものがあんまりない感じですか?

武井:そうですね。やっぱりクラシックの音楽って経営とかマネジメントでいうとすごい合理的なレガシーな正解があるんですよね。もちろんその上で色々あるでしょうけど、でもブラックミュージックって基本は全部アドリブというかインプロビゼーション…経営とつながりますね。それでもうこれはアメリカ行かなきゃと思ってロサンゼルスに留学させてもらって音楽を勉強して。

三木:何年ぐらい向こうにいらっしゃったんですか?

武井:2年ちょっとですね。向こうの短期大学の音楽学部を卒業していて、音楽勉強しながら生活してるとやっぱりアメリカと日本って全然感覚が違って。日本にいる時ってビジネスとか仕事っていうのがすごい生活にもっと近いなと思って。例えば車が好きだったら車を仕入れて直して売ってそれでお金を稼ぐことができますし、C to Bができる国というか、いいモノを売ってたら企業が個人でも取引しますし、「ああ、これがそもそも生きるってことだな」と思って。

三木:シンプルな感じで。

武井:そうそう。シンプルで。やっぱり音楽をやってると我が強くなってアンチテーゼを求めてしまうので、他人と違うっていうことが音楽って価値なので、だから日本では働くってことに対してすごい抵抗感みたいな心理的な壁があって、「働いたら負けだ」みたいな。

一同:(笑)

武井:だけどアメリカ行ってみたら自分の好きなことをやるだけだなと。他の人ができないことを代わりにやってあげてお金をもらうっていうただそれだけのこと。じゃあ日本に帰って音楽やりながら、音楽ももちろん好きなので、でも音楽って下積みが多少必要なので、その間バイトで食いつなぐみたいなつまんないことやるんじゃなくて、だったら会社作ってそこでお金稼ぎながら音楽やったらいいじゃないと。

三木:かっこいいですね。

武井:で、帰ってきて起業して失敗して。

三木:最初の会社はどういう?

武井:アパレルファッション関係のメディアを立ち上げたんですよね。音楽とつながるんですけど、アメリカの場合って音楽ってライフスタイルの一部なのでその人を見るとどんな音楽が好きでどんな食べ物を好きでどんな車に乗っててどんな生活リズムで生きてるのかどんな友達関係があるのかとかだいたい分かるんですよね。ブラックミュージック好きな人はそういうファッションしてますし、そういう車乗ってますし、パンクミュージック好きな人はそういう髪の毛してますし…

三木:分かりやすい。

武井:だいたい生き方っていうのに一貫性があって。でも日本ってぐちゃぐちゃなんですよね。

宇都宮:分かりにくいですよね(笑)。

武井:これが良くも悪くもだと思うんですけど、日本人ってたぶん順応性が高すぎて、アメリカだと中国韓国ってコミュニティ、華僑とかコリアンタウンとかそういうものができるんですけど、日本人って現地に溶け込んじゃうらしくて。

三木:逆にいいじゃないですか。

武井:そうですよ。その順応性はすごいと思うんですけど、コミュニティが海外だとジャパニーズタウンみたいなのがほとんど生まれないっていうのもあって、音楽もそうなんですよね。だから実は韓国とかのほうが音楽が進んでて、コリアンヒップホップとかってジャンルとしてはすごい強いんですよね。


●音楽の研究について

武井:その国の言語に結構由来するんですけど、僕は研究するのが好きで音楽をすごい一人で掘って研究してて。

三木:研究好きなんですね。ここにいっぱい本がありますけどこれも研究の?

武井:そうです。とにかく好きなんですよね。哲学的なことが。音楽はやっぱり音なので、言語って形から生まれた象形文字と音から生まれた発声文字っていうのがあって、音から生まれてる言語のほうが音楽と相性がいいんですよね。

三木:そうすると日本語とかどうなんですか?

武井:日本語は音楽と相性は合わないですね。やっぱり発声言語、音から生まれてる言語って腹式呼吸なので音から生まれてる宗教ってだいたい歌とかそういうものが宗教に盛り込まれてるので、歌う習慣っていうのがそもそもあるんですよね。だからキリスト教って歌うじゃないですか。チャーチバンドっていうバンドがあったりだとか。だからみんな上手いんですよね。基本的に。耳がいいですし。でも日本の宗教って念仏とかって全然音階がないじゃないですか。日本語って胸式呼吸なので。

三木:あんまり腹から声出さない。

武井:でも韓国って腹式呼吸でハングル文字って発声言語なのでみんな上手いんですよ。だから韓国人とか基本的に音楽のポテンシャル高いですね。やっぱり確率論かもしれないですけど勝てないですね。

三木:なるほど。ずっと何千年もそういう環境できた人たちと?

武井:はい。しかも音楽のリズムって生活のリズムなので、町とか都市とかごとに流行る音楽っていうのがある程度必然性が決まってしまってて、田舎に行けば行くほど音楽のリズムってゆっくりになるんですよ。都会に行けば行くほどリズムが早くなっていくんですよね。だから僕はそういうブラックミュージックでゆっくりなリズムが好きだったのでロサンゼルスに行きましたけど、ロサンゼルスに行くとリズムがゆっくりなんですよ。

三木:ゆっくりなんですか?

武井:ニューヨークは早いんです。ロサンゼルスって田舎でゆっくりなんですよ。生活のリズム、音楽のリズム、それから人口密度っていうのが全部つながってるので、人口の密度が濃いところだとリズムが早くなって、生活のリズムも早くなって、音楽も早くなる。そうするとアッパー音楽っていって機械的なリズムでいうと上げのリズムなんですよ。

三木:なるほど。ニューヨークっぽいんですか?

武井:ニューヨークっていうか東京とかもそうですけど、EDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)だったりトランスミュージックとかそういう電子音楽が強くなるんですよね。田舎に行くとヒップホップとかカントリーミュージックとか後乗りのゆっくりな裏打ちの音楽になるんですよね。そう考えると僕がやりたい音楽を日本でやる必要性がないなと。音楽は1回CDデビューもさせてもらったんですけど、それが23ぐらいの時で、それをきっかけに完全に撤退したというか趣味でやろうと。


●最初の起業の失敗と学んだこと

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三木:その後に起業した?

武井:起業は同時期にしてて、22で起業してて。

三木:音楽もやりつつ?すごい!!

武井:ただ最初の会社は1年で倒産して失敗して。そのアパレルファッション系のメディアですね。全然うまくいかなくて。これは難しいなというか…

三木:それで今始められたのがこちらの不動産?

武井:そうですね。ダイヤモンドメディアという会社自体もう9年ぐらいやってるんですけど、不動産業界に特化し始めたのは6年ぐらい前からで、最初の4年間ぐらいは紹介だけで仕事を受けてて、最初に会社失敗したっていう経験もあってとにかく良い会社を作りたいなと思って。最初の会社は友達を誘って起業して、彼らにも借金してもらって僕も借金して失敗しちゃって。まだ22だったので一人はまだ大学生だったんですけど大学辞めて手伝ってくれて。もう一人は日立に勤めてたんですけどそれ辞めて手伝ってくれて、しかも借金させて。

三木:すごい。

武井:で、失敗して1年間極貧生活したあげく会社潰しちゃって、俺は結局何がしたかったんだろうと。何かを成し遂げたくて起業したんですけど何も意味がなかったというか、結局やりたかったことって僕のエゴであって、個人のエゴのために他人の人生、まして友達の人生をめちゃくちゃにしてまで成し遂げるべきものってないよなって思って、じゃあ俺がやってたのは本当に意味がなかったなと。そこからそもそも会社って何なんだろうとか仕事をするって何なんだろうっていう疑問を持って色んな経営の本とかを読み始めて…

宇都宮:調べ始めるわけですね?

武井:そうですね。実家が製造業っていうのもあって、色々父の影響もあって松下幸之助さんとか稲盛さんとか永守さんとかああいう方の本を全部読んで、すごい精神的なところが「ああ、なるほどな」という…松下幸之助さんの言葉で好きなのは「仕事というのはすごく神聖なものなんだ」と。でも父も昔からそういうことを言っていて、父親としては仕事ばっかりしててあんまり接点はなかったんですけど、すごい哲学がある人でモノづくり職人というかそういうことをやってきた人なので、それに対するこだわりと自負心というのがめちゃくちゃ強くて、長い物には巻かれないし、大手企業でも理不尽なことは全部突っぱねるみたいなそういう人で、僕が実際起業した時に色々応援してもらったんですけど、僕がマジで辛くて返す当てのない借金が1,000万ぐらいあって、本当にこれ人生ちょっと終わったなと。それまでは挫折経験があんまりなくて、音楽やってきた時も色んな音楽大会で賞をもらったりとか高校生の頃バンド大会出て全国大会行ったりとか、俺はやればできるっていう自分自身に根拠のない自信があったんですけど。

三木:重要なことです。

武井:1回社会出てみたら全く太刀打ちができなくて、誰からも必要とされなくて、「うわ~俺はこんなにも世の中では金銭的な価値を提供できない男なのか」と本当に現実を目の当たりにしてすごい自信喪失しちゃって、人の目を見て話せないぐらい…

三木:ちょっと落ち込んだような感じ?

武井:どうしたらいいんだろうと。少しでも会社にお金が残ってるうちに立ち上げたそのビジネスモデルは潰しちゃって、別のことをやったほうがいいのかなと思って父に相談したんですよ。「立ち上げた事業を辞めようかと思ってる。そっちのほうが賢いんじゃないかと思う」みたいなことを話したらすごい怒られたんですよね。

三木:そうなんだ。普通だったら逆に「もう辞めとけよ」みたいなことを言うのかなと思ったんですけど。

武井:経営って正解がないじゃないですか。勇気ある撤退っていう言葉もありますし、でもその時は父に言われてすごい腹落ちしたのは、「全然売り上げが立ってないビジネスだとしても少なからずお客さんがいて仲間がいてっていうその時点でそこには社会的責任というものが発生していて、その社会的責任というのを会社はお客さんだったり取引先だったり働いてる仲間だったりに対してずっと継続しなければいけなくて、その責任っていうのはお前の命より重いんだ」と。「お前が死んだとしても会社はお客さんに仕事の価値を提供しなきゃいけない」という、それが会社同士の約束だから。

三木:それが会社というものですね。

武井:そうです。だから「お前個人がどんな状況にあるかとかっていうのは一切関係がない。」

三木:すばらしいお父様ですね。

武井:「死んででもやり続けなきゃいけない」っていうことを言われて、僕その頃めちゃくちゃ参ってたんで全然わけわからなかったんですけど(笑)、何かそれは正しい気がするなと思って腹括ろうと思って、いざとなったら借金を背負えばいいだけ、それぐらいの額だったら頑張って働けば全然返せるじゃないかと。そうなれば人生3年、5年ぐらいは棒に振るかもしれないけど、それはしょうがないというように腹を括ったんですよ。そうしたらめちゃくちゃ軽くなって、それまでは本当朝起きるのが辛くて辛くて、だけど腹括ってからはどうしたら世の中にもっと価値を提供できるか、自分がもっと価値ある人間になれるか、そこだけに意識が向いて、また仕事に向かうんですけど。結局ビジネスモデル自体は改良を色々加えてもあんまり良くはならなくて、アパレル業界って結構独特な業界で…

三木:人脈というかその…

武井:そうですね。そういうのもありますし、広告に使うお金とかすごいシビアですし、店舗は仕入れて売る小売業なので、すごいコスト感覚が強いので全然ビジネスとして成り立たなくて、結局もう最終的にどうにもできなくなって会社を畳むんですけど、腹括ってるから悪あがきするんですよね。そしたら悪あがきしてる中で、「その事業を買い取ってもいいよ」っていう会社が何社か出てきて、それでそういうところと口八丁で交渉をして、そしたら一社が買い取ってくれることになって1,000万で売れて借金返せたっていう。

三木:すごいですね。最後の最後で。

武井:そうですね。僕就職経験がないのでそれが社会人1年目だったんですけど、ぴったり1年でマイナスからゼロに戻ったっていう。

宇都宮:就職は考えなかったんですか?

武井:就職は考えたことはないですね。性格もありますけど自分がやりたいと思ったことをやればいいだけ、でもそれが就職っていう手段が最も適しているのであれば全然厭わないですけども、そうじゃなかったっていうだけで。

宇都宮:ご実家が事業をされてるっていうのもありますかね?

武井:多少はあると思いますね。あとは音楽をやってたっていうのも。音楽ってみんな個人事業主なので、誰からもやれって言われないじゃないですか。「好きだからやってるんでしょ?嫌いだったら辞めりゃいいじゃん」っていう、それだけの世界なのでそれが当たり前で。


ダイヤモンドメディアの立ち上げ

三木:会社を売却した後は何か別の仕事というか…

武井:ダイヤモンドメディアです。

三木:そっか。すぐシフトしたんですね。その時は最初から不動産系っていう感じだったんですか?

武井:最初は事業目的がないまま立ち上げて、良い会社を次は作りたいと思って。

宇都宮:定款とかは書くじゃないですか。

武井:何かインターネットって適当なこと書いて。

enmono:(笑)

三木:その2つ目の会社は前の会社の方も一緒に?

武井:いや、そこはまた別で。

三木:また別で?すごいですね。段々と今の仕組みというかシステムを作るようになったんですね。

武井:最初の4年間は本当組織づくりというか「良い会社って何だろう」っていうことばっかりを…

三木:その4年間はでも何か日銭というかホームページを作ったりはあったんですか?

武井:目の前のお客さんの課題に答えるっていうただそれだけをずっと繰り返していって、ただ技術も何もなかったのでデザインから始まって徐々にシステムとか難しいものを段々作れるようになってきて、コンサルティングしたりマーケティング支援したりとか何でもやって。そのうち会社10人超えた辺りからこういう経営スタイルをやってても、会社って仕事をする組織なので、ビジネスモデルがないと結局個人事業主の集まりにしかならなくて、会社としての資産というか価値、強みを深堀っていきたいなと。そのためには何かに特化しなければいけなくて、特化をする時に技術特化とか業界特化とか色々ありますけど、うちは不動産業界に絞ってそこで深堀りしていこうと5、6年ぐらい前に絞って。


●ダイヤモンドメディアの事業内容について

三木:具体的には今どういうサービスを提供されてるんですか?

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武井:今は不動産業界といっても結構実は広くてですね。不動産ってまず大きく分けると不動産建設業界と不動産流通業界とみたいな、建設はいわゆるディベロッパー、アパート・マンションメーカーっていうところなのであんまりIT関係ないですけど、流通のほうは賃貸と売買とあって、流通構造でいくと物流とかと一緒で所有者が一番最初にいてここが全ての始まりなんですけど、そこから一般消費者までに色んな流通経路を経て辿り着くっていう、すごく物流と同じ構造ですよね。不動産もそういう構造があって、うちはこの流通構造の中でいくと比較的上流に対してサービスを提供していて、仲介会社に対するサービスの提供っていうのが不動産業界だと結構目に付くというか一般消費者に触れるのでホームズ、スーモ、アットホームみたいなメディアとかお部屋探しとかっていうのは全部この不動産流通でいうと下流なんですよね。そこから最初始めたんですけども、そのマーケティングのシステムを提供したりとかしていて、これが一番歴が長くてお客様が今まで200社ぐらいいて結構大手が多いんですけど、長谷工さんとかミサワさん、東急さんとか…

三木:ダイヤモンドテール。大手さんが多い?

武井:物件のデータ管理と顧客のデータを管理してインターネット上で効率的に集客をするっていうマーケティングシステムで、大手が多いですね。あと売買だとオープンハウスさんとか福屋不動産さんとか、最近の会社だとインベスターズクラウドさんとかアンビションさんとか、比較的良いお客さんが多いです。ハウスコムさんとかタウンハウジングさんとか。

三木:聞いたような名前がたくさんありますね。ASP(Application Service Provider)を提供する?

武井:そうですね。ASPを提供してそれをカスタマイズして各社のマーケティング戦略に合わせていくっていうことをするので、結構システムを提供して終わりじゃない。コンサルテーションとかマーケティング戦略を一緒に練るとか、それをシステムにまで落とし込むっていうのがうちの強みで、それができる会社っていうのがほとんど他にいないので。不動産のこのマーケティングシステムで何か凝ったことをやろうと思うとだいたいうちに相談が来るみたいな。

三木:そこが固定の売り上げでずっとあるって感じで?ベースに。

武井:そうですね。月々の利用料もありますし初期費用もいただいてますけれども、これが5年間ぐらいで会社の売り上げを支えるようになってきて、そこから新規事業にどんどん投資をして、今はさらに上流の管理会社さん、オーナーから不動産を預かってる管理会社さんの募集業務って呼ばれる業務をマネジメントするリーシングマネジメントシステムっていうのを提供していて、これは業界でうちしか持ってないオンリーワンのサービスで。管理会社って一般的には管理業務をやってるんです。例えばオーナーから不動産を預かってそこの入居者さんから家賃を回収したり、クレーム対応したり、原状回復の立ち会いとか鍵の受け渡しとか、基本的には事務的な仕事が多いんです。事務的な仕事ってどんどんダンピングというか価格が下がってきていて、管理会社さんってほとんどサービス内容に違いがないんですよね。そうなってくると規模の経済じゃないですけど、どんどんM&Aで大手が買収、買収をしていくっていうのが最近の流れで、でも本来の管理会社さんの価値ってオーナーから預かってる不動産資産の資産価値を高めていくことで、賃料とかを最大化させていく、そして稼働率を最大化させていくっていう。この稼働率を最大化させて賃料を最大化させていくっていうのは管理業務だとできないんです。それって完全にマーケティングとセールスの活動なんですけれど、それを業界用語だと募集って呼ぶんですね。英語だとリーシングっていうんですけど。

宇都宮:プロモーション?

武井:そうです。プロモーション寄りですね。マーケティングとセールスの。管理業務っていうのは部屋が埋まってる時に仕事が多いんです。募集業務っていうのは部屋が空いた時に次の人を見つけないといけない。空室期間が長いとオーナーは機会損失っていうのになる。

宇都宮:それは稼働率を上げるっていうことですね?

武井:そうです。そこを本当は管理会社さんはセールスフォースみたいな営業管理ツールとか色んなマーケティングの管理システムを使ってやるべきなんですけどできないんですよ。

三木:みんなどうしたらいいのか分かんないみたいな感じですか?基本的には。

武井:リテラシーが低いっていうのが一つですし、そもそも一般的なマーケティングツールとかSFA(Sales Force Automation)っていうのは使えないんですよね。なぜかって言うと不動産の場合には物件単位でプロモーションしないといけないし、物件がどんどん入れ替わっていくので、しかも一点モノなのでデータベースと営業履歴なんかを結び付けるっていうのは不可能なんですよ。しかも募集業務は自社だけで完結しないで、その先の仲介会社っていうのがまた各社色んな活動を行っててそれもトラッキングしないといけない。それができない。でもそれをできるようにしたっていうのがこのツールで、超マニアックなんですけど。

宇都宮:通常マーケティングってたくさんモノをばらまくためのマーケティングじゃないですか?一点一点変わってくるモノっていうのはマーケティングってしづらいじゃないですか。そもそも発想が出づらい。

武井:そうですね。それを契約に至るまでのプロセスを今まで分断されてたものを自動的にトラッキングをして見えるようにして、プロセスマネジメントをできるようにするっていう超独特なシステムで、これはマニアック過ぎてたぶんうち以外開発できる会社はいないです。マーケット大きくないので、顧客対象になるような不動産管理会社って日本でおそらく5,6千社ぐらい。だからここはじっくりお客さんを増やしていこうかなと。

宇都宮:不動産投資とかまで含めちゃうともう少しマーケットが広がって?

武井:そうです。投資物件を扱ってる会社とかもお客さんですね。

三木:最後のOwnerBoxっていうのは?

武井:OwnerBoxっていうのは、今度まさにオーナーさん、不動産オーナー、不動産投資家向けのサービスをやっていて、ダイヤモンドテイルにこんな感じで東急さんとかの賃貸のサイトとかうちが全部やらせてもらったり、あとLMSっていうのがマーケティングオートメーションで、管理会社の内部にあるデータ、営業履歴とか反響のデータっていうのを取り込んで、それからマーケットデータっていうのをこのシステムが自動的に取ってきて、募集をしている物件のデータっていうのも全部取ってきて、ガーっと分析するとすごいシンプルに言うとGoogleアナリティクスみたいな。

三木:不動産業界のGoogleアナリティクス。

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武井:グラフが見えて、何をしたらどうなったっていう因果関係が全部見えるので、どの対策が効果的だったのかっていうのが分かると。

三木:なるほど。

武井:これはもう日本でうちしかないサービスですね。

三木:これはASPで利用料をもらうという

武井:そうですね。今はまだお客さん10社ぐらいしかいないんですけど、東急さんとか三井さんとか大手が使っていただいてますね。

三木:すごいですね。

武井:OwnerBoxっていうのはオーナーの不動産資産管理サービスで、管理会社さんとオーナーをつなげて、クラウド会計ともつながっていて確定申告までできるっていうサービスで、今マネーフォワードさんと業務提携をしていて、不動産って現物資産なんでマネジメントコストってめちゃくちゃ高いんですね。しかも金融資産と違って買った人の力量によって利回りが変わるっていう特性があるじゃないですか。だからおもしろいわけですけど。株価ってみんな一緒ですから。でもそういったマネジメントコストが高い割にオーナーからするとできることが少ないんですよね。管理会社に預けちゃってるので任せっきりみたいな。本当はオーナーってもっと色んなことやりたいんですよね。それをするためにまずは収支のデータを家計簿みたいにちゃんとつけていくと。オーナーさんって本当は投資家ではなくて不動産賃貸経営者なはずで、経営者だから普通に管理会計とか会計をやるべきで、売上が何で支出が何でそれをちゃんとマネジメントしてってやるべきですけど全くやってないじゃないですか。

三木:そうですね。普通は。

武井:個人なので。月に1回送られてくる収支の情報とかを見て「ふんふん」と。

enmono:(笑)

武井:で、税理士さんにお願いする。なんだったら失くしちゃうみたいな。税理士さんが今度は管理会社さんに、しかも確定申告の忙しい時期に「紙ください。○○オーナーの○月分ください。」その頃管理会社も繁忙期なんですよ。「もうふざけんなよ!」って言いながらFAXしたり郵送したりみんな不幸せなんですよ。それをデジタル化して。

三木:そっか。そしたらこの管理会社も助かるし。

武井:管理会社も助かるし税理士さんも助かるしオーナーも無料で使えるので。

三木:無料なんですね。オンラインで見てればいいんですね。

武井:お金の動きの推移が見れるので。

三木:それはおもしろいですね。

武井:お金って流れで見ないと最適化できないじゃないですか。それに加えて管理会社側はこのCentrl LMSっていうリーシングマネジメントシステムを使ってる場合には空室が今どういう状況かっていうのもオーナーが把握できるということです。そうすると募集戦略っていうのが立てられるので賃料を高めで攻めるのか、ちょうどマーケットに競合物件がないから高めでいいじゃんとか競合物件がいるから下げたほうがいいのか、どっちのほうが…

三木:何かエリアとか絞っていくとその平均みたいなのが出てくるんですか?

武井:平均だったり。ただ不動産って平均値で出すというよりは結構入居者さんのニーズが一人ひとり違うので、高くても決まる場合もあれば低くても決まらない場合もある。結構独特なんですよね。それをどう考えるかっていうのが結構実は…

宇都宮:期日もありますもんね?

武井:そうです。戦略が必要で、賃料を維持させた状態で業界用語でADと呼ばれる広告料、業者さんにバックするバックマージンがあるんですけど、それを高くつけて賃料を高く維持させるという手も打てるわけですよね。賃料って収益還元法で不動産の資産価値にそのまま反映するので、例えば賃料10万円の物件ってだいたい売値が2,000万とか2,500万とかそれぐらいなんですけど、1,000円値引きすると99,000円、1,000円ぐらいいいじゃんって不動産会社は思うんですけど、オーナーからすると資産価値が1%目減りするって考えるんですよ。そうすると彼らからすると20万円なんですよ。1,000円の値引きじゃなくて。だったら20万円減っちゃうんだったら5万円でエアコン付けて設備投資したほうが1,000円維持できるじゃんと。そっちのほうが実は投資効率が高いわけですよ。

三木:それが分かるんですね。

武井:そうです。

三木:技術モデルがおもしろいですね。

武井:そうですね。


●ホラクラシー経営について

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三木:後半はいよいよホラクラシーの話を伺っていきたいんですが。

武井:うちのビジネスモデルってこの流通構造、つながりの中で見えなくなってる部分を強制的に見えるようにしてしまうっていうサービスなので、見えるようになるとズルができなくなって、ちゃんとやってる業者とかちゃんとやってるオーナーとかがマーケットで勝てるようになる。市場の原理が働き始めるんですね。これってうちの会社が会社の中でやってることと全く一緒でして、こういう経営をしているからこそ業界の情報の非対称性とかブラックボックスがやたら気になるんです。ホラクラシーってヒエラルキーとよく対比して考えられますけれども、ヒエラルキーっていわゆるツリー型の上司がいて…

三木:社長がいて部長がいてみたいな。

武井:上に行くほど人数が少なくなってるっていう組織の形、情報の流れで、でもホラクラシーって生物的な考え方で、みんなもっとこんな単純な形じゃなくて複雑に人はつながってるよね、組織の中も今はそうなってきていると思っているんですけれども。こういう組織を会社が作れるようになってきたのはITがあるからっていうのが我々のやってきた実感ですね。

三木:私もzen2.0というボランティア組織を色々とマネジメントしようとしてて、なかなか非営利なので軍隊型だとなかなか動かないというか誰も手を挙げないというか、そういうみんなが当事者になるみたいな組織の仕組みがほしいなと思って、この間ご相談をオンラインでさせていただいたんですけど、その中でおっしゃってるのはIT化してかなり見える化していくことでみんなが当事者意識を持ちやすくなるというお話だったと思うんですけども、今は実際こういう仕組みを運営していく中で、具体的にどういうやり方でやってらっしゃるんですか?

武井:ざっくりこんなことをやってますって今まとめてるんですけど、分かりやすいところでいうと上司、部下とか肩書きとかが全くないというのが特徴ですね。

三木:取締役会みたいなのはあるんですか?

武井:取締役会はないんですけど、一応今役員っていうのはあります。本質的にはうちの会社はもう役員とか代表というもの自体を必要としていなくて、だけど今の会社法上は役員が1人以上必要っていうのがあるのでしょうがなく決めざるを得ないと。決める上で形だけなんですけど、決めなきゃいけないということは流動性を担保しないといけないので毎年決め直そうと。決め直す時はしょうがなくやるんじゃなくてせめて楽しもうというので選挙をしてるんですね。

三木:選挙(笑)?

武井:選挙はしかも外部の人も投票できるし誰に投票してもいいんですよ。投票だけで決まらないので。多数決では絶対に物事を決めないんですよ。これやってみて気づいたんですけど、多数決ってやればやるほど組織が弱くなっていくんですよ。弱くなるメカニズムは、リーダーシップって基本的にマイノリティなんですよね。だから多数決で決めるとリーダーシップを発揮する機会っていうのがどんどん失われていくし、多数決になると多く票を取ったほうが勝ちになるじゃないですか。でも基本的に今の会社法によると会社って全部それで定義できて、取締役会も取締役の半数以上とか株主も○%以上で○○ができるっていうのが多数決で決まってるわけですよね。あれ自体がもう古いというか、我々からするとこれからの組織の実態にそぐわなくなってきているので、ただ法律としてある以上はそれを完全に取っ払うこと自体ができないので、形式上それをどう我々が目指している組織像にアジャストさせていくかっていう仕組みを結構緻密に作っていて、その1つがこの選挙ですね。全部みんなで投票して、外部の人にも投票してもらって、投票結果を全部オープンにして、その上でしょうがないから誰がやるかっていうのを話し合って決めると。

三木:投票する時にその人の今までの業績みたいなのも情報として出すんですか?

武井:社内では全部オープンになってますし、その人の給料も全部オープンですし、基本的には形だけですけど役員になるとか代表になるってことは会社のマネジメントとかハンドリングをしていく上で一番適しているというか影響力が強い人と捉えられるので、そういう人は自然と給料が高いですし、うちの給料って職務給とか職能給っていうのが一切ないんです。業績連動給もインセンティブもなくて、仕事と給料がつながってないんですよ。つながってないっていうことがすごく重要で、ホラクラシーを実現する上で絶対的に必要で、仕事にお金をつけちゃうとみんな仕事のことをお金として見ちゃうわけですよ。仕事にお金がついていくとお金がついてない仕事をしなくなるんですよね。自然と。だからそうするとみんな自分の部署の仕事しかしなくなるんですよ。なぜなら組織っていうのはそもそもヒエラルキーの形がありますけれども、この四角の中で仕事が定義されてるんですよ。機能部門、それから事業部門っていうマトリックス型でだいたい仕事が定義されていて、さらに階層があってそれぞれの枠の中にジョブズスクリプションというものが定義されてて、その中でKPIとか求められる能力とかっていうものが定義されてて、お前はそれがこなせるのかどうかってそういうふうに人があてがわれていく。そこに合わせて給料レンジっていうのがある程度設定されていくじゃないですか。ということは、会社の評価システムっていうもの自体がその枠の中でしか評価できないんですよ。だからある人がその枠を出た仕事をした場合に評価システム上評価できないんですよ。大企業の場合だとその枠を出ること自体が多くないのかもしれないですけれども、我々ぐらいの規模だと色んなことをやらなきゃいけないですし、優秀な人ほど枠をはみ出ますよね。評価できないから給料が不平等になるわけですよね。その人が実際に会社に生み出してる価値とその人の報酬が釣り合わなくなってくる。しかも時間と給料っていうのがつながってるので。

宇都宮:残業とか?

武井:だから能力が低い人とかズルをする人ほどお金を稼げてしまう。誠実で能力が高い人のほうが評価がシステム上は低くなってしまうっていうのが多いわけですよね。それを上司の面談とかでどうにか調整しようっていうふうにしようとしても無理なんですよ。そもそもの構造が不平等にできているというか明らかに欠陥だらけなので。

三木:そうすると評価システムっていうものは今ないっていう感じなんですか?

武井:ないですね。評価をしないっていうのがホラクラシーの重要なところで。

三木:そうなんですね。評価をしないんですね。

武井:なぜなら上司も部下もいないので、評価をしてくれる人がそもそもいないわけですよ。

三木:評判みたいな感じなんですか?組織の中での評判。

武井:評価をしないのにどうやって給料が決まっていくかっていうと相場で決めるしかないわけですよね。相場っていうのは株式市場の株価みたいなもので、需要と供給で、その市場の原理を導入するためには何が必要かというと情報の透明性が必要で、だから全員の給料がオープンなんですよ。

宇都宮: IPOと一緒ですよね。上場企業公開と。

武井:ただ上場企業の情報の開示の仕方の欠点っていうのもあって、あれは全部結果しか見えないので、プロセスのほうが大事でして、プロセスをうちは全部データ化して社内で見える化しているので。

三木:どういう感じなんですか?何件取ったとかそういう感じですか?営業的な感じですか?

武井:そうです。営業プロセスもそうですし、行動も全部履歴を取りますし、製造業でいうとABM、Activity-Based Managementってあると思うんですけども、あれをうちの会社もやっていて、誰がどの業務に何時間時間を割いたかっていうのを…

宇都宮:原価が見えちゃうんですね。

武井:そうですね。全部レコーディングしてるんですね。アメーバ経営に近いっちゃ近いんですけど、あれもやっぱり我々がやってみた中では良くない部分があって、それは仕事に対してお金をつけるっていうのを社内でやると部署間での壁が生まれちゃうので。

三木:そうですね。競争しちゃうっていうか。

武井:でも本来最終的に会社として儲かってりゃOKっていうことがしにくくなってしまうのが今の管理会計だったりアメーバ経営の仕組みだったりするんですけど。

宇都宮:儲かんないことはしなくなるんじゃないですか?

武井:そうです。

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宇都宮:でも投資にはそういう要素が必要になってくると、経営者しか判断しなくなるんですよ。

武井:そうなんですよ。おっしゃる通りで、そういうのをものすごいリーダーシップで「そんなものは必要ない」って言ってやれる人しかできなくなってしまから、大企業はイノベーションが起きなくなってしまう。組織って外的環境に適応するようにみんな自然と収斂されていくと思うんですけど、ヒエラルキーって予測可能経済のもとで設計されてるので、物事が全て計画可能で。

宇都宮:大量生産の時代はそうですよね。

武井:そうです。大量生産とか高度成長期の時代に生まれた組織のあり方であって、組織って情報の流れが先にあってその上にデザインされるんですね。ヒエラルキーっていうのはアナログの環境下においては最も効率的な情報流通なんですよね。

宇都宮:一対一ですね。

武井:だから動物もヒエラルキー作ると思うんですけど、あれって何で作るかというと、ヒエラルキーを作ったほうが組織全体の生存確率が高まるから。

宇都宮:情報伝達の仕方とかですよね。

武井:だから本来は強い人ほど上にいてそれの言うことを聞いたほうがみんな生存率が高まるっていうものなんですけど、ITが生まれて情報の流れが変わったじゃないですか。一対一じゃなくて多対多ができるようになった。これって実際に世の中でみんな体感してると思うんですけど、例えば昔って学校だと連絡網っていうのがあって、電話で伝言ゲームをしていくじゃないですか。誰かが間違えると後ろ全部間違えるじゃないですか。あれってヒエラルキーが本来的に持っている危うさなわけですよね。ここが腐っちゃうと下が全部腐るんですよ。ツリー構造と一緒でここの紐を切ると下全部落ちるんですよ。壊死してしまう。でもホラクラシー的な情報の流れって最近のママさんたちってLINEグループで「明日インフルで学校休みらしいよ」って言って「あ、そうなんだ」って言っておしまい。多対多だから一瞬でおしまいなんですよ。だから情報の流れがもう変わってるんですよ。情報の流れがこういう形になったとすると、これに合わせた組織設計が必然的に必要になってくる。それがホラクラシーだと思う。

宇都宮:情報の流れが複数方向に行くと受け止め方で変わってくるじゃないですか。

三木:誰かが間違えたことを言ったらそれに対して「間違えてるよ」って突っ込みが入るみたいな。

武井:自浄作用が働く。体と一緒ですよね。


●アメリカのホラクラシー経営との違い

武井:ホラクラシーっていう言葉自体が今少しずつ広まってますけれども、アメリカで言われているホラクラシーと我々がやっているホラクラシーって実は全然違ってて。

三木:そうなんですか?

武井:ホラクラシーっていう名前が普及してきたからうちも乗っかっただけでして、アメリカのホラクラシーはもちろんヒエラルキーよりも踏み込んだことをやってますけれども、情報の透明性には言及しないんですよ。だから給料もオープンにしろとかって言わない。ホラクラシー憲法っていうのをブライアン・ロバートソンっていうホラクラシーっていう単語を作った人が作っていて、でもそれは会議の運営メソッドとかチームの運営メソッドなんですね。

誰かが他のところと連絡を取り合って情報を共有できるようにしないといけないとか、肩書きはなくそうとかってやるんですけど、情報の透明性がなければそもそも成り立たないですけど、でもそれは相当経営全体に振り向かないとできないじゃないですか。だからアメリカってホラクラシー企業増えてますけどみんな失敗するんですよね。

三木:一応増えてることは増えてるんですか?

武井:少しずつ導入をして。

三木:だけど失敗しちゃう?

武井:失敗したり、部分的にだったり。会社全体が生物的に自己組織化をしながら回っていくっていうところにはやっぱりいかなくて、でもそういうふうにいかせるためには情報をまずデジタル化して、組織全体に関わる人の情報の格差をなくせば権力っていうのがそもそも勝手に弱まっていくので。


●ホラクラシー組織での働き方や評価について

宇都宮:ダイヤモンドメディアさんってそういう組織になってるとしても、新しく入ってくる人は違うところから来るじゃないですか?最初はこういうことを学ぶ感じなんですか?

武井:人それぞれですね。もう本質的に合う人もいますし、合わない人もいますし。合わない人は言われたことはやるけどそれ以外のことに気づけない人っていうのは難しいですよね。うちの会社って周りとのつながりで仕事をしていくので、コミュニケーションドリブンなんですよ。常にチームと共有しながら「今どんな感じ?」「チームで今何が必要?」「会社で何が必要?」っていうのを自分自身が理解しないとそこにフィットしていけない。

宇都宮:情報は透明にしても情報発信がないと見えてこないってことですよね。

武井:情報発信というよりは周りとか会社の声に耳を傾ける力というか…

宇都宮:受信力っていうことですか?

武井:そうですね。我々の中ではコミュニケーションっていうのは相手を理解する力として捉えてるので、相手を理解する気のない人っていうのは「この仕事お願いね」って言われて「いつまでにこれこなします?」っていうタスク型の仕事の仕方しかできないので、逆に言うとそれが全部が全部悪いわけじゃないですけれども、そういう仕事の仕方であるのであればアウトソースでいいじゃないかと。別に内部の人間にならなくてもいいよねっていうただそれだけ。

宇都宮:会社の人と会社じゃない人が一緒に仕事をしてるとか、そもそも組織の壁自体が薄まってるとかって。

武井:時間と給料が連動してないので、週何日働こうがいいわけですよね。その人がもたらしてる価値で給料というか相場が決まっていくと。

宇都宮:相場制っていうのがおもしろい。

三木:毎日来る必要はないわけですね?

武井:休みも自由ですし、ただ「いや、俺は一切仕事したくないんだ」ていうのであれば別に給料を払わないだけなので。

三木:(笑)なるほどね。

武井:半年に1回給料会議というかそういう場を持ちますけど、そこはめちゃくちゃシビアですよね。ズルができない代わりに貢献している人はすごいちゃんと周りで評価額が決まってくるのでどんどん給料上がりますし、給料上がらない人はずっと変わらないですし。

三木:全体の会議で決めるんですか?

武井:いや、部署ごとに分かれて相場を整える。誰かが給料を決めるのではなくて、全員の給料を見ながら「こことここはもっと差があったほうがいいね」とか。

三木:チームの中でも当然違うわけですね?

武井:そうです。誰かの給料を査定するっていう場ではなくて、給与相場をみんなで見て整えるっていう。その整える時は3つのガイドラインがあって、客観的情報、マーケットバリューとか定量的なデータっていうものをちゃんと確保する。それから加味してはいけないものっていうのがあって、例えば個人の意見とか「俺は給料もっとほしい」とかっていうのは一切無視する。

三木:そうなんだ(笑)。

武井:その人の特性と仕事がマッチしてるかだけしか合わせないですし。働いた時間とか加味されないですし。一定期間、いつからいつまでの成果をとかっていうふうにも見ないですし。そもそも成果と給料が連動してないので、成果主義じゃないんですけど実力主義ってうちはよく言うんですけど。

三木:そこが肝みたいですね。何となく。その給料を整える会議が肝ですね。そこは合意形成されるわけですか?ディスカッションして。「この人はこうだよね」みたいな。主張はできないんですか?「私はこうほしい」とか。

武井:言ってもいいですけど、それに客観的な根拠があれば。「今俺は会社で○○をやっていて、それは他の人がこれぐらいできなくて、マーケットバリュー的には○○で、アウトソースしたとすると○○ぐらいの価値があって、同じぐらいの能力の人を採用しようとすると○○ぐらい難易度が高い」とかっていうのをちゃんと説明できればすぐ上げれますし。

三木:それは自分で説明する必要があるんですね。客観的なデータとか。

武井:説明しなくても周りが勝手に給料を上げちゃうので。そういう人の場合は。

三木:周りが決める感じなんですね。誰か一人じゃなくてチームが決める?何か投票システムみたいなのがあるんですか?

武井:いや、その場で給料を見ながら。

三木:「これはこんな感じだよね」みたいな。

武井:「差がついたほうがいいね」とか。

三木:おもしろいですね。1チームだいたい何人ぐらいいるんですか?

武井:7、8人ぐらいまででこうやって…

三木:それ以上増えたらまた別にして。

武井:そうですね。

三木:7、8人っていうのは何か経験値から?

武井:そうですね。8人ぐらいまでが適正かなとは思ってますね。対面のときのコミュニケーションだと。ケースバイケースですけど。

宇都宮:ボスがいないわけじゃないですか。ヒエラルキーじゃないってことは。

三木:永遠と議論があって決まらないみたいな?

武井:いや、それはないですね。基本的に権力っていうものはないですけど、実力の差はあるじゃないですか。能力の差はあって。その能力の差は何に現れるかっていうと、うちの会社だと実力給っていう給料の差でっていうので、基本的には自分より実力のある人の評価ってできないじゃないですか。ものさしがないので。だから実力が高い人が自然とリードしてファシリテーターとしてまとめていく感じ。

三木:場が勝手にできていくっていうかその中で自然とリーダーというかファシリする人が出るみたいな感じですか?

武井:給料高い人が率先してやっていく感じです。

三木:給料高い人がちょっとファシリテーションしてみたいな?そこも何か自然に任せるというか自動的に場づくりができるという。


●エゴが暴走しない仕組みづくり

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武井:相場を整えるだけなので会議は1時間ぐらいでおしまいですし、「いや、俺は納得できない」っていうのは加味しないので。

三木:加味しないんですね(笑)。

武井:個人の感情とかモチベーションとかやりがいとかって実はうちの会社一切扱わないんですよ。それはその人個人の話であって、組織全体と何も関係がないですね。言った者勝ちの世界じゃないですか。そういうのを持ち出す時っていうのは往々にしてエゴが暴走してる時なので、我々が作ろうとしている組織っていうのは昔から稲盛さんとか松下幸之助さんみたいにすばらしい人格者が会社を統治している時はすごく整うけれども、いなくなった途端に腐敗していくっていうことも繰り返されるじゃないですか。あれってエゴが暴走し始めるんですよね。エゴの暴走って何かっていうのを我々研究して突き止めたのが、自分の実力以上を求めた時に暴走し始めるんですよね。本人の実力と給料とかやってる仕事に差が出て、例えばその人が今やってる仕事がこのぐらいの難易度があって、でもその人の本来の実力ってここしかない。正しい形は実力を上げてまかなえばいいじゃないですか。でも実力がどうしても届かないとここを色んな方法で埋め始めるんですよ。実力以外のもので。それが嘘であったり他の人をけなすとか情報統制とか情報をコントロールして他の人に見えなくさせるとかっていうことが起こるんですよ。でもそのエゴの暴走自体を、「それは暴走させたお前が悪い」って言ったらそれはそれまでなんですけど、でもエゴって人間消せないので、暴走しない仕組みを作ろうと。ここでミスマッチがした時に、まずそもそもそれが問題が表面化するような仕組み、その表面化した問題をちゃんと合わせないと次に進めない仕組みっていうのに…

宇都宮:仕事と実力をこう…

武井:そうです。だからこうなってる(差がある)と「頑張れ!頑張れ!」っていうのはうちは一切しないんですよ。

宇都宮:やりがちですよね。根性とか。

武井:できないものはできない。普通の組織だと成長っていうものが絶対的に良いものとしてあって、成長しないといけないっていう圧迫があるじゃないですか。それを全部捨てちゃったんです。成長する人はする。しない人は別にしない。でもするもしないも良いも悪いもないと。

宇都宮:実力に合った仕事をしていればとりあえずは良くって…

武井:背が高いか低いかみたいなもので、そこに良い悪いはなくて、能力も生まれ持ったものとかその人が求めてるもので全然違うじゃないですか。その人が言ってることとその人が求めてるものって実は全然違ったりするので。

宇都宮:気が楽ですよね。

武井:そうですね。言行一致じゃないですけどその人がやってることが全てなので、そこに合わせて仕事ができない人はどんどん仕事のレベルを下げていきますし。

三木:それが悪いわけじゃない?

武井:でもそこで仕事と本人の実力がマッチしていて、給料もここまでしか会社としては払えないですけど、それでも良ければいいじゃないですか。プラスマイナスがちゃんと合ってるので。その人の能力っていうものが実は他の領域でもっと高いとかそういうものは他の部署を手伝って仕事の幅を広げればいいじゃないかというのがある。だから管理部門の仕事を手伝う人間もいたりとか、仕事がそうするとこの組織の枠を越えていくんですよ。仕事の広げ方が深掘るのか横に広げるのか縦に伸ばすのかっていうのはその人それぞれの特性であって、伸ばし方が結構みんなバラバラ。


●武井様の考える「日本の○○の未来」について

三木:本当はもっと色々お話を聞きたいんですが、ちょっと時間の都合がございまして。いつも最後に皆さんに同じ質問をしてるんですけど、「日本の○○の未来」についてという質問をさせていただいてるんですけど何かありますか?「日本の○○の未来」。

武井:僕はやっぱり日本に限らず世界の会社、企業のあり方っていうのを再定義しないといけないかなと。組織って色々発展してきて今は株式会社が一般化してますけども、株式会社の法律とか仕組みがITが生まれたことによって全然時代遅れになってるので。

宇都宮:法律も含めてですよね。

武井:そうですね。だからみんなフリーランスとして働いたりしてますけども、でもやっぱり母体というものが必要だと思っていて、資産をずっと維持させるためには母体が必要で、その母体が今は株式会社しかなくて、でもこういう経営をしてると今の会社法が明らかに欠陥がある。株式会社の欠陥って他にも研究してみたら結構出てくるんですよね。株式会社って刑事責任が問えないんですよ。だから暴走するんですね。暴走したほうが会社としては儲かっちゃうから、株式会社が突き詰めていくとモラルが破たんしてしまうっていうのは、会社とか中にいる人の問題ではなくて制度の問題なんですよね。だからこれ自体は見直していかないといけないですし、そう考えるとCSRとかっていうのを掲げる必要性すらないと思っていて、仕事をすること自体が本来は世の中への貢献のはずなので、でもそれをCSRとかって掲げなければいけないっていうのはもう株式会社が限界に来てるっていうことだと思うので。

宇都宮:そういう未来を先取りしている?

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武井:ギリギリのラインを、逮捕されない範囲で色々やっていって。

三木:それを研究しているって感じですか?

武井:それを突き止めていって、でもそれをやりながらビジネスとして結果を出すことで、我々のやっていることが経済合理性が高いんだっていうのを証明して、新しい法律だったり組織の運営の仕方、自治体の運営の仕方、政治の回し方っていうもの自体の変化の礎になれたらいいなと。

三木:すばらしいですね。

宇都宮:ITによってかなり変わってきたんですよね。

武井:そうですね。ITなしでは作れないと思っているので。

三木:そういう研究所をいずれね。そういう新しい組織の研究所、ちゃんとそれぞれが経済合理性があるっていうことを…

宇都宮:あらゆる組織があるってそれぞれがたぶん制度疲労をしてますもんね。

三木:政治もそうだしね。

宇都宮:学校とかもそうだし。

武井:そうですね。

三木:そういう未来を作っていきたいっていう感じですね。

武井:そうですね。

宇都宮:研究所を(笑)。

三木:本日はダイヤモンドメディアの武井さんにご出演いただきました。どうもありがとうございました。

武井:ありがとうございました。


対談動画


武井浩三さん


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