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【2019/5/24開催セミナーレポート】「オックスフォードに学ぶ 哲学xイノベーション」 〜西田哲学に見る、人類叡智とのつながりの可能性〜 前編

①株式会社enmono 三木康司による講演

三木:当社は株式会社enmonoという会社でございます。

やってる事業は色々あるんですが、主に新しい事業を考えるzenschoolという学校をやっております。

アイデアを考えるだけだと実際に事業をできないので、資金を調達するためにクラウドファンディングサービスであるzenmonoというプラットフォームを提供しております。

その後で集めてきたお金でモノを作るということでzenfactoryというモノづくりのネットワーク(ハードウェアアクセラレータ)を提供しており、実際に製品ができたらそれを実際事業として成長させるためのコンサルティングなども行っています。

自己紹介

私自身の自己紹介ですが、富士通という会社におりまして、その後大学院でイノベーションについて学び、大学院時代に、とあるベンチャーに誘われて卒業せずにベンチャーにそのまま行きました。ベンチャー時代に非常に自分のやりたいこともできましたし、比較的高いお給料をいただいてワクワクしながら働いていたんですが、ベンチャーというのは良い時は良いんですが、悪くなると一気に業績が悪化になりまして、「給料の高いほうから辞めてください」ということでいわゆるリストラになりまして、自宅で何もしない日々が続く鬱っぽい感じになりました。その中で自分の心を何とか立て直したいということで、外にも出られなかったのでインターネットで心の落ち着く方法などを検索したら、YouTubeで座禅のやり方というのが出てきまして、それを見ながら見よう見まねで自宅で座禅をして少し外に出れるようになりましたので、その後で(今日も来ていただいてる)藤尾和尚のところに行って指導していただいて何とか回復しました。自分の心を自分でケアしていった経験をもとに、禅というのものが心の安定だけではなく、副産物としての雑念自体が何か起業のきっかけになることに気づいて、それを広める学校をやりました。また、Zen2.0という禅に対してのお礼のイベントをすることになりました。

これはとある有名な方の結婚式の写真です。こちらの男性をどなたか分かりますか?

聴衆:スティーブ・ジョブズ。

三木:いえ~い。スティーブ・ジョブズさんが若い頃から禅に親しんでいて、曹洞宗の禅堂に通っていたと言われていますが、そんなスティーブ・ジョブズの非常に有名なスピーチがありますので、それを皆さんにご紹介したいと思います。

三木:今のスピーチを要約しますと、『他人の考えに溺れるあまり、あなた方の内なる声がかき消されないように。そして何よりも大切なことは自分の心と直感に従う勇気を持つことです。あなた方の心や直感は自分が本当は何をしたいのかもう知ってるはず。他のことは二の次で構わないのです。』ということで、このような優れたイノベーターがどのようにたくさんのイノベーションを生み出したのかというヒントがこのスピーチの中に入ってると思います。我々のような一般人がそのような優れた直感というのをどのようにして実際の生活に使っていったらいいのかということで、我々は1つの教育プログラムにできるんじゃないかということで8年ぐらいかけてzenschoolをやって参りました。

こういう流れになります。基本的には1年間のプログラムになるんですが、元々は町工場、中小企業のおやっさん達が新しい事業を生み出す時になかなか良いアイデアが出ないということで、それを一緒に考えるというのをセミナーを通してやっていくと。皆さん非常に高い技術をお持ちなんですが、仕事っていうことでこれをやらなきゃいけないみたいなのが結構多かったんですが、でも自分の心に真摯につながってるかっていうとそうではなかった事例が多かったです。


トゥルー・イノベーションという考え方

今回ご紹介したいトゥルー・イノベーションという考え方は、自分の心に真摯であるという意味でのトゥルーということになります。今色んなところでイノベーションとたくさん言われています。日本では技術的な革新と訳されますが、本来の意味は新結合ということで、全く関係なさそうな事柄を結びつける思考法です。でもそれをやろうとした時に、特に成長した大人の脳は「これとこれそんな結びつくわけないよ」って思っちゃうんです。でも子供のような心になるとそれが結びつけられるということです。イノベーションの現状をちょっとご紹介したいと思います。

例えばちょっと前流行ったIoTというインターネットをモノに接続するような技術と植物プランターを接続したらどんなイノベーションが起きるのかということで、その言葉でGoogleで画像検索してみたらもうすでにたくさん同じような事例が出てきました。

これを考え着いた方はすごいイノベーティブだと思って開発しているかもしれないんですが、実はもう同じようなものがある状態は経営学の言葉でRed oceanと言って、競争環境が非常に厳しい中で自分の差別化をする、あるいは値段を維持できないような状況が続くと。でも開発していった方はそんなに競争が激しくなると思ってやってたわけではないんですが、結果としてこうなってしまったと。

なぜかというと、通常新しいモノを作ろうと思った時に自分の外あるいは自分の会社の外にある情報を参考にして、「この会社はこういうのを開発したからそれより値段を安くしてみよう、機能を加えてみよう」みたいな感じで、外にある情報をたくさん持ってきてそれをミックスすると。それを我々はMe tooイノベーションと呼んでいます。

Me tooって「僕も同じようなことします」ということです。それに対して我々のトゥルー・イノベーションは個人の中にある記憶とか感情に基づいた製品開発をしましょうということで、イスを使った瞑想を使ってそういった情報を取り出してそれを製品開発にしようと。

我々の卒業生が152名(2019年7月現在)ほどおりまして大きくタイプは2つに分かれます。これの縦軸は製品の付加価値、横軸は時間を取ってますが、非常に頭が良い方はこの赤い線のような形のパターンを取ります。

似たような商品があってそれを真似するとか、そこに自分の付加価値を加えると。もう似たものがあるので製品の立ち上がりスピードはものすごい早いんですが、オリジナリティが少ないから結局頭打ちになると。もう一方が青いほうの線になります。これは世の中にないものですが、自分の本当に心からやりたいことに基づいて開発をします。そうするとすごい時間がかかるんですが、ある一定以上のところまで来るともう他が追随する競争相手がいないので一気に市場に出ていくと。こういう流れを2つご紹介しました。

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十牛図という考え方

この卒業生達の心の動きを講座をしながら見ていくと、禅の考え方の中に十牛図という考え方があります。

これは悟りというものを一頭の牛に例えて、それを追いかけていくという考え方です。我々は悟りを求めてる学校ではないので、牛を自分が開発しようとする商品とかサービスに置き換えていますが、最初この少年が家で飼っていた牛が逃げ出したので外を一生懸命探して回ります。そうすると牛を見つけたと言って牛を捕まえて自分のお家に持って帰る。一生懸命情熱を懸けて追っていったんだけど、家に帰ったらそもそも牛いたんだっけということも忘れてしまう状態で、本当に重要なことは自分の中にあったんだと気づいて、そこに対して一生懸命打ち込んでいくと自然と運命的に不思議なことが起きたり、やりたいこととか事業がうまく成功して、最後に自分の得たことを人に超自然体で偉ぶらない感じで教えるという流れです。これって事業を1つ作るのに非常に近い流れを何年も他の卒業生で実際見ています。何でこういうことが起きるのかなって後ほど村田さんから解説してくれるかもしれません。

このzenschoolの中ではとにかく(心理的に)安全な場を作るということで、お互いにNDAを結んで情報を漏らさないという契約をした上で、自分の恥ずかしいような情報も全部開示するという徹底した自己開示をやっています。例えば趣味は何だとか宗教観とか高校時代にこんなひどい思い出があったとか講師のほうから全部開示した上で、お互いにそれをシェアしていくと。そのようなことを行った後に今度イスを使った瞑想をします。マインドフルネスって言葉をよく聞くと思うんですが、こういった座禅とか瞑想だけではないんです。実は音を聞くこととか歩いたりとか食事を食べる、お掃除をする、そして何かの作業に打ち込むっていうことに特に集中している状態のことをマインドフルネスって言うんですが、そういった状態の時に心がそこにあると非常に気づきやすい状態が起こります。

このマインドフルネスは今世界の様々な企業が導入していますが、感情知性が上がったりとか、ストレスに強くなったりとか、集中力が高まると言われています。有名なところではGoogleが今導入していたりしますが、我々は創造性を上げるためにこのマインドフルネスを使っています。

これはイス座禅をやっているところですが、こういう法具(シンギングボウル)を使いながらイスに座って短い瞑想を30分ぐらいします。

実際に学術的に調査をしてみようということで、慶應大学の前野先生と共同研究をさせていただいております。

前野先生は幸福学を専門にされてる方なんですが、幸福度を測るアンケートを使って、受講前と受講後でどのくらい幸福度が変化するか、そして創造性もアンケートで取ったところ、81人のデータを見る限りでは統計的な処理をかけて、これは有意な結果があると出ています。ただその中のロジックに関してはまだこれから色々議論があるところになります。この研究の一部をカナダの学会で2年前発表していただきました。

こういった瞑想がもたらす効果は不安をどんどん受け流して不安感が希薄になります。そうすると本来自分が忘れていたワクワクする心というのを見つけることができます。


ワクワクトレジャーハンティングチャート

具体的には、これが我々が使っているワクワクトレジャーハンティングチャートというものになります。

下には自分の会社あるいは自分の持ってる特技を書いていただいて、左側にはその方が10歳の頃の夏休みにどういうことにワクワクしていたのかを瞑想を通じて思い出していただいて3つ書いてもらいます。ワクワクすることと自分が持ってるスキルでどのような製品やサービスが生み出されるのかを対話の中から生み出します。例えばこれはあるバネ屋さん(五光発條 村井さん)が開発したおもちゃなんですが、小さい精密な工業用バネを組み合わせて大きな龍神様を作られたんですが、これが東急ハンズなどで売られる製品になりました。


課題と問いの違い

我々が非常に大切にしていることなんですが、今企業は課題解決が重要だと言われていますが、課題っていうのはどちらかと言うと他人事になりがちなんです。誰かこういう課題を抱えてて困ってるから解決しようみたいな、そうすると一生懸命やるがそれは自分のことではないのであまり情熱を懸けられない。一方問いというのはあなたの世界っていうのを作っていただいて、「どういう世界にあなたはここをしたいですか?」という問いで、中心にはあなた自身がいてその世界を作るということで、課題よりもむしろ問いに近い本来その人がやりたいことっていうのを対話を通じて生み出していきます。

その世界観を取り出すプロセスをご紹介したいと思います。この女性の方(エストロラボ 東山さん)はある大阪の町工場の経営者で10年ぐらい製造業をやっていました。

対話の中で実は製造業はあまり好きじゃないことが判明し、それよりは飲食業をやりたいということで、「どういうところにあるお店なんですか?」ということで、中小企業の社長だけ入れる会員制のバーということで、これは社長が電話してくれて、この狭い路地を入って行ってお店に入って行くと。でもこれだとあまりにも情報がないので聞いていくんです。「じゃあこの社長は今どんな気持ちで、今何月何日の気温はどのくらいで天気はどんな感じですか?」「この持ってる鞄の重さはどれぐらいですか?」「この路地を入って行ったらどういう匂いがしますか?」「お店に入って行ったらどんな音楽が流れていて、どういう照明で…」と細かく問いかけていきます。そうすると世界が非常に緻密に描き出されます。ここまで頭の中にビジョンができるとあとは簡単でそれを実際に作るということで、これは町工場の2階にできた会員制のバーです。中小企業の社長しか来れないということで、そこで大阪の町工場のおっちゃんの愚痴を聞きながら、「社長、それだったらうちできまっせ」みたいな感じでそこで仕事を受注する新しいビジネスモデルができました。

別の事例ですが、これも町工場、金属のプレス技術の会社です。この方は秋山さんという方で、爽やかな青年に見えて実はボクシングとキックボクシングが大好きという方です。

取り出したワクワクは音楽とかボクシング、そして肉体強化、持ってる技術は金属の加工技術です。肉体の強化と金属加工で出てきたのがこういう訳の分からないドーナツのものです。実はこれは中に鉄球が入っていて、それを高速で回転させると筋肉に負荷をかけるというようなグッズになります。

こんな感じでブルブルやることで筋肉に負荷をかける。子供も持てるぐらい非常に軽い。これを開発しまして、ちょっと可愛いバージョンも作りまして、これをクラウドファンディングにかけましたら、100万円以上集まりました。

全くこういったものに興味を示さないと思われていた若い女性や整骨院から集まりました。今本人はこんな筋肉バカというブランディングで町工場もやりながらやってるんですが、もっと面白かったことは製品開発をする前の売上を仮に100だとして、製品開発をしまして1年後の売上が150までいきました。そして2年後250。これはこの商品がすごい売れたっていうことではないんです。この中に入ってる製品の丸く金属を削る技術に注目が集まって、ほとんどがその製品じゃなくて本業の加工のほうで仕事が増えました。さらに良かったのはこの会社は1社の依存が非常に高かったんですが、それが93%から40%まで下がって、この業績でこの方は専務から社長に代替わりしました。

もう1人がちょっとブルースリーっぽいニットーの藤澤さんという方です。

この方のワクワクはヌンチャクで、金属の加工技術を持っているのでこんなようなiPhoneのケースを。

昔こういう風にピタッとやる携帯、iPhoneはそれをやりたくてもできなかったんですが、これはそれをピタッとできて、しかもヌンチャクのように振り回せる。ヌンチャクの音が出るアプリを入れるとこんな感じで、これもクラウドファンディングで130万円ほど集めることができました。町工場としては国内初でやりまして全部大成功して2年で1.2万台出荷しました。その後バージョン2を作ってYouTubeで63万回ぐらい再生されて、そこにECサイトのリンクを貼っていたら世界42ヵ国から注文が来て3万台ぐらい売ったということです。この製品開発の仕方が非常に評価を受けまして、神奈川県の工業技術開発大賞とか経産省の賞もたくさん取られました。今はさらに進んでこのようなスキーブーツのようなモノを開発されました。

これはブーツではなくて足に装着するイスです。どのような現場で使われるかと言うと、医療現場でお医者さんがずっと立って長時間手術をするということで、高齢のお医者さんは足に非常に負担がかかるので、このイスで支えながらしかも歩けるので邪魔になりません。体重を後ろにかけると空気イスみたいな感じで座って突っ立ってる感じになります。

最初はヌンチャクiPhoneケースだったんですが、1回それで小さい成功をするとどのように製品開発をしてどうやって広めるのかがもうインプットされます。それをどんどん自分で改良していくとこういう製品開発につながると。これは昨年から売り出して非常に好調に様々なところから依頼が来ているということです。

最後にこれはAIの製品になります。Tさんという方で、大手ITベンチャーの子会社のエンジニアさんです。子会社なので親会社の作ったあまり出来の良くないプログラムのバグを延々と直すという仕事を10数年やっていて、そうするとプログラムのコードを上から下までバーッと流しただけでだいたいこの辺がバグってるなっていうのがすぐ分かるという特殊能力(技能)を身につけました。いわゆるITエンジニアの美的感覚というものです。そして自分が直すんじゃなくてそういう仕事は全部AIにやってもらおうということで、美的意識をAIに全部流し込みました。そうすると自分はバグを直す仕事がどんどん減ってもっと上位階層の仕事ができる。これは瞑想の中でいかに自分がエンジニアとして虐げられていたかという想いから開発したということです。

なぜイノベーションが起きるのか。

これは私なりの解釈なんですが、野中郁次郎先生という日本で著名なイノベーションの権威の方がいらっしゃいます。この方はカリフォルニア大学のバークレー校の先生でもあられまして、日本人では初めてハーバード・ビジネススクールから特別な賞を受賞されておりますが、有名なところでは暗黙知と形式知という言葉を使われています。

表出化というのはイノベーションというものを言葉で表し、その言葉を組み合わせて、その組み合わせた言葉を今度組織の中とか個人の中にどんどん入れていきます。そしてさらにその作業をしながら肉体の感覚からまた新しい知を生み出す。こういったモデルが有名なんですが、我々の考えているトゥルー・イノベーションとMe tooイノベーションがどういう風に当てはまるのか。こちらがどっちかと言うと肉体的な感覚をベースにしたイノベーションの生み出し方、こちら側が言葉、形式知になっています。Me tooイノベーションは頭で考えるので言葉を組み合わせていきます。でも机上で組み合わせていくのでなかなか現実とフィットしないということで、ここを行ったり来たりするような感じです。トゥルー・イノベーションの場合は自分の内側の感覚から「あ、これがやりたかった」というのを取り出して、それを言葉に表出して、さらに組み合わせてそれを実行してみる。こっちのアプローチのほうがイノベーションが起きやすいのではないかというまだ仮説のレベルに近いんですが、野中先生のモデルに重ねるとこういうことになるんじゃないかなとザックリと感じております。

いわゆる新規事業を生み出せる確率っていうのは3/1000で1000個あったら3つぐらいしか事業になりませんということなんですが、それに対して卒業生の25%、1/4が何らかの新規事業を生み出したということで普通に数字で表すと83倍ぐらいの確率になっています。どういうところがポイントなのかというのは正直我々もまだ論理化できておりませんので、後半の村田さん、ボイドさんにお願いできればなと思います。

最後にお伝えしたいメッセージなんですが、イノベーションって誰かすごい特別な人だけが生み出せるものではないと我々は思っていまして、本来その人の中にある巨大な叡智を取り出すことでイノベーションを起こせるんじゃないかと思っています。どうもご清聴ありがとうございました。

後編に続く


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