J2 第2節 岡山 vs 栃木 レビュー


岡山 3 ー  0 栃木 

2018年3月4日(日)14:03KO Cスタ



◎試合全体の流れ



岡山がボールを持ち、栃木が構える形で進行した試合となりました。岡山はボールを奪ってから即座に前線にボールを送るダイレクトプレーや、FWへのロングボールとそのセカンドボール争いを優位に進めます。栃木は岡山の攻勢にファウルがかさみ、岡山が得意とするセットプレーに持ち込まれる苦しい展開。岡山はファウルで得たセットプレーから2得点、後半にはいってまたしてもセットプレーで3点目を奪いさらにリードを広げます。3-0としたあとは守備を固める岡山。ピンチは多少あったものの危なげない試合運びでクリーンシートを達成。完勝と言って差し支えない試合内容でした。




それではまず、両チームのフォーメーションから確認していきましょう。



岡山のフォーメーションは3421

栃木のフォーメーションは442

次に、両者のフォーメーションのかみ合わせをチェックします。


両チームとも最終ラインのところで数的有利がありますので最終ラインではボールを持ちやすくなる傾向が考えられます。中盤のほうは数的に同数なのでこのエリアではマークがはっきりしてボールを持ちにくい可能性があります。


この試合では、岡山が栃木の守備を攻略していくシーンのほうが多かったのですが、率直に言うと岡山の攻撃は栃木の守備をものともしていませんでした。珍しいことに3得点ともセットプレーがらみだったのですが、セットプレーをもらうまでの流れで岡山が栃木を上回っていたからこそ生まれた得点でした。どうして岡山の攻撃は栃木の守備を上回ったのか?


それには2つの理由があります。


ひとつは栃木の守備と岡山の攻撃のかみ合わせの悪さ。

そしてもう一つはイ・ヨンジェ・赤嶺の強力2トップの強さ。


この試合の先制点は上田選手の見事な直接FKによるものでしたが、このFKを獲得するまでの流れに答えが隠されているので今回はここを中心に詳しくチェックしていきます。


※レビューの売り上げは基本的にファジアーノ岡山関連の出費に充当させていただこうと思います。



◎上田康太の芸術的FKは偶然生まれたものじゃない




一つ目の理由は岡山の3421と栃木の442のかみ合わせの悪さということで、もう一度栃木の守備の布陣を確認してみます。



栃木の442のブロックを相手にするうえでねらい目となるポイントはこちら



まず、2トップの脇、そして左右のブロックの脇、そして大裏。このエリアにはスペースがありますので、ここをうまくつくことができればチャンスを作り出すことができます。

この守備陣形に、岡山の攻撃の時の陣形を当てはめてみるとこのように。



相手のブロックの中はやや難しいですが、その外側ほとんどのねらい目のスペースに人を配置できていることがわかります。栃木が守りにくいところに岡山の選手がきれいに配置されているんですね。特に重要なのが組み立てを担う喜山・上田のところ、そして椋原・三村の両サイド。ここを活用されてしまうと栃木の守備は難しい局面を迎えます。


まず、2トップ脇に位置した喜山・上田のところ。


栃木のFW2枚は能力の高い選手たちですが、あまり守備を積極的にしません。そのため、2トップの脇から攻撃を作る上田や喜山は栃木のFWに邪魔されずに自由に攻撃を組み立てられます。つまり、狙いすましたパスを前線に送ることができるということです。上田はもちろんのこと喜山もフィードを得意とする選手です。



次に、椋原・三村のところ。


ボールのないサイド(この図では椋原のサイド)のWBは一人孤立するような形でフリーになることができます。一方、ボールのあるサイドの三村はどうか。彼はあそこにいるだけで重要な仕事をします。


栃木の右SHは上田→三村のパスコースが開いているのが気になります。しかし、彼はタテパスのコース(この図では伊藤)も防がないといけない。ですから、伊藤を防げば三村が空き、三村を防げば伊藤が開く状況です。

一方、栃木の右SBは三村にボールが渡ったとき距離をつめて守りたいので、やはり三村が気になります。彼のほかに三村を防げる選手は周りにいませんから当然のリアクションでしょう。三村はスピードがある選手なので、ボールが入ってしまうと一気にタテに抜け出される心配があります。どうしても自然と、三村よりのポジション取りになってしまいます。



以上の条件をふまえて、先制点のFKのきっかけとなるファウルをどのようにもらうことができたのかチェックしていきます。



まず最初のシーンでボールの出し手となったのは左CBの喜山でした。彼の位置、そして三村の位置に注目してみると・・・

喜山は2トップ脇にしっかりとポジションを取り自由を得ます。栃木のFWはついてきませんから余裕があります。顔を上げて前方を確認、最も良いパスコースはどこか狙いをつけます。


三村はブロック脇、ちょうど栃木の442の44のラインの間に位置しています。三村が気になってますから栃木の右SBはどうしても近くにポジションをとってしまうのがよくわかりますね。喜山からボールが出ます。

三村によって右のSBがつり出され、栃木の4バックは大きくラインを崩します。ちょうど疑似3バックのような形となり、右SBの背後にはいわゆる3バック脇のような大きなスペースができてしまいます。そこに走りこむヨンジェ。喜山が狙ったのは右SBをつり出した裏にヨンジェを走らせることでした。


前節の徳島戦でもそうでしたが、イ・ヨンジェ、赤嶺のヨン嶺コンビは強力です。ヨンジェは184cm、赤嶺は180cmと高さがあり二人ともフィジカルが強い。ヨンジェはスピードもあってドリブルで自分で突破もできるので、いい形を作らせるとストップするのに手を焼く怖い選手です。この選手を止めるには同じくらい強いCBをぶつけて潰すか、そういうタレントがいなければ複数人で守る必要があります。再びシーンに戻りましょう。


ヨンジェにCBをぶつけて抑えきれないとき、ヨンジェに抜け出されてGKと1vs1になってしまう危険性がありますから、できれば右SBと右CBの2人がかりで安全にヨンジェに対応したいところです。しかし、右SBは離れて三村につり出されています。そうなると、右CBはなんとしても自分のところでヨンジェをつぶさないといけません。


逆に言えば、岡山はCBとヨンジェの1vs1のチャンスを意図的に作ることができているわけですね。保険のない不利な形で1vs1を挑まれていますから、どうしてもファウルぎみに止めに行かなくてはならなくなる栃木。結果、ペナルティボックス手前という絶好の位置でFKを得ることができた岡山。上田康太の岡山帰還を高らかに告げる美しいFKで先制点をとった岡山でした。





◎2016シーズンを呼び起こさせる開幕してからの長澤ファジ




今回取り上げた先制点までの一連の流れ、改めて考えてみると実に長澤ファジらしい得点だなぁと感じます。長澤ファジらしさ、というとすぐに思い浮かぶのが岩政大樹、矢島慎也のいた2016シーズン。


あの年初めてPO進出をつかみ、惜しくも決勝で敗れて昇格を逃しましたが、当時のサッカーというのはそれぞれの選手の個性を足し合わせていくような足し算のサッカーだったなと記憶しています。具体的に言えば、セーブ率において群を抜いていたGK中林と異次元のエアバトラー岩政を中心とした堅牢な守備。中盤においては矢島が一手にあずかりゲームをコントロールしていく。前線では赤嶺が大黒柱になってボールを収め、その近くでチャンスを得た押谷がキャリアハイを記録。というように、それぞれの選手のキャラのよさがくっきり出ているサッカー、長澤ファジというとそういうサッカーを思い浮かべます。


前述の先制点、ボールを配球した喜山のフィード能力。相手のSBに脅威を与える三村のドリブル、スピード。イ・ヨンジェの強さ・速さ。そして、上田の高精度のキック。というように、それぞれの個性が非常によく足しあわされているなと感じます。


まだ2試合なのでどうなっていくのかわかりませんが、ややリスキーなことをやって失点してもその分獲ればいいというテイストがあった2016シーズンと比べてみると、今年のチームは失点するリスクをなるべく減らしつつ、得点力を維持するべく取り組んでいるように見えますので、より堅実なサッカーになっていきそうな気配を感じています。昨年の失点数の多さに対してしっかりとチームが取り組んでいる証拠かもしれません。


開幕2連勝とはなりましたが、相手の調子もまだまだだった感じは否めませんでした。次の相手は練度の高い大分トリニータですので、最初の試金石が来ますね。強い相手にどのように戦っていけるのか楽しみです。




◎ピックアッププレーヤー 上田康太・伊藤大介・塚川孝輝



この試合で気になった選手を何人か挙げて感想を添えておきたいと思います。


まず、この試合MOMに最もふさわしかった上田康太選手

セットプレーのキッカーとして、直接FKでゴールを獲り、3点目の喜山のヘッドを呼び込むCKも精度抜群でしたね。栃木が上田にマークをあまりつけてこなかったので終始自由にボールを散らしていました。しかし、ミスキックやもっとよい判断ができそうな場面もいくつかあり、きっと本人でもそこのところは満足していないのではないか?と思います。上田康太だからこそ高い期待をしてしまうのですが。


つぎに、今非常に調子のよさそうな伊藤大介選手

彼はプレーの判断がいまチームで一番早いんじゃないでしょうか?ボールが来てどこに出すとか迷うシーンがほとんどなく実によいリズムでサッカーをしています。見ていて楽しいですね。この試合では特にヨンジェへのパスが目立ちましたが、タイミングもキックもばっちりあっていてとても呼吸があっています。伊藤-ヨンジェのホットラインは今後も注目ですね。


そして、今一番プレーに注目しているのが塚川孝輝選手

彼はここ2試合で上田からのCKを3回もクリーンヒットしているんですよね。そのうち2本が得点に繋がっていて、セットプレーのストロングヘッダーとしてポイントになっている選手だと思います。また中盤で184cmの高さは大きなアドバンテージとなっていて、この試合でも相手の長身ペチュニク選手に競り勝ってハイボールを自由にさせませんでした。また守備でもミスからカウンターを受けるシーンでかなりの距離を走って火消ししていました。危機意識、守備範囲の広さ、ボール奪取力。渡邊選手や、島田選手は移籍しましたが、塚川選手がいれば何の問題もないと思います。ケガから回復してきた関戸選手も含めポジション争いがほんとに楽しみです。




それではまた。










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