J2 第6節 岡山 vs 甲府 レビュー

岡山 1 − 0 甲府


2018年3月25日(日)14:03KO Cスタ



◎試合全体の流れ



連戦最後の試合ということで疲労度を考えないといけない試合でした。甲府は3421でショートパスをつないでくるオーソドックスなスタイルなので、甲府のパスにどのくらい中盤の守備が食いつけるか?そこが難しい前半でした。しかも風下の条件でロングボールが使いづらい。そうなるとロングボールを多用する岡山の攻撃に悪影響を及ぼします。そういうこともありこの試合の前半はここ6試合でも最も難しいコンディションで戦わなければなりませんでした。しかし、ヨンジェカウンターで得たFKから後藤のヘッドで先制。前半の半ばを過ぎてからは足も動くようになり試合が落ち着きます。後半は前半とうってかわって安定の展開。ほぼ甲府の攻撃をシャットアウトできており、大きなピンチを迎えることなくここ6試合でもっとも安定した後半を過ごし勝ち切り。5勝1分で首位キープを果たしました。




・今回のレビューのトピックス

◎ミラーゲームを有利に導くシャドーの仕事

◎ここ6試合で最も難しい前半だったはずなのに・・・

◎後藤圭太のゴールとセットプレーの守備について

◎前半とは逆転してここ6試合で最も安定した後半

◎ピックアッププレーヤー 齊藤和樹・仲間隼斗・上田康太





それではまず、両チームのフォーメーションから確認していきましょう。

岡山のフォーメーションは3421

甲府のフォーメーションも3421

次に、両者のフォーメーションのかみ合わせをチェックします。




ということで、この試合もミラーゲームになりました。ミラーゲームではショートパスを繋ぐチームは厳しいマークにあう可能性がありますから、甲府の方は選手の立ち位置を変えて数的有利を作ったりと工夫が必要になってきます。岡山の守備のキモはCB陣の高さと強さ、および中盤の運動量を使ったパスの封鎖。前半は甲府の攻撃になかなか守備がハマらず苦戦しましたが、そこにはショートパスを繋いでボール運ぶために中盤を有利にする甲府のシャドーの仕事がありました。




◎ミラーゲームを有利に導くシャドーの仕事



「ミラーゲームでは中盤の枚数がかみ合ってしまうのでショートパスを使って攻める方は出し手も受け手もマークを受けやすくなってしまう」という前提条件に対し甲府は効果的にシャドーが動いて数的有利を生み出します。



大分戦のときもそうでしたが、3421でショートパス型のチームのキモはシャドーです。この図のように中盤でボランチの背後や脇にポジションを落としてくることによって、数的有利を作り組み立てやすくします。シャドーはこちらのボランチの死角にいますから上田・塚川が位置を確認しにくい。こちらのダブルボランチは相手のダブルボランチも気にしないといけないので守備が難しい状態になります。このエリアでの守り方がハマらなかったため、前半はかなりボールを動かされる展開となりました。

シャドーとボランチで有利を作ると甲府の中盤は前が向けます。そうすると岡山は下がって守備をせざるを得ず押し込まれてしまう。甲府の中盤にある程度の自由を与えてしまうと・・・・


卓越したパスセンスを持つ小塚からサイドチェンジや、裏へのスルーパスを出されてしまう。このように甲府の中盤に自由を与えていると、そこから有利にボールを動かされてしまいます。




◎ここ6試合で最も難しい前半だったはずなのに・・・




こうした甲府の中盤を抑えるにはシャドーを含めた中盤の処理の仕方を整理することと、継続して動きなおして相手の前進を阻む中盤の守備が必要になってきます。・・・・しかし、連戦なので疲労の問題がある。あまりこの状態が続くとこちらの中盤が先にバテてしまいます。なんとかボールを回収していざヨンジェカウンターへと繋げたくても前半は風下。ロングボールはかなり戻されますから、思ったような精度は出しにくい。これまでは守備か攻撃のどちらかでリズムをつかむことができていましたが、この試合の前半は攻守両面で難しい状況になっており、ここ6試合で最も難しい45分でした。こちらの得意なことが出しにくかったわけですからね。しかし・・・・


優位に進めていた甲府は決め手を欠いて前半の決定機は0でした。しかし、苦戦していたはずの岡山は先制点も含めると3度も決定機を迎えており、甲府よりよっぽどチャンスがあったという状況でありました。もしすべて決まっていたら、「最も苦しい45分ですが・・スコアは3-0です」みたいなおかしなことになっていて・・・


逆説的に岡山の今の地力の高さを証明する45分にもなりました。


決定機3つのうち2つはセットプレー(うち得点1)ですから、苦しいゲームをセットプレーの強みがどのくらい支えてくれているのか?を実感する前半でしたね。こういう試合は大きな希望を抱かせてくれる試合であります。なぜなら上手くいかない試合は絶対にやってきて苦しめられることは間違いないからです。そうした持ち味が出しにくい不利なゲームでも、勝ち点にこぎつけられる地力の高さがなければ順位を高く保てません。そういう資格が岡山にもありそうだぞ?と感じさせてくれる試合でした。





◎後藤圭太のゴールとセットプレーの守備について




この試合の決勝点は、典型的なヨンジェカウンターからのセットプレーという岡山の最も得意としている形から生まれたものでした。その後藤のヘッドですが、まさにドンピシャとしか言いようのないもので、狙ったエリア、そのエリアに入ってくるタイミング、ボールの質ともに完璧な一発で非常にきれいに決まりましたね。



甲府はセットプレーの守備は、基本的にゾーンディフェンスで守ります。守りたいエリアに選手を並べて、それぞれの選手の守れるエリアに入ってきたボールをはね返そうという守り方です。一方、マンマークディフェンスという守り方はその名の通り攻撃の選手に守備の選手をつけてそれぞれがそれぞれの選手をマークする守り方です。


このシーンではキッカーの上田の前に軌道の邪魔になる石の役”ストーン”として2名配置し、中央に5名配置してゾーンで守ります。塚川・ヨンジェ・濱田の184cmoverの選手に対しては、甲府の長身選手をマンマークで付けています。ですから、甲府はゾーンとマンマークの併用というところですね。ちなみに、後藤圭太にマークはついていませんでした。さて、問題の得点シーンです。


手前にいた喜山、斎藤がニア(ボールに近いほう)に寄ることで、彼らの背中には人が入れるスペースができます。そして圭太は迷わず邪魔されずにそのスペースに入る。で、とりわけ大事なのがCBの今津よりも前でボールに触ること。DFの前で先に触ることができれば、ゾーンで守る選手の方はほぼノーチャンス。防ぎようがありません。このシーンでも後藤のヘッドに競り合うことができていないのは、死角から勢いをもって侵入され自分の前のポジションをとられたためでした。というように、ゾーンディフェンスでセットプレーの守備を守ることには欠点があります。それは、精度の高いボールでピンポイントで点で合わされてしまうとなすすべがない、ということ。ですから、この得点はゾーンディフェンスの欠点を的確に突いた得点だったというわけです。


では、そんな弱点のあるゾーンをやめてマンマークすればいいじゃない?となります。しかしマンマークの場合でも弱点があって、動き出しの上手い選手にマークを剥がされてドフリーにしてしまう事や、単純に守備の選手の身長が足りなくて高さのミスマッチでやられてしまう事など選手の個性の差が出やすい点があります。岡山はこの試合でも180cmを越える選手が4名おり、斎藤・喜山はそれぞれ178cm、179cmです。これに対抗できる長身選手を並べなければ単純に高さ勝負で不利です。

・・・・これは悩ましい。

甲府はゾーンのほうがマシだろうと踏んでの守備だったのであろうと推測されますが、上田のキック精度とセットプレー巧者のチームにしてやられた、というところでしょう。喜山・齊藤の喜び方を見ると彼らが「おとりになって甲府DFの意識をニアに集め、見えないところから圭太がズドン!というシナリオどうりにいってよかった!」という感じに見えます。今年のチームは2016年のチームと同じかそれ以上にセットプレーが強いのですが、相手の守り方やこちらの狙いなんかを読んでみるのもセットプレーを見るうえで非常に面白いポイントだと思います。




◎前半とは逆転してここ6試合で最も安定した後半




前半の苦しさとはうってかわって、甲府戦の後半45分はここ6試合で最も安心して見ていられる安定した試合運びでした。前半で1−0とリードしたこともあって低めに構えて守るようになるのですが、懸案だった前半の中盤の問題でに修正がなされます。


背後のパスコースを意識してタテパスのコースを積極的に消しにかかります。これは同じタイプの大分戦のときにやって見せた守備ですね。これにより後方から甲府の攻撃のキモであるシャドーへのボールの供給を制限します。

そしてプレッシャーをかけられるときはボランチに対してプレッシャーをかけ自由な展開を許しません。シャドーを経由せずにFWやWBに裏を狙わせる展開もあり得ますから、かけられるときにプレッシャーをかけ、無理な時はタテパスのコースを切り、とこまめに動いて守備することで甲府の中盤の機能を無力化していきます。やたらと出たり入ったり出たり入ったりを繰り返さないといけないのでボランチには運動量が求められる守備ですが、前節上田康太をベンチに温存することができていますのでスタミナ的には大丈夫。一方塚川はずっと出ているのでここは苦しい。彼を下げて末吉を入れ中盤の運動量にテコ入れすることはある意味必然だったであろうと思います。


甲府は岡山が中盤の守備を修正してきたのでそれを上回る中盤の展開を作らないといけませんでした。しかし、シャドーの運動量が落ちてきたこともあって前半ほど岡山の守備を揺さぶったり振り回したりできなくなっていきます。またミラーゲームですからサイドやFWのところはガチの1on1になります。すこし守備に不安定さのあった岡山の左サイド(澤口)では展開が作れていましたが、バホスvsCB陣の勝負もスピード以外ではうまく封じることが出来ていて甲府は思うような攻撃を作ることができなくなっていきます。攻めの糸口を探す甲府は終盤に184cmの金園、186cmのジネイを投入し前線の高さで何とか起点を、というところですが岡山も高さは十分足りています。もしかしたら最初からジネイや金園の高さをシンプルに使われた方が嫌だったかな?とは思いますが、おそらくショートパスで組み立てるサッカーを模索している甲府がトライしたいスタイルではないのでしょう。ほぼ危ないシーンを作られることなく安定した45分でリードを守り切った岡山。3連戦で2勝1分。これは本物です。




◎ピックアッププレーヤー 齊藤和樹・仲間隼斗・上田康太




ヨンジェ、赤嶺に次ぐFWとして期待されている齊藤和樹選手ですが、復調をしっかりとアピールする活躍を見せてくれました。磐田の名波監督をして「Jリーグで最も守備の上手いFW」と言わしめたという献身的な守備(もともとSB出身とか)。ヨンジェ、赤嶺ほどではないにせよ甲府DF相手に十分通用していた高さとフィジカル。練習で見せていた周囲の選手と上手く絡むプレーもあって、ようやく名刺がわりのパフォーマンスを見せてくれましたね。ケガがちなヨンジェの代役探しが最大の問題で、齊藤がヨンジェのすべてをカバーできるわけではありませんが、代わりに起用してある程度計算できる選手なのは間違いないでしょう。コンディションを上げてどんどんとゲームに絡んでほしいです。



開幕戦での退場から少しづつ出場を増やしている仲間隼斗選手。WBも経験しているのでどのポジションで起用されるのか?と思っていたんですが、主にシャドーでの起用となっています。持ち味はやはりドリブルとボールキープのところ、カウンターに入ったときにドリブルで打開できたり、引いて守った相手を崩すきっかけを作れる選手です。しかし、この試合ではやや守備が荒くカードが出てもおかしくないシーンもチラホラ。球際を激しくいこうと思うとついつい行き過ぎて荒くなったりアフターでいってしまう事もあるのですが、開幕の退場劇のこともありますので、ファウルトラブルだけは注意してほしいと思います。



得点シーンのほとんどを演出して見せた上田康太選手はやはり岡山の王様ですね。矢島慎也選手もそうでしたがパサー特有の”敵のパサーの気持ちがわかるのでパスカットできてしまう能力”に磨きがかかって守備力が上がっています。今年のチームの攻撃のコンセプトにジャストフィットしたフィード能力の高さはこの試合をみても明らか。またセットプレーですよ脱帽モノなのは・・。2014年シーズンの時でも十分すごかったですが、磐田を経てキック精度がまたグンと上がっているように思います。やはり彼の左足も代わりのいないスペシャルなもの。果たしてアシストが何本まで増えるのか?大きな楽しみですね。




それではまた。


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