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MCバトル、お笑い芸人、そしてイニエスタ

イニエスタのゴール・・・凄かったですね!


ヴィッセル神戸に所属するアンドレス・イニエスタ選手が、J1リーグ 第21節vsジュビロ磐田戦で圧巻のゴールを決めました。



Jリーグでいくつもすばらしいゴールを見てきましたが、そのどれと比べても「明らかにレベルが違う。違いすぎる・・」と呆然としてしまうような超絶技巧。こんなのが日本で見られるのなんか信じられないね・・!
さて今回はイニエスタがJ初ゴールを決めたということで、彼について以前から思っていたことを記事にまとめてみたいと思います。
テーマは「即興性」についてです。


即興という言葉を辞書で引いてみると、
そっ‐きょう〔ソク‐〕【即興】
1.その場で起こる興味。
2.その場の感興を即座に詩歌や音楽などに作ること。
とありますが、この2のほうが今回のテーマ。
その場で即座にアクションを起こしてパフォーマンスすることに注目していきたいと思います。



◎MCバトルと即興性



MCバトルとは、MC(ラップする人)同士が音楽に乗せてラップし、相手を言葉で攻撃したり、相手の攻撃に返答したりすることでそれぞれのスキルとかっこよさを競い合うものです。近年では日本を代表するラッパーの一人Zeebraさんが司会を務める番組『フリースタイルダンジョン』のブレイクもあり、大変な盛り上がりを見せていますのでご存知の方もおられるかもしれません。

MCバトルの世界では即興性の高さがかっこよさを測る尺度のひとつになっていて、完全にその場で思いついてラップすることは”トップオブザヘッド”(≒完全即興)といって高い評価を受けるようです。全部が全部完全即興でバトルが繰り広げられるわけではありませんが、それに近い即興、そう見える即興がやはり評価されます。


しかし、これとは逆に事前に相手の言ってくることに対してあらかじめ歌詞を準備したり、きれいな韻が踏めるフレーズを用意して仕込みを入れることは”ネタ”といってマナーに反すること、かっこ悪いこととして扱われます。ネタかどうかはバトルの会話の文脈から外れていて”異物感”があるフレーズかどうかや、相手の言ってきたことにアンサー(返答)していないフレーズかどうかなどから観察されます。


自分は即興には2種類あると思っているのですが、
その一つ目がこの”完全即興”型。
完全にその場で思いついてアクションするタイプの即興です。



◎お笑い芸人と即興性



では次に、お笑い芸人の世界をのぞいてみましょう。
日本のラップに詳しいお笑い芸人としてアンジャッシュの渡部さんがいるのですが、彼がZeebraさんの番組にゲストとして登場した際に非常に興味深いことを言っていました。

以下、引用

・お笑いとラップの共通点


(渡部建)結局、お笑いもまず言うと、楽曲が良くてフリースタイル(MCバトル)が上手いラッパーは評価されると思うんですけど。お笑いもまったくそうで。やっぱりネタが面白くて、フリートークが上手い。これがやっぱりいちばん理想で。

(ZEEBRA)間違いない。

(渡部建)どっちかだと、やっぱりダメなんです。ネタだけで・・・僕らもすごい苦労したんですけど。『トークできないじゃん』って言われたり。で、トークが上手くても、『ネタ、面白くないじゃん』って言われたらダメっていうのが、そこがすごい近いなって思うのと・・・

(ZEEBRA)うんうんうん。

(渡部建)いわゆるフリートークも、フリートークのようであってフリートークじゃないんですよね。これ、要は引き出しを開けるスピードというか。つまり、フリースタイルでいうところの、もしかしたらあらかじめ用意した韻なのかもしれないですね。ただ、これを発表会になったらぜったいにダメなんです。フリートークも。『この話、もってきましたよ』はぜったいにウケないんですけど。なんか流れがあって、この話だな!っていう時に引き出しを開けるスピードで、トークが上手いっていうイメージができて。

(ZEEBRA)まさにいま、それだからね。まさにいま、それをやってるもんね。

(渡部建)なので、なんかバトルのテクニックってすごいそれに近い感じかなと思って。

(ZEEBRA)そうだね。いや、ものすごいそうだね。

(渡部建)なので見ていて、僕はすごい共感を得るというか。やっぱり、いわゆるアンサーの上手さとかって、その場の思いつきももちろんあると思うんですけど。過去の引用ももちろんあると思うんですけど。それを、いざ、いわゆる当意即妙で出しているフリというか。フリートークもそうなんですけど。いま、思いついたフリをしなきゃいけない。でもこれって、過去の経験則だったり、過去あったことだから。そこを上手くまた見せなきゃいけないっていうのも・・・

(ZEEBRA)いや、ぜんぜん俺もだって、昔さ、それこそテレビを見ていてさ、松本さんかなんかがさ、フリートークの時に何か話をしててさ。最後、すごい面白いことを言ってまとめたんだけど。『俺、これ見たことある』っていうのを。

(渡部建)ああ、そうですね。もちろん。はい。

(ZEEBRA)ねえ。だからその時に、『ああ、そういうことか!』って。まさに引き出しで。ある意味、ネタだよね。そういうだから、たとえばさ、MCバトルに関しても俺はすごく思っているのが、何でもその場で言われたこととか思いついたことばっかり言って上手いのはもちろんそれはいいと思うんだけども。もちろん、当たり前のように、練られたものに勝るものはやっぱりないっていうことがあったとして。



お笑いの現場ではフリートークとネタ見せの二つがあって即興性が求められるのはフリートークの方ということですね。さらにこのお笑いのフリートークで求められる即興性は、自分の中の引き出しの中からその場にジャストフィットするものを選んでタイミングよく出すことであると。


自分が思っている即興の2種類のうち、
二つ目がこの”引き出し即興”型。
自分の持ちネタの引き出しから場に合わせて正確に適切にフィットするものをバチっと出すタイプの即興です。



◎シャビとイニエスタ、2人の天才の異なる即興性



サッカーにおいては選手がプレーする際に、認知・判断・実行というプロセスを経てどういうプレーをするかが決められていきます。どういう状況なのか?を認知し、どういうプレーの選択が適切か判断し、プレーを実行する。こういうアクションが瞬間瞬間でせわしなく繰り返される。サッカーはそういうスポーツです。ですから、試合中選手はその時ごとに現状に即応しないといけないシーンが何度もやってきます。そういうシーンで発揮される即興のプレー。2種類の即興を極めまくっているのが、長くバルセロナとスペイン代表を支えたシャビとイニエスタの2人ではなかろうか?と考えています。


アスリートの身体に最先端の技術で迫った『ミラクルボディ』というNHKスペシャルの番組があるのですが、2014年の放送ではシャビとイニエスタに迫った大変興味深い内容が放送されました。


特に重要なのはシャビがプレーしているとき、脳のどの部分を激しく使っているのか?という点。シャビがプレーしているとき、大脳基底核という部分が活発に活動しているそうです。この大脳基底核は、人間が繰り返し行った経験や知識が長期的に記憶される場所とのこと。つまり、シャビの頭の中にはそれまでのプレーが膨大に記憶されて蓄積されていると考えられるそうです。シャビは考えてプレーしておらず、膨大な記憶の引き出しの中から脳が最適なものを選び、プレーを実行するようになっている。これを直観というそうですが、まさしく引き出し型の即興を無意識に出せるレベルまで研ぎ澄まされているように思えます。そういう意味でシャビは引き出し型の即興の巨人といっていいかもしれない。


そしてイニエスタ。
重要なポイントは瞬間的な創造力がずば抜けて高く、一瞬のうちに複数の選択肢を思い浮かべることができること。イニエスタはプレーする最中自分が何を考えているかほとんど意識しておらず、プレーは状況に応じたアドリブ(即興)から生まれることが多いとのことでした。またゴール前のスペースと時間が限られたエリアでは次を予測して行動する余裕はない。だからアドリブでプレーを決めると。
・・・・これはまさにトップオブザヘッドというほかないでしょう。
イニエスタ「僕にとってサッカーは”即興”なんだ」
イニエスタはまさに完全即興型の巨人といえるのかもしれません。

この番組に協力されたジャーナリストの河治さんのツイートをぺたり。
2人の異なる即興性を踏まえると、実に興味深いですね。
シャビがプレーを説明できるのは、すでに過去にやったことのあるプレーから脳がチョイスしてプレーに反映させているからかもしれません。そのプレー自体が脳に保存されているわけですからね。
でも、イニエスタはトップオブザヘッドなので、何故そのプレーが”降りてきた”のか説明するのは難しいでしょう。まさにアーティストというか、「どうしてそのメロディを思いついたんですか?」とか「どうしてその文章を思いついたんですか?」とか、「いや、そういわれましても降りてきたんで」みたいな。そういうレベルの話なのかもしれません。もう、どんだけ天才やねん・・・と。こんな人が日本に、神戸にいるんだよ?しかもまだまだ現役バリバリやっていける年齢で。いまだに信じられない思いです。


全国のサッカー少年、サッカー少女はどんどんイニエスタのプレーを見てほしいですね。こんな飛びぬけた天才のプレーを見て育ったら、一体どんな即興の天才がこの国から生まれてくるのか?もうあと20年また目が離せないじゃないですか。自分も彼のプレーを見られるうちになんとしても見に行かないといけないなと思っています。イニエスタが神戸に来てくれて本当にうれしい。神戸は隣の県だし!
ああ、サッカーの神様よありがとうございます!



それではまた。


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