J2 第3節 岡山 vs 大分 レビュー


岡山 1 − 0 大分

2018年3月11日(日)14:04KO Cスタ


◎試合全体の流れ


岡山が堅守でリードを守り逃げ切った試合でした。この日は強風が吹いており、岡山は前半は向かい風、後半は追い風となる条件。前半から堅い守備からヨン嶺を使うシンプルな攻撃でリズムをつかみます。一方の大分はコンビネーションが生命線。しかし、ミスと岡山の守備の前に効果的な組み立てが作れず岡山陣内へなかなか侵入できませんでした。前半終了間近にはやや足のとまった大分の守備の隙をついて赤嶺選手がボレーを流し込み先制。後半はしっかりと自陣に守備を構築した岡山を大分が工夫して攻略しますが、なかなかにチャンスはつくれず。1点のリードを守り切った岡山が開幕3連勝と素晴らしいスタートを切りました。



今回のレビューのおしながき


「なぜ岡山は大分の攻撃をシャットアウトできたのか?」

大分の攻撃のメカニズムを踏まえて話を進めていきたいと思います。


◎片野坂トリニータのミシャ式について

◎岡山の徹底的なタテパス封鎖

◎制空権と起用されたFWのタイプのちがい

◎ピックアッププレーヤー 赤嶺真吾・椋原健太・一森純



それではまず、両チームのフォーメーションから確認していきましょう。




岡山のフォーメーションは3421

大分のフォーメーションも3421

次に、両者のフォーメーションのかみ合わせをチェックします。



3421と3421のチームが対戦するときは図のように3つのエリアすべてで枚数が同じになりますが、このような状態になる試合のことをミラーゲームといいます。ミラーゲームの特徴は、1vs1の状況が生まれやすいこと、マークがバチっとハマりやすいためボールをキープしずらいことなどがあります。そのため、ショートパスを繋ぐスタイルのチームはかなり厳しいマークをかいくぐらなければなりません。




◎片野坂トリニータのミシャ式について




大分のサッカーはいわゆるミシャ式と呼ばれるスタイルです。これは広島、浦和、札幌で監督を務めているミハイロ・ペトロビッチ監督(愛称:”ミシャ”)が広島を指揮していたころに発明されたスタイルで、3バックからフォーメーションをチェンジさせ、ショートパスやサイドチェンジを織り交ぜながら守備を攻略していくサッカーです。攻撃時の大分のフォーメーションの変化をチェックしてみましょう。



元々3421であった大分は攻撃時にはボランチが一枚後方へ下がり4バック化します。そして中盤に相方のボランチが一枚。前線はWBが前方に押し上げられて5トップの並びに変化。3421から415へと姿を変えます。ここからどのような攻撃を展開してくるか?


後方のボランチやCBたちは中盤や前線にボールを送る出し手となります。そしてカギとなるのが2シャドーで彼らは広く空いた中央を効果的に動いて後方からボールを引き出します。中央が厳しくてもサイドのWBがタテやナナメに走る。そこへ大きなサイドチェンジで前進する。



シャドーに話を戻しましょう。彼らはこの攻撃のキモであり後方からボールを引き出し、繋ぎ→崩しへと移行させていく花形選手たちです。

シャドーは後方からボールを引き出せるポジションをとり、ボールがきたらワンタッチでボールに触りボールの軌道を変えてパスします。このボールにちょっと触って軌道を変えることをフリックといいますが、ミシャ式の中盤はこのフリックを多用します。たとえばこの図でいくと、丸谷→小手川にパスが出るのを察知して塚川が寄せますが、小手川はワンタッチでフリック。すると塚川は小手川のパス一発で交わされてしまいます。そしてもう一人のシャドー後藤がボランチの背後の美味しいスペースで前を向き崩しに入っていく。味方同士のプレーのタイミング、ポジショニングをバチっと噛み合わせることで相手を翻弄することができます。


このように、ミシャ式の前線3枚には高いコンビネーションと正確なフリックが求められます。冒頭でミラーゲームについて説明しましたが、”ショートパスを繋ぐスタイルのチームはかなり厳しいマークをかいくぐらなければなりません”のでミシャ式の大分にとってみればミラーゲームになること自体が高いハードルになります。それでも長いシーズンを戦っていくうえでこの課題にトライしないわけにはいかないというところであったのでしょう。・・・・しかし結論から言えば、大分の前線3枚はミシャ式の攻撃を構築するのに十分な練度が足りておらず岡山の守備にほぼ完封されてしまいます。




では、岡山はどのように大分を封じたのか?




◎岡山の徹底的なタテパス封鎖




岡山は普段は523あるいは532で守ることもあるのですが、この試合においてははっきりと541のフォーメーションを維持して大分の攻撃を受け止めました。

最終ラインは5枚。中盤は伊藤・上田・塚川・赤嶺で4枚。前にヨンジェを置いて541の陣形を形成します。この中盤の4枚は大分の後方からシャドーへのタテパスのコースを徹底的に消すことを意識して守ります。こうすることでまずシャドーへのパスの供給量自体が減る。そして、同時に大分の後方の選手は難易度の高いパスを選択せざるを得なくなる。イージーなタテパスは岡山が許しませんから自然な流れです。

そして次に、最終ラインのCB3枚(喜山・後藤・阿部)ですが、彼らは中盤4枚の守備をかいくぐってきたタテパスを徹底的に潰します。

ミシャ式はフリックを多用しますから、自由にフリックされると寄せたCBがはがされてしまいます。ですから、まず自由を与えないように厳しく寄せる。どうしてもフリックさせてしまう場合でもバランスを崩させてキレイなパスにならないように寄せる。前に出ていく守備の強い喜山、阿部、後藤の見せ場です。彼らは万が一フリックに間に合わない場合のこともちゃんと想定し、フリックされたボールが向かう先にもしっかり警戒を怠りませんでした。


このようにミシャ式大分の持ち味である中央のパスワークによる攻略を、中盤4枚のパスコース限定作戦→防げないときの後方5枚ガッチリマンマーク作戦→フリックされたときの警戒。というように二重三重に準備していたわけです。


これにより大分は無理なタテパスを蹴りこんではボールを失う難しいゲームを余儀なくされ、リズムに乗れないまま終盤まで過ごしていまうことになりました。この岡山の守備を上回る動き出しであったり、位置取りであったり、コンビネーションがもし大分の前線3枚にあれば岡山の守備も難しいシーンを作られていたと思いますが、この時点ではやはりまだ熟成段階ということでしょう。


ところで、WBのほうはどうか?


大分のWBに対してはこちらの澤口、椋原の両WBがマンマークで警戒します。大分のWBがボールを持つときは必ず近い位置で岡山のWBの厳しいマークを受けますし、岡山の両WBの守備力は高く大分のWBとの一騎打ちに後れを取ることがありませんでした。サイドも難しい。中央も封鎖されている。ということで大分は平面での戦いで岡山を攻略する糸口が見いだせない状態でした。




◎制空権と起用されたFWのタイプのちがい



陸がだめならば空。


・・・・といきたいところですが、大分の選手の平均身長に対し岡山の選手の平均身長は2cm以上も差があります。大分の前線の3枚、藤本、小手川、後藤はいずれも180cm未満の小柄なタイプ。空中戦や球際の争い、フィジカル勝負に有利な選手たちではありません。ですから、平面でのパスワークで活路を見いだせないからといって、FWにハイボールを当てたり、CBを背負わせてポストプレーさせることは難しい。中央でもサイドでも封鎖され、陸も空も制圧されてしまってはさすがの大分も攻略のきっかけがありません。



これが岡山が大分を完封できた理由だと考えます。



大分が攻める、岡山が守る。とはいえ岡山は守りっぱなしではありません。先ほどのFWの体格の話のつづきですが岡山のFWヨンジェと赤嶺はともに身長180cmを越えて体格に優れた大型FWであります。これは機動力あるツインタワーといって差し支えない。アバウトなボールでも相手CBとの競り合いに打ち勝ってボールをものにしてしまう強さと高さがあります。なかでもヨンジェは独力で打開しドリブルからシュートまで一人で完結するスタイルを得意としていますから、大分が前線に人を増やせば増やすだけヨンジェの脅威度は上がります。技巧派の小兵FWを配した大分、大型で身体能力の高いFWを配した岡山、おなじFWといえどカラーの違いがはっきりでた対戦でありました。




◎ピックアッププレーヤー 赤嶺真吾・椋原健太・一森純




この試合決勝点を決めたのは赤嶺真吾選手でした。


3.11。あの東日本大震災から7年。当時ベガルタ仙台に所属し自身も被災者であった彼が、まさか地震発生時刻と同じ時間にゴールを記録するなんて。サッカーの神様はたまに人知の及ばぬ力で奇跡をお示しになりますね。今シーズンの赤嶺選手はとても楽しそうだな、と感じています。というのもヨンジェ選手にある程度仕事を任せてしまえる分中盤の仕事をのびのびとこなすことができ、プレーエリアがあきらかに広がっているんですよね。かといって大事なところでゴールを奪ってしまう得点力は一向に衰える気配なし。ヨンジェ選手とのコンビも日に日によくなっていて頼もしい限りです。



この試合大分の選手の中でおそらく個の力で一番岡山を破れそうだったのは右WBに入っていた松本選手であったであろうと思います。ガッチリマンマークで守備をしていますから、1対1の戦いで大分の選手に負けていては守備が成り立ちません。そういう意味で最も怖いのが右の松本選手でありました。しかし、対する岡山の左サイドは三村選手に代わって左に配置された椋原健太選手でした。ほぼ、完璧な守備だったと思います。1対1で抜かれないことはもちろんのこと、逆サイドでありながら左サイドの組み立てに普通に貢献していて、違うのは利き足だけなんじゃないか?と思うくらい見事なリリーフ。職人芸とはこのことでしょう。彼の守備を楽しめるのは大きな喜びです。



そしてこの試合でもビッグセーブを見せてくれた一森純選手。昨年は椎名選手、櫛引選手との競争に打ち勝ち正GKの座を確保した一森選手。今年は札幌から金山選手が移籍してきていてさらに競争相手が強化されました。そのうえ、チームの始動で出遅れていました。にもかかわらず、開幕から3試合先発。しかも0失点のクリーンシートで3連勝。一森選手自身もビッグセーブで失点を防ぎ大きな原動力となっています。J2屈指といってもよいキックの上手さはいつみてもほれぼれとする美技であります。この試合でもかなりの向かい風であったにもかかわらず、パントキックをタッチライン際に正確に届けるという目を疑うキックの正確さを見せており、守備だけでなく攻撃でも見逃せない選手ですね。




それではまた。




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