J2 第16節 町田 vs 岡山 レビュー

町田 1 - 3 岡山

2018年5月27日(日)16:03KO 町田


◎試合全体の流れ


前半と後半でガラっと内容が入れ替わった試合でした。特殊なサッカーを展開する町田が前半からペースを握りシュートを積み上げてゴールに迫ります。岡山は町田の勢いを受け止めてる我慢の展開で前半はほとんど攻撃に出るチャンスはなし。一方的な町田ペースで前半を終えます。ところが後半は立場が逆転。攻撃のやり方を整理して入った岡山が畳みかけるように3得点を上げ町田を突き放すと失点を1にとどめ逃げ切り。ひさびさの勝利をおさめました。


☆今回のレビューのトピック

◎片方のサイドに密集する町田の個性的なサッカー

◎岡山を勝利に導いた前半の我慢

◎上田康太の芸術的な直接FKを考える

それではまず、両チームのフォーメーションから確認していきましょう。

岡山のフォーメーションは3142

町田のフォーメーションは442

次に、両者のフォーメーションのかみ合わせをチェックします。

ともに最終ラインで人が余りますから後方ではボールを持てそうな組み合わせ。岡山はセカンドボール争いを考慮して中盤の中央を3枚にしてきました。町田は特殊なやり方で攻撃時にフォーメーションを大きく崩してきますので、通常とは違ったマッチアップになる点が通常とは異なる点です。



今回のレビューでは解説を務めていた元岡山の岩政大樹選手と長澤監督の試合後コメントを引用しながらお話を進めていきたいと思います。それではまず町田の特徴的なサッカーの話から。




◎片方のサイドに密集する町田の個性的なサッカー




今年の町田は大変特徴的なサッカーを展開していまして、岡山はこの町田のやり方に対応せざるをえない前半でした。ではその町田のサッカーはどこが特徴的でなにが違うのか?最も顕著なのは町田の攻撃の時の幅です。

これはオーソドックスな選手の配置を図にしたものですが、この図でいけばピッチの横幅に対して町田の攻撃の時の幅がかなり広くほぼ横幅をカバーしている状態になっています。だいたいどこのチームも左右にバランスよく選手を配置することが一般的なんですが、今年の町田はこの一般的な幅の取り方を無視したチームになっています。

先ほどの一般的な配置と比べると違いが一目瞭然ですが、圧倒的に片方のサイドに人数が集中しており、プレーするエリアが非常に狭いことがわかります。このように町田は片方のサイドに密集し一団となって攻守を行ってくる点がほかのチームと大きく異なる部分です。


この密集の中からどのように攻撃するか?というと、

密集の中からアバウトでも裏を狙い、スペースを取るor競り合いに行く。

ワンタッチでタテパスをゲームあたり50本以上蹴ってくる(長澤監督談)


その攻撃が上手くいかなかった場合はどうするか?

仮に増田がボールを奪ったとすると、町田は一団が塊のままでプレスをかけてきます。相手から自由を奪ってボールを自分たちのエリアから逃がさない。そうして奪い取ったら再び攻撃に転じる。これを繰り返してきます。あくまで自分たちがいるエリアと同じエリアをひたすら一団となって攻めていく。逆サイドなんて完全に放棄してしまう思い切ったサッカーですね。

岩政大樹:町田としてはボールサイドに味方が全員いますから、当然サイドチェンジなんて考えてなくて。同じサイドでボール(タテパス)をいれていくと。そこでボールを取られてもそのまま(セカンドを)拾って。そこからサイドから中に入っていくという(攻撃の)形ですね

ボールを取られたりミスパスなんてお構いなし。無論正確にできればそれに越したことはありませんが、ミスってもすぐプレスをかけて奪い返す。セカンドボール争いでは人数的に有利なので問題ないという。あくまで密集の力を生かしたサッカーになっています。


このように極端な密集してくるチームに対して守備をするとき問題になるのが守備の人数の問題です。

本来であれば町田のFWを見る喜山と、町田の右SHをみるべき三村ですが、町田の選手はポジションを捨ててさっさと密集に参加しにいってしまって目の前から姿を消します。つまり、彼らは誰もマークすることができない状態になるわけですね。では一方密集エリアはどうなるかというと当たり前の話で、

町田は全員が密集エリアにいますが、岡山はサイドに配置した喜山・三村が密集エリアでの攻防に参加できません。ですから、町田10人に対し岡山が8人しか動けない。慢性的にこのエリアでは数的に不利な状態を強いられてしまうわけです。

岩政大樹:どうしても岡山の場合3バックですから逆サイドの選手がそんなに寄ってくるわけにはいかないので、濱田選手がどのくらいまで寄ってきてそれに応じて逆サイドのCBがどれくらい寄せてくるか。それによって人数がそろえられないとやはり守れませんからね。

この数的不利をいくらかでも和らげるために真ん中のCBに入っている濱田がどこまで密集に近づくか?が難しいと。濱田が密集に寄っていけば喜山も三村もセットで近づくことになりますから数的な面では守りやすくなります。しかし、全部が全部寄ってきてしまってはいけません。なぜなら攻撃ができなくなるからです。

サイドの選手を密集に投入して、あらかじめサイドに人がいない状態にしてしまうと、まず密集のプレスに引っ掛かりやすくなってしまいます。そしてなにより、ボールをスペースに流して陣地を押し返せる可能性がなくなってしまいます。こうなったらボールを逃がせる場所はタテのロングボールだけ。これではあまりにもワンパターンです。


ちなみにサイドを使うパターンの一つとして、ゴールキックの際に仲間をポツンと密集から逆に立たせていたシーンが前半しきりに見られました。

赤嶺に当てたセカンドを拾って大きなサイドチェンジを入れて大きなスペースを仲間に使わせようという狙いでしたが、赤嶺があまり競り勝てずにセカンドボールを町田にことごとく拾われたため機能することはありませんでした。そのうえ、町田の密集に仲間が参加できない分守備力も一人分損してしまうという点も分が悪かったですね。



◎岡山を勝利に導いた前半の我慢



長澤監督:前半の最初は入り込まれるイメージがあって、そこをしっかりとサポーターの声援と共に耐え切ったのが一つの勝因かなと思っています。

岩政大樹:(試合の)入りはこの町田の特殊なやり方にいくらスカウティング(予習)してきたとしてもちょっと戸惑うと思うんですよ。他のチームでは(こういうチームが)あんまりないですから。最初の15分、20分のうちにまず先制点を与えないことが大事になってくると思います

このようにちょっと見慣れない特殊なやり方をしてくるチームと対戦するときは、相手の動きに慣れてくるまで時間がかかります。想定していたイメージと実際の相手の動きには誤差がありますし、そういう部分で面食らって浮足立ってしまう事が多いんですね。しかし、この試合の勝利を呼び寄せたのはこの押し込まれてシュートを打ちまくられた前半をしのいで後半に望みをつなぐことができたからだと思います。


前述のとおり、町田の特殊なやり方に対して裏を取らせないこと、ワンタッチのプレーに備えることをしっかり準備できたことで最後の守備のところではね返すことができたのが大きかった。そして、攻勢にさらされることを根想定して戦えた分、メンタル的に落ちることもなかった。そして下手にショートパスをつなごうとせず、上田を経由してキレイなサッカーを捨ててかかれたのは賢い選択でした。もしも町田が展開している密集にショートパスで突っ込んでいこうものならあっという間に奪われてカウンターからボコボコにされてしまう可能性は高かったですからね。


実際のところ苦し紛れのクリアボールを蹴るシーンが多かったですが、より悪い奪われ型を避けるという選択肢としてはロングボールでクリアもやむなしというところでした。少なくともボールは密集を飛び越えて行きますからね。しかし、単に蹴るだけでは相手にボールをプレゼントするだけになってしまいます。そうするとまた相手の攻撃を受けないといけない。

岩政大樹:岡山としてはこのクリアのボールの質を気にしたいですね。とられてもいいんですけど空中に浮かせて時間を作ったり、赤嶺選手が競れるボールを蹴りたいですね。相手に足元で拾われると時間がないのでラインを上げられませんよね

できることであれば前線でポイントを作って、狙ったロングボールで攻撃のとっかかりを作りたい岡山でした。しかし、前述のとおりターゲットとなる赤嶺と町田のCB深津のマッチアップでは深津のほうが空中戦に分があり起点を作れない。岡山の攻撃はいかにFWが前線でとっかかりを作れるかがキモです。しかし、町田にケガ人が出てCBが負傷交代したことがそのとっかかりになりました。

岩政大樹:赤嶺選手は対深津選手のところだと競り方の分が悪い感じだったので、左に行って藤井選手と競ってますけど、藤井選手に対しては2回競り勝ちましたね

深津に完封されていたエアバトルですが、代わって入った藤井に対しては赤嶺が競り勝ってボールを落とすことができた。これにより、岡山はロングボールでも赤嶺vs藤井のところで勝負に勝てるので攻撃のとっかかりを得ることができました。赤嶺が競り勝ってボールを落としてサイドチェンジを左右に入れて揺さぶり、ようやく攻撃らしい攻撃ができたのが38分あたりの出来事。後半にむけて狙いどころをゲームの中で見つけられましたから、

長澤監督:最初は(町田の)圧力がすごかったんですけど35分過ぎたくらいから徐々にポイントを作って自分たちでイメージした攻撃ができたので、後半に入って勝負だなと思っていました。

まさしく後半勝負だな!というところでした。

後半岡山はやり方を変えます。赤嶺と離れて位置させていた仲間を本来のポジションに戻し2トップ。そして、向かい風だった前半にはできなかった裏狙いに攻撃の方針を変更。これに町田はかなりうろたえてしまいました。


川崎フロンターレの中村憲剛選手が言っていたんですが、前半上手くいっていたチームは修正点を見つけるのが難しいということがあります。この試合の町田のように押せ押せでいけていたチームは上手くいっていた分これといった修正点がみつけにくいんですね。一方の岡山のように前半難しかったチームは修正して後半に入りますから、前半とはやり方を変えてくることがあります。そうすると、前半受けに回っていた岡山と立場が入れ替わり、今度は町田のほうが岡山の出方に対応しないといけなくなるという事態が起こります。この試合ではまさにそういう立場の変化がゲームを大きく動かしました。具体的には、仲間の配置が違うことと積極的に裏を狙ってくること。前半はほぼ赤嶺のエアバトルに終始していましたし、セカンドボールをほとんどとれませんでしたからね。前半岡山が耐えたように、町田が後半踏ん張れば最終盤までもつれるゲームとなったでしょうが、上田のFKが流れを決定づけてしまいました。



◎上田康太の芸術的な直接FKを考える



最後にここまで4戦続いてきた嫌な流れを断ち切るかのような、その上田康太の芸術的なFKについて触れておきたいと思います。後半仲間がPA付近で倒されて直接FKのチャンスを得ました。まず、その位置を確認してみましょう。


これが関係する選手の位置ですが、青いラインは町田と岡山の選手で作られた壁です(見にくいので略しています)。上田康太選手はご存知の通り左利き。左利きの選手がこの位置から直接FKでゴールを狙えるコースは次の通り。

左からカーブして右に動くので、ボールはこのような弧を描きます。ここで大事なのが、ニアのコースはファーよりもゴールできる領域が狭くミスショットが許されないという事。ファーに蹴れば多少コースがズレてもゴールマウスをとらえる可能性はありますが、ニアは外せば枠をとらえることができません。したがってニアを狙うのにはかなりの高さで精度が求められます。しかし・・・ファーのコースに蹴るには少し角度があることと、GKにボールを見られる時間もわずかに長い。GKからすれば、ニアとファーでいくとニアよりに警戒してもおかしくない場面であろうと考えられます。しかし・・・

岩政大樹:赤嶺選手がファー(ボールから遠いサイド)で駆け引きしていたことによって福井選手は少しファーが気になったかもしれないですね

赤嶺が大外でドフリーだったために、上田のクロスから赤嶺ヘッドという可能性が生まれてしまいます。これにより、ニアの可能性の高かったFKがにわかにファーでの赤嶺狙いも現実味を帯びてくる。


・・・これは迷う。


実際ゴールシーンを見てみると、GK福井は一歩も動けなかったわけですがニアなのか?ファーなのか?判断が付けきれないままにゴールを許してしまっているのがよくわかります。無論、上田康太のFKはコース・スピードともに文句のつけようのない出来で完璧でしたから、福井がニアを読み切っていても決まった可能性は高いと思いますが、あの美しいゴールの裏にこのような駆け引きがあったこともこのゴールに花を添えていますね。




それではまた。

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