J2 第18節 山口 vs 岡山  レビュー

山口 1 - 0 岡山

2018年6月9日(土)19:03KO みらスタ



◎試合全体の流れ



天皇杯から中2日で迎えたこの試合。スタメンクラスを連投してきた山口に対して休養十分なメンバーで臨んだ岡山でしたが、欧州最前線のサッカーを追求するかのような山口の洗練されたサッカーにほとんどいいところをだせず完敗。シュート数で21:11と圧倒的にシュートを浴びせられる格好となった岡山、この試合で7試合連続失点を喫しており、堅守はすでに過去のもの。2位につける山口とは相当な実力差を感じさせられる敗戦でした。



☆今回のレビューのトピック

◎霜田レノファの433と大きく開く両WG

◎霜田レノファの433とバランスのいい3センター

◎霜田レノファの433と岡山のカウンター

◎山口の弱点と岡山の切り札”齊藤さんの右サイドアタック”



それではまず、両チームのフォーメーションから確認していきましょう。


岡山のフォーメーションは3142

山口のフォーメーションは433

次に、両者のフォーメーションのかみ合わせをチェックします。

最終ラインでは山口のFW3枚に対してこちらのCBも3枚で同数。中盤においてはこちらのWBが浮いてくる可能性が高いです。山口の方は最終ラインの枚数に余裕があるので後方からのビルドアップはやりやすい組み合わせでした。



◎霜田レノファの433と大きく開く両WG



山口の基本フォーメーションは433ということで、前線には3枚のFWが配置されています。なじみ深い3421も前線は3枚で構成されますが、3421の方がよりピッチの中央でプレーする頻度が高いのに比べて、山口のFWは両WG(ウイング)の小野瀬・高木がタッチライン際に位置し大きく開くことが特徴的です。

ピッチの横幅を目いっぱい広く取ることで、中央のエリアが広くなりますサイドでいい形でボールを受けたらそのまま突破してチャンスメイクする。山口の両WGにはそういう役割が求められています。

このWGにCBがそれぞれ対応しようとするとWGに引っ張られるような格好になり、中央での密集状態が崩されそれぞれの距離が広がってしまいます。そうすると、ハーフスペースと言われる黒で囲ったエリアが空きやすくなります

このエリアをインサイドハーフ(IH、山下や池上)やSBが飛び込んで活用したり、ポジションチェンジを繰り返して守備を幻惑したり、パスワークで剥がしたりするのが主な攻撃方法です。


またWGについてはもう一点重要な点があり、前線に2枚攻め残るのが山口の大きな特徴となっています。

このようにFWが2枚ほど前線にとどまります。この試合では特に両WGが前線でボールを待つ形が多かったのですが、この状態で岡山がボールロストすると・・・

攻撃のために前に出ていたWBの裏のスペースをそのまま活用することができますから、山口はボールを取ったらすぐさまWGの小野瀬・高木に蹴りこむだけで容易にチャンスを作ることができます。こうしてボールとったらタテに早い攻撃をつくりだせる。またWBのように走力ある選手であれば相手のWGとのかけっこに対抗しやすいですが、基本CBは機動性が低くスピードある選手が少ないので戻りながらWGとかけっこするのは分が悪い。そういったミスマッチも誘うことができます。



◎霜田レノファの433とバランスのいい3センター



次に中盤ですが、正直この試合一番驚いたのがこの3センターと呼ばれる433の中盤の3のところです。非常にバランスの良い3人組ですね。ゲームメイクができる三幸をアンカーにすえ、その前に異なるタイプのインサイドハーフ(IH)を2枚並べる形で、186cmと中盤としてはとびぬけた高さを持つ山下スペース感覚に優れキックの精度が高い池上が配置されています。このIH2人に共通して言えることは、スペースを察知する力があってお互いに動いてスペースメイクできることです。

前線の守備があまりタイトではない岡山は、渡辺や三幸といった山口のビルドアップを担う選手を放置してしまいます。この図のように渡辺がフリーでオープンな状態。ここで、鳥養が落ちていくとFW(赤嶺・仲間)に任せられないので気になって上田が引っ張られてしまいます。岡山も中盤は3枚ですが、そもそも連携に乏しく人についていく意識が強いのでスペースをポカポカと開けてしまう傾向があります。


山下は逃げていく上田の背後をとって渡辺にパスコースを提供しますが、渡辺は斜めにパスを出すほうを選択。これを池上が受けます。

池上が目の前でボールを受けたので、関戸が食いつき池上にプレッシャーをかけて前を向かせません。これ自体は問題ない対応です。

ふたたび渡辺へボールがリターンされますが、この間上田は常に鳥養と渡辺と2人を警戒しなければなりません。また上田の背後には山下や高木がいますから、そっちへのパスコースも切らないといけない。どうしても仕事が多すぎる状態です。ここから池上と山下のコンビネーション。

池上が斜めに走る動きを入れると関戸が食いついてついていきますから、中盤の塚川と上田の間がぽっかり空いてしまいます。これを狙って池上は走っているわけですね。あとはそこを見逃さず渡辺が山下にパスを通して、はいいっちょ上がり。岡山の中盤のフィルターを簡単にかいくぐってチャンスを作ることに成功してしまいました。岡山の緩い前線のチェック、人につきすぎてスペースが守れない3センター、ここを的確に突いていることがよくわかります。


この試合の決勝点はこのIH2人で決められたものですが、池上はキックで山下は高さで貢献しています。とりわけ山下は守備においても赤嶺に対してほとんど競り勝っており、赤嶺が競り勝つことを軸とした攻撃が沈黙してしまう主な原因となっていました。また山口のサイドからの攻撃時には、かならずオナイウを追いかけるようにボックス内へ侵入することになっていて、クロスのターゲットとしても機能します。それは失点シーンにも明らか。彼をマークするのは岡山の中盤かCBのいずれかでしょうが、対応しきれなかったた。文句なくMOMは彼でしょう。



◎霜田レノファの433と岡山のカウンター




この試合で岡山が作り出せたチャンスおよび決定機は非常に少なかったです。しかし、山口の弱点をチクチクと突くことができていたのでそこで点に結び付ければまた展開も変ったものになったかもしれません。

山口は後方からGKやCBアンカーの三幸がからんでビルドアップしていきますが、ピッチを広く使うために選手の間の距離が開き気味になります。このように最終ラインの4枚もかなり広めに配置されるのが大きな武器でもあり弱点にもなります。後方からのつなぎにおいて、もし山口が中央のエリアでボールを失いショートカウンターを食らってしまうと、

選手の間の距離が広いのでアタッカー1人に対して2人で立ち向かうようなシチュエーションは作れません。ですからCBや(間に合えばSBも)個人個人で相手のアタッカーを封殺しなくてはなりません。そのためにはCBの強度や走力が必要不可欠になってきます。この試合最大の決定機であった仲間が抜け出したシーンは典型的な例だったと思います。




◎山口の弱点と岡山の切り札”齊藤さんの右サイドアタック”



ここのところの岡山は前半と後半で攻撃のやり方を変えること相手の守備対応を難しくさせるパターンが多くなってきています。その切り札ともいえるのが、齊藤和樹投入による3421へのフォーメーションチェンジと右サイドアタックです。

長澤監督:相手の人数に合わせて前線に人を送り出すために齊藤和樹を入れて、人を合わせるような形で持っていきました。

後半頭から関戸に代えて齊藤を投入。フォーメーションを3421へと変更します。これはかなり効果的でした。


山口のCB2枚と左SB鳥養に対して仲間・赤嶺・齊藤の3枚でプレッシャーをかけることで山口のビルドアップに揺さぶりをかけることに成功していました。特に、山口の鳥養は右利きの選手なので、左方向へのパスが出しにくい特徴があります。そうしたことを見越して、齊藤のほうへ誘導しプレッシャーをかけてボールを奪う。ボールを高い位置で奪うことができれば、前述のとおり山口の守備の距離間は開いていますからカウンターになだれ込める、という寸法ですね。



他にも定番となっている”齊藤の右サイドアタック”を見てみましょう。シーンは中盤で塚川がボールを持ち、椋原がリスクを冒して高い位置を取ったところから。山口のWGは攻め残ります。

もし岡山がボールを失えば即座に高木にボールが蹴っ飛ばされカウンターを食らうことが予想されるシーンです。椋原は当然そのリスクを承知したうえで高い位置を取りました。ハイリスクハイリターン。リスクに応じたメリットが出てきます。椋原が高い位置を取ったことで高木に椋原を任せるわけにいかない鳥養が椋原に引っ張られてしまいます。

黒い四角のエリアがハーフスペース、その外の大外のエリアがアウトサイドレーンと呼ばれていますが、齊藤はこのようにハーフスペースからアウトサイドレーンに飛び出していくプレーが非常にうまい選手です。山下の背後をとっていますし、鳥養が椋原に吸い寄せられたので齊藤を邪魔する選手はもういません。そういうわけで、アウトサイドレーンにスルーパスが出てクロスを上げるところまでこぎつけました。


このように右サイドで齊藤の斜めに抜け出す動きを軸とした攻撃がここのところの岡山の切り札になっています。齊藤は飛び出すのもうまいのですが、同じくらいクロス(たぶんチームNo.1)もうまい。しかもドリブルで相手を剥がすこともできるので、岡山の大きな武器になっています。彼のクロスから得点も生まれており、赤嶺へのハイボールとは違う攻撃手段として確立されています。




◎山口との差を埋めるには?夏に向け期待したいこと




選手の個性を足し算していく長澤ファジと、組織的なベースの上に個性を乗せていく霜田レノファ。作り方の異なる2チームですが現時点での完成度ではかなりの差が開いてしまった感のあるゲームでした。


春以降イ・ヨンジェ選手を軸とした前線の構成ができなくなり、前からのプレスや選手の組み合わせを工夫してきた長澤ファジでしたが、この試合のように赤嶺を封じられてしまうと主軸となる攻撃が展開できず苦戦する試合が増えてきています。守備の方でも前線のタイトさが失われ、中盤や最終ラインに負担が増えてきているのは明らかで、これは前述のとおりです。7試合連続失点というのはそうしたチーム全体の統一感のなさも影響しているのではないかと思います。個性を頼りにして個性を生かすことをベースにしていますから、主要な個性が欠けてしまうとバランスを取り直さないといけないのが長澤ファジの難しいところだろうと思います。


リカルド・サントス選手の補強があっても代わりとはなりえず。ヨンジェなしで最適なバランスを探すも成績は安定せず。離脱からのここまでかなり苦戦してきましたが、手っ取り早い解決策はおそらくないだろうと思います。やはりヨンジェの復帰まではこのような苦しい時期が続く可能性が高いかもしれないですね。しかし、ヨンジェが戻ればチームとして再び主軸となるコンセプトを取り戻せると期待していますし、春先のチームであればこの山口とも引けを取らないパフォーマンスを出せたであろうと思います。やはり赤嶺・ヨンジェの大駒2枚を封じられる守備陣をそろえるのはJ2ではなかなか難しい。岡山のキモはFWが優位を作ることですから、最高の”補強”となるはずです。



ヨンジェの早期回復を願って、もうしばらく我慢ですね。



それではまた。

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