J2 第19節 岡山 vs 横浜  レビュー

岡山(6位) 0 -0  横浜(9位) 

2018年6月17日(日)18:03KO Cスタ


◎試合全体の流れ


ともに3バックを採用するチーム同士の対戦でしたが、フォーメーションの違いこそあれ実際のところはミラーゲームに近いゲーム展開になったことで今季最も堅い試合となりました。イバ、レアンドロ・ドミンゲスと強力なタレントを前線に持つ横浜に対し整理されたプレッシングで自由を与えなかった岡山。攻撃の方では赤嶺を外して齊藤を中心に据え、伊藤がアクセントをつけてなんとかゴールに迫りましたが脅威となるには少し足らず。結局スコアレスドローでの決着となりました。


☆今回のレビューのトピック

◎岡山の前プレが横浜を封じた前半

◎横浜のポジション交換と”イバ警戒しすぎ”問題

◎横浜の前線の守備力と齊藤・伊藤中心の組み立て

◎田所・渡邊の元岡山コンビと横浜のチーム構成

◎やるべきことはやっているけど勝ちに少し岡山

それではまず、両チームのフォーメーションから確認していきましょう。

岡山のフォーメーションは3142

横浜のフォーメーションは31411

次に、両者のフォーメーションのかみ合わせをチェックします。

注目なのはレアンドロ・ドミンゲスと田所のところ。岡山の中盤が5枚に対して横浜は6枚。アンカーの田所のところは空いてきやすい可能性があります。そしてレアンドロはトップ下の位置なので、岡山のボランチの背後でフリーになりやすい傾向が考えられます。また岡山の左右のCBはフリーになりやいので攻撃の組み立てはやりやすそうなかみ合わせでした。




◎岡山の前プレが横浜を封じた前半




長澤監督:横浜FCは今年のJ2の編成を象徴するようなチームで、決定力のあるストライカーを前線に配置し、本当に一撃で勝点を稼いでいくというチーム。決定力で昇格していくチームも年々増えてきているので、そういう意味では前線の二人のケアを十分にして入りました。

横浜FCはJ2屈指のストライカーであるイバと、元JリーグMVPレアンドロ・ドミンゲスという強力な外国人選手を擁しています。彼らに自由を与えると非常に厄介ですからなるべくゴールから遠ざけて守ることが望ましい。そのために岡山は前線からプレッシャーをかけ、彼らへのパスの供給源をふさいでしまおうという手に出ました。


横浜のCBに対して仲間・齊藤の2トップでプレスをかけ、サイドに誘導します。3バック同士の対戦なので当然WBのところも1vs1でマークされていますから、横浜はサイドでフリーになることはできません。また横浜のアンカーに入っている田所はマークを受けにくいところにいますので、序盤は田所を使うことでプレスを回避されるシーンが見られました。

田所にフリーでボールを受けられてしまうとプレスにいった意味がないので、そこは仲間がプレスバック(戻ってプレッシングする)をかけて自由を奪います。仮にパスをつないでサイドをかえられたとしても・・・

インサイドハーフ(武田・伊藤)が余った横浜の左右のCBにプレスをかけることで封鎖。こうすることで横浜の最終ラインから前に出るボールをストップすることに成功しました。横浜の中盤はボールを引き出す力が高い選手が少なく、プレッシングをうけるCB陣に有効なパスコースを提供する動きに乏しかった。このあたりは横浜の台所事情の影響もありそうですね。平面でのパスワークで活路を見いだせなくなった横浜は次第にロングボールをスペースに流したり、イバにぶつける路線に切り替えましたが、濱田を中心とした岡山のCB陣のマンマークの出来が素晴らしく、起点をほとんど作らせませんでした。



◎横浜のポジション交換と”イバ警戒しすぎ”問題




横浜の右サイドのWB北爪、右IH(インサイドハーフ)渡邊、そしてトップ下のレアンドロはかなりポジションを入れ替えて立ち位置を変えてくることがあります。こうすることでこちらのマークを惑わせて対応を難しくさせようという狙いですが、岡山がおしこまれるとさらに厄介な問題が出てきます。

イバがボックス内に入ってくるとそこを警戒し過ぎて岡山の守備が集まりすぎてしまいます。イバに対して岡山の選手が食いつきすぎると、それ以外の場所では当然人がフリーになりやすくなってくるので・・・

野村から岡山の選手がいない逆サイドにいた北爪へ、その落としをレアンドロ・ドミンゲスがフリーでミドルを放つ、と。イバ警戒しすぎ問題をうまく活用した横浜の攻撃ですね。このシーンでも本来トップ下のレアンドロが渡邊と入れ替わっているので、渡邊がボックスの中にいます。そしてレアンドロがボランチの位置にいる。こちらの弱点と横浜の特徴がマッチしたシーンだったと思います。



◎横浜の前線の守備力と齊藤・伊藤中心の組み立て



一方横浜の守備はどうか。

長澤監督:前線の二人はスーパーなところがありますが、反面のところがわれわれの付け入る隙だと思っていて、ビルドアップのスタートのところでは相手の圧力をかわしやすいと思っていたので、そういう面でゲームは割と思っていたように進められたと思っています。

横浜はイバとレアンドロを使ってCBと上田康太をケアします。そして左右のCBに対してはIHを前に出してそれぞれプレスをかけるというのが基本線。横浜の前線2枚は長澤監督のコメント通りにそこまで守備に献身的ではありません。そもそも岡山の左右のCBは構造的にフリーになりやすい。そのため、喜山・塚川が前線へロングボールを供給するポイントになることができました。


さらに、前半20分過ぎたあたりから明らかに横浜の前線からのプレッシャーが弱まり、左右のCBに加え上田もフリーで前を向ける時間が増えたことで、横浜に比べて攻撃でも守備でも思い通りに進めやすい展開になりましたね。


この試合は赤嶺がベンチスタートということで攻撃がどうなるか?注目でしたが、中心となっていたのは齋藤和樹。そして、中盤においては伊藤大介でした。

左右のCBがフリーになるのでそこからのロングボールを相手の3バック脇に流し込み齊藤を走らせる形や、

仲間・齊藤がおとりになって横浜の守備陣を引きつけ、その背後にインサイドハーフの伊藤・武田が走りこむことによってセカンドボール争いに持ち込む形などは工夫を感じるいい攻撃でしたね。


齊藤はシンプルなハイボール争いで横浜のCBに勝つシーンもありましたし、この試合では高さと機動力で良さを発揮して攻撃の軸となっていました。また伊藤大介は上田康太をフリーにするおとりの動き、それから前線と最終ラインをつなぐ役割、康太とは別のパス供給源になるなど、らしさのよく出ていた試合でした。


長澤監督:最近は康太のところでちょっと距離間というか、サポートする人間がいいタイミングで入ってこれていないように感じていたので、ワンクッション入れるために大介を使いました。大介はビルドアップのサポートも前への絡みも状況を見てやれるんで、そういうのを期待していました。



◎横浜の中盤回りをうまく使った後半の攻撃



長澤監督:後半に入るときにちょっとシステム上の噛み合わせで空いているポジションを一つ共有していったんですけど、そういうことがゲーム中にできていたら早めに押し込めて違った展開にできたのかなと思っています。


ロングボール主体だった前半とは変わって後半の岡山はショートパスを使った組み立てを主体とした攻撃を展開しました。前半の途中からそうであったように横浜の前線は前からプレッシングにこなくなっていましたから、後方においては比較的自由にボールを持ち出せます。問題はそこからの攻略ですが、積極的に狙っていったのはいわゆるアンカー脇や背後の狭いスペース。

横浜の中盤の底にいるアンカー田所の両脇にFWの仲間、齊藤が落ちていくとフリーの状態で受けやすくなります。構造的にここを中盤の選手で守ることはできないので、なるべくここにボールを入れられないように前線がパスの出し手を抑えるか横浜のCBがそのままついていくかしないと守れない。前述のとおり横浜の前からのプレッシャーは低下して岡山が比較的自由にボールを動かせますから・・・

北爪や渡邊ががんばってプレッシングに出ても岡山のパスを封じられずに、アンカー脇でボールを受けられてしまう。そこで前を向いて起点を作ってサイド奥に侵入しクロスを上げる攻撃を展開することができました。



残り時間10分というところで、赤嶺・福元を投入し、仲間・齊藤を後退させますがこのところの岡山の後半の交代策は前半とはタイプの違うFWを入れることによって相手の対応を難しくさせるというやり方を取っています。この交代もその文脈で理解していいと思います。そのすぐ後に大竹が投入され福元を頂点とした3421に変更してさらに揺さぶりをかけますがゴールは割れず。お互いポツポツと決定機を作りあうもののスコアレスドロー決着になりました。



◎田所・渡邊の元岡山コンビと横浜のチーム構成





この試合で岡山サポーターとして注目だったのは渡邊、田所の中盤での起用のところでしたね。とりわけ田所のボランチでの起用は岡山時代にはほとんどなかったので大きな驚きがありました。


前述のとおり横浜の前線は破壊力があるかわりに運動量があまりありません。後半の岡山の攻撃にもあったように横浜はあまり前線から高い守備力を発揮することができないチーム構成になっています。ですから、足りない運動量をどこでバックアップするか?というとやはり中盤の3枚ということになるのでしょう。田所も渡邊も高い守備力と豊富なスタミナを武器にする選手であるというのは良く知られているところだと思います。彼らが広くピッチをカバーすることで、前線の足りない守備力を補おうという狙いでしょう。

しかし、反面上田や伊藤のような前線と後方をつなぐ役割はあまり得意としませんから中盤からなかなかクオリティのある組み立てを狙うのが難しい。また田所のようにいいクロスを持っている選手をサイドで起用できないのも悩ましいところでしょう。後半の勝負どころで横浜は、北爪を下げて佐藤を投入しました。

ボールを展開できる佐藤をアンカーに据え、田所を左WBへ武田を右WBに配置することで左サイドの性能の向上と、岡山のプレスを回避して後方から組み立てていく力を底上げしました。これにより左サイドをヨンアピンが駆け上がりその背後を佐藤がバックアップするような厚い攻撃を見せていました。本来であればスタートからこういう形を出したいところでしょうが横浜としても苦しい台所事情があるのでしょう。ナベやタドの献身性やスタミナが横浜の苦しいところを支えているのうれしいですね。




◎やるべきことはやっているけど勝ちに少し岡山




急速に下がりつつある勝率、ホームで長く勝てていないこともあり非常にもどかしい試合が続いている岡山ですが、この試合ひさびさに0点で抑えられたことは大きな収穫でした。横浜の攻撃もおおむね上手に封じられていたのは上記のとおりですし、守備については思った通りの展開だったんではないでしょうか?やるべきことはしっかりやっているけれど・・・、攻撃の方では明らかに脅威となる攻撃が少なく迫力不足の感は否めません。相手の弱点を効果的について前に進むこともできていますが、しっかり崩し切るところや個の力でねじ伏せるシーンが少ない。セットプレーでとれない場合はこじ開けないといけないのでこのあたりの攻撃のクオリティが上がってくればジワリジワリと復調して行くのではないかと思います。横浜FCは岡山とよく似たタイプのチームですが、この試合に関しては互角でしたね。今の岡山の力を推測するには格好の相手でしたが、現状PO圏内から一桁順位水準の実力というのが妥当なところかもしれません。ケガ人が戻ってくるころまでに再びトップフォームを取り戻せるように問題をクリアしていってほしいですね。




それではまた。



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