雲が描いた月明かり 原作小説 1巻-2

しばらく後のこと。

「ここで飯を食べようと言うのか?」
「とても有名なクッパ店です。あのお婆さんは長い間スラッカンで尚宮をしていた方なんですよ」

「そうか」
「スラッカンの尚宮だったんですよ」
「だから?」

ヨンの反応のなさに、ラオンは自分の胸をドンドンと叩きました。
目の前のこの男、スラッカンの尚宮がどれだけすごい存在なのか知らないんだなあ・・・。

その時、ラオンたちの隣の席にクッパを置いた老婆が言いました。

「疫病にかかって長患いしているようなやつらめ。もう来るのはおやめ!お前たちは一日も休まずに来るねぇ。家で待っている家族がいるのを思い出さないのかい?十長生に描かれたレンギョウのようなやつらめ!クッパ食うために待っている時間があるなら家へ帰って飯でも食え」

クッパを食べに来てそんなことを言われたら当然腹を立てると思います。ところが逆にその2人は笑い出しました。

それを見ていたヨンは顔をしかめて言いました。
「世の中には悪態をつかれて面白がる人間がおるのか?」
「そうではありません。何と言うか・・・、誰でも幼いころにお祖母さんに叱られた記憶があるでしょう?そんな記憶を懐かしむような・・・」

「私の祖母はそんなことはなさらない」
「では、お祖父さんは?」
「祖父は私が生まれる前に亡くなられた」
「では、お隣のお婆さんは?」
「隣に家などない」

隣に家がない?どんな田舎で育ったんだ??

「では、何か失敗してお母さんに叩かれた事は?」
「失敗などした事はない。もししたとしても、私の身体に手をあげる者などいない」

何だ??両班というのはそういう者なのか??

「どうもそちらは、花草先生のようですね」
「花草先生?」
「大きな家のお嬢様のように、頑丈な囲いの中で蝶よ花よと育てられた方のことです」

その時、その店の女主人である「がみがみ婆さん」がやってきて、
「ほら食べな」と言いながら、クッパを置きました。

ヨンは無表情でじっとその老婆の顔を見ています。
すると老婆が
「どこかで見たような・・・・」

あっ、この方は・・・。
まるで幽霊でも見たように、驚いた顔でヨンを見ながら、老婆はそのまま後ずさりして離れて行きました。

がみがみ婆さんの小言を今か今かと楽しみにしていたラオンは「あれ?」と失望してしまいました。

どうしたんだろう??

そして、向かいに座っているヨンの氷のような表情を見て、首を振りました。
あの冷たい目が、がみがみ婆さんの愉快な小言を食べてしまったに違いない。

ラオンは不満そうに言いました。
「長幼有序を知らないのですか?」

「何だそれは?」
「年上の方が食べ物を持って来られたのです。お礼ぐらい言ってはどうですか?」

ラオンの言葉にもヨンは全く動じる様子がありませんでした。

「訓戒などやめておけ。人にはそれぞれ分相応というものがあるのだ。にせ両班などに忠告される覚えはない」
「はいはい。にせ両班などが、言うようなこと・・・・えっ??」

えっ??ばれたの???

「にせ両班だなんて!突然どうなさったんですか??
花草先生は、御冗談が過ぎますよ」

「かなり良い線はいっていたがな」
「か、かなり良い線?」
「完璧ではないところが問題だが」
「完璧ではないですって?」

「お前の習慣のせいだ」
「習慣?」
「お前は私と過ごそうと言って、いつものように雲従街へと向かった。親しくない者と行くなら、本能的に一番馴染みの場所へ行くものだ。そこが始まりであった。お前は普通の両班であれば絶対にしないような失敗をした」

「それは具体的に言うとどういう?」
「まず、安直なその身のこなし。次に歩き方、3つ目は人に対するその態度、4つ目はこの場所を選んだお前の目」

ラオンは合点がいかないようでした。

「まだわからないか?このクッパ店にはおかしな所などない。問題はお前が私をこの店に案内した事だ。両班が重要な初めての出会いにこんな場所を選ぶか?あり得ない事だ。では、お前は何故ここを選んだのか?」
「・・・・・・」
「普段お前がここをよく利用している、と言うのであれば納得できる。そして、こんな店をよく利用すると言うなら、明らかに両班ではないということだ」

ラオンは思わず「あっ!」と小さく声をあげました。

「さあ、お前は一体何者だ?」

ヨンがラオンを凝視しました。

最初からおかしいと思っていた。
私の肩を叩いたり、思い出を作ろうと言ったり・・・。

気位が高い妹の心を何通かの手紙で奪ってしまったやつ。
それはいったいどんなヤツなのか気になった。
女性に生まれたのがもったいないと言われる才気あふれふ妹はつまらない男の元へ嫁ぐぐらいなら一生結婚しないと言っていた。そんな妹の気が変わるほどの男とは・・・。

それで妹に内緒でやってきたのでした。この男を見るために。

なのに、こんなヤツだとは、失望しました。いえ、怒りが湧いて来ました。
「畏れ多くも両班を語るとは!」
「そうではなくて・・・」

「そうでないならどう言う事だ?」
「私はただ・・・。
申し訳ありません。最初から騙そうと思ったわけではありません。
お察しの通り、私はキム御曹司ではありません。私は・・・御曹司の言葉を伝えに来ただけです」

ヨンはじっとラオンを見つめました。そして・・・

「あの手紙は誰が書いたのだ?」
「えっ?」
「あの手紙もやはり・・・お前が書いたのか?」

「い、いいえ。違います。絶対に違います!」
両班のフリをしただけでも大変なことなのに、手紙の代筆までしたとあってはとんでもないことになってしまう。

「本当か?」
ヨンの表情が一層険しくなりました。彼と目を合わせられず、ラオンは目をそらせました。

「・・・私です」

ああ、もうこれで死んだな・・・。

「こんな事をしていったいどうするつもりだ?」
「訴えるおつもりですか?」
「どうして欲しい?」
「家に、私を待っている年老いた母と、病気の妹がおります」

「悪事を働いておきながら、今さらそんな事を言うのか?」
「ウソではございません」
「お前のささいな事情など知らぬ。私が聞きたいのは、お前の罪をどうするのが良いかということだ」

「花草先生の弟だと思って、お許しくだされば一生恩にきます」
「お前のような弟はおらぬ」

「ではどうすれば良いですか?どんな事でもいたします。訴えるのをやめていただけるなら」
「何でもするのか?」

少し考えていたヨンが言いました。

「私の者になれ!」

「はい、分かりました。花草先生の者になり・・・えっ?
今何とおっしゃいましたか?」
「耳が遠いのか?私の者になれと言った」

妹の心を奪った文才。そして堂々と両班のフリをしたあの度胸。普通ではない。卑しい身分が気になるが、上手く使えばきっとどこかで役に立つに違いない。久しぶりに気に入った者に会えたヨンは口元がほころんでいました。

ヨンの「こいつをどう料理すればよいだろう?」という表情を見て、ラオンは不安になりました。

「ひょっとして・・・、ひょっとして・・・」

まさか、バレたのかしら?いや、そんなはずはない。ニセ両班というのはバレたけど、そんなはずは・・・。
じゃあ・・・?
そうだ。花草先生は男性を好きなのだった。そう言う事は、私を男だと思って自分の者になれと言ったのか・・・。もしも私の本当の存在を知ったらどうなるのだろう?花草先生の者になるというのだけは避けなければ。

「他の事ではいけませんか?どうかそれだけはおやめください」

花草先生にはキム御曹司がいるのに?こんなにすぐに気持ちが変わったの?

・・・・・続きます。

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zhenly7

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