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ついに声明が! “ゲノム編集ベビー”事件の贺建奎氏の発表の要点速報

(2018/11/28に同一内容の記事を公開しています)


原文: 常亮 单浩哲

常亮: ハーバード大学 博士課程在籍。がんゲノム学/ゲノム創薬 を研究。

单浩哲: ハーバードメディカルスクール、理論神経科学 博士課程在籍。

日本語訳: 王 青波
ハーバード大学 博士課程在籍。 大規模人類遺伝学及び希少疾患診断への応用を研究。

オリジナル記事 (中国語): [终于发声!“基因编辑婴儿”事件贺建奎演讲要点速递]
(諸事情により現在は削除されています)

前回記事 (中国語): [理智看待基因编辑婴儿 | 给非生物学家的知识点梳理]
前回記事 (日本語訳): [“ゲノム編集ベビー”を冷静に見てみる ~非生物学者向けのポイントの整理~]


ヒトゲノム編集国際サミット2日目、“ゲノム編集ベビー”の首謀者である贺建奎氏がついに姿を現し、サミットで学術発表を行うとともに、聴衆者の質疑に応じた。驻波(ハーバード生中心の中国人有志による理系記事解説シリーズ)は、今回皆様のために贺建奎氏の発表のポイントをまとめた。

**以下の回答は決して驻波及び科学界全体の視点ではなく、飽くまで驻波が贺建奎氏の発言をまとめたものである**。他の科学者は彼の行動をどのように見ているのか。彼の発言には科学的根拠があるのか。驻波は今回の事件を引き続き追っていく予定だ。

(今回の贺氏の発表は英語で行われた。以下はそれを筆者がライブストリーミング視聴し翻訳したものである*1ため、完全に正確ではない部分が存在すると思われるが、ご理解をお願いしたい。)


# なぜCCR5をノックアウト*2することを選んだのか


贺氏は、エイズが発展途上国において非常に大きな公衆衛生上の危険であると語った。CCR5の突然変異は多くの欧米国の人に自然に起こるものであり、”十分に研究されている”とのこと。質問に答える中で、贺氏はCCR5のノックアウトの目的は、”エイズを予防する”ことであるとし、例として”エイズキャリアである父母を持つ多くの子供が、感染防止のために親戚の家に送られ育てられる”という事実を挙げた。



# CRISPRを用いCCR5をノックアウトすることの安全性に関する見方は?


贺氏は、ネズミ、サル及びヒトの受精卵の中で行われた実験において、CCR5のノックアウトが”安全”であると述べた。オフターゲット効果(狙っていない部分をノックアウトしてしまうこと)に関しては、”臨床以外での、動物/体外モデルでの実験ではオフターゲット効果は観測されなかった。女性の胎内に入れる胚に関しては、オフターゲットサイト(ゲノム上でオフターゲット効果の見られた部位)が1箇所観測されたが、その部位には既知の生物学的機能はなく、夫婦の同意のを得て植入を継続した。”とのこと。今回生まれた双子は今後18年間追跡調査の対象となり、成人(*中国では18歳で成人)後同意があれば、その後も追跡調査が継続されるそうだ。



# その他に進行中の臨床試験に関して

合計8人の妊婦が今回の”臨床試験”に参加し、そのうち1人がリタイアした。8組の夫婦はいずれも父親側がHIVキャリア(感染者)であり、母親は健康である。合計31つの受精卵がゲノム編集の対象となり、うち70%でゲノム編集が成功した*3。最初にゲノム編集した受精卵を植入した夫婦の双子はすでに出生していて(すなわち今回のニュースになっている双子)、他に1組の夫婦で、妊娠初期状態となっている (贺氏は明確には述べなかったが、おそらくこれもゲノム編集済みの受精卵を使用)。これら”臨床試験”はすでに一時停止状態となっている。



# 子と父母のインフォームドコンセプトをいかに確保するのか

贺氏は、今回参加した夫婦は皆”しっかりとした教育”を受けていて、実験の内容を理解して参加することを決めた、と述べた。参加する夫婦の決定には2つのプロセスがあった。一つ目のプロセスでは、贺氏の実験室のメンバーが夫婦に対し”1時間10分”の訪問面接を行い、2つ目のプロセスでは、贺氏本人が”1時間10分”の訪問面接を行い、参加者を選抜する。贺氏によれば、彼は全ての夫婦に対して、参加前に”20ページ分の説明”を読み上げ、贺氏本人が面接の中で”1ページずつ説明”したという。



# なぜ今回の実験は極秘に行われたのか

贺氏は、過去数年間においてすでに今回の実験に関して、”コールドスプリングハーバー*4、カリフォルニア大学バークレー校などでの会議で、数多くの専門家の意見を募り”、臨床試験が行われているときには”アメリカの倫理学者の意見を募った”という。贺氏はさらにこの研究に関して論文の草稿を書き、そこでも、”国内外の専門家の意見を求めた” (そしてその中には”中国科学院のメンバー”も含まれる) とのこと。



# 今回の研究の出資源は誰(どこ)なのか

贺氏は発表が始まってすぐに”南方科技大学はこのことを知らない”と述べた。今回の研究の臨床前段階(マウス/サルでの実験)の出資源は南方科技大学であり、臨床試験中の患者さんにかかる全ての費用は、贺氏”自身が自腹をきった”とのこと。臨床試験中のシークエンシング(ゲノム配列を解読すること)*5費用は、南方科技大学のベンチャーキャピタルファンディングから出ているとのこと。



# 贺氏の”仰天発言*6”2つ


Q: 今回の実験に参加するのがあなた自身の子供だとして、TA(ティーチングアシスタント)が実験に参加するのを容認できますか?
贺氏: もし同様の状況で、私の子供だとしたら、はい、私が最初の被験者になりたいです。

Q: 科学者として、今回のように(ゲノム編集をした子を産ませるという)父母の意思決定に寄与することをどう評価していますか?
贺氏: 今回のケースに関して言えば、誇りに思います。最高に誇りに思います。この夫婦は生に対する希望を失っていたのですから。



# 編集後記 (原文作者)

今回の贺氏の発表を聞いて、作者は非常に多くのことを感じている。この発表を聞くまで、今回の件が韩春雨の件*7のようにただのうそ/茶番であればいいと強く願っていた。しかし不幸なことに、今回の件は事実であり、ゲノム編集ベビーは既に生まれていて、2つの初々しい生命がその未知の結果を背負うことになってしまった。

さらに震え上がらされるのは、贺氏は今回の発表と質疑応答中、意外なほどに冷静沈着であったことだ — 倫理的な議論や深い質問をかわし、はい/いいえで答えられる問題に逃げておき、挙げ句の果てに”誇りに思う”などというのだから驚きだ。

今回のゲノム編集ベビーの発生は、偶然であり、必然でもある。生命は既にこの世に降りたが、考えさせられる問題はまだまだ多くある — なぜ中国の科学者は様々な分野において議論がなされる中で”我先に”といってしまうのか。今回の事件の一連の流れの中で管理体制の漏れはどこにあったのか。我々は新しい科学技術のもたらす影響を倫理的にどう評価すべきなのか。 こんなふざけた事件が起こるのは最後であってほしい、と願うばかりである。

(今回の発言の英文全文は こちら


###訳者注:
*1 すなわち本記事は英語->中国語->日本語 と翻訳された記事です笑
上記の通り英語原典は( http://diyhpl.us/wiki/transcripts/human-genome-editing-summit/2018-hong-kong/jiankui-he-human-genome-editing/?from=groupmessage&isappinstalled=0 ) でアクセス可能
*2 ノックアウトとはゲノム編集の中で特に遺伝子や特定部位を欠損させること。 cf. ノックイン: ゲノム上特定部位に特定配列を挿入すること
*3 22/31 = 0.709677 ~= 70% ?
*4 アメリカ、ニューヨークにあるコールドスプリングハーバーにある研究所は生物系の学会が特によく行われる
*5 シークエンシングをすることで(ある程度)ゲノム編集が狙い通りにいったかどうかがわかるが、オフターゲット効果を評価するためのdeep sequencingはそれなりにお金がかかる。 (彼がどの程度deepに読んだかは不明)
*6 原文だと “狂人狂语”となっていてなかなか強い表現だったが、ぴったりな訳が見つからず、過度な印象を与えるのも微妙なので「仰天発言」。
*7 韩春雨は中国の生物学者で、2016年に、ゲノム編集の新たな手法に関する論文を発表したが、のちに虚偽であると判明し撤回に至った事件が有名。


###訳者出典
https://jp.illumina.com/science/technology/next-generation-sequencing/deep-sequencing.html 
https://www.nature.com/news/authors-retract-controversial-ngago-gene-editing-study-1.22412