ほしあいひとよ

宝塚『星逢一夜』感想メモ

先日、私を宝塚観劇に誘ってくれた友人が、「宝塚おもしろかった?気になるなら、過去作品のDVD貸すよ!」と申し出てくれました。

絶賛無職中でお金がない私は、ありがてえありがてえと拝みつつ、「おすすめがあれば是非貸してほしい」とお願いしました。

そして届いたのがこちら。

布教が重い!!!!!!

きっちり作品ひとつひとつのオススメポイントが書かれた手紙まで入っていて若干戦慄しましたが、正直メチャクチャありがたいので、大事に観させていただくことにしました。

今回は、そのなかのひとつ『星逢一夜(ほしあいひとよ)』についての感想を綴ろうと思います。

ところで、早霧せいなさん、咲妃みゆさんは昨日でご退団とのことで、にわかファンではありますがさみしい気持ちです。お二人の劇をナマで観に行ってこれて良かったなあと思っています。ちぎみゆ夫婦に幸多からんことを!

『星逢一夜』あらすじ

江戸時代中期、徳川吉宗の治世。
九州の田舎里、やぐらに登らなければ星を見渡すことができないほど山深い場所、三日月藩の藩主の次男、天野紀之介(演:早霧せいな)は、自分が次男で跡継ぎでないため、城をたびたび抜け出しては星の観測をしに行く、変わった子供だった。
星逢(七夕)の夜、彼は蛍村の少女、泉(せん)(演:咲妃みゆ)と、その幼馴染の少年、源太(演:望海風斗)と出会い、共に星を観るためのやぐらを組み上げる。夜ごと一緒に星を観て過ごすうち、身分の違いを越えて、友情を結ぶ紀之介と泉、源太。

しかし、兄の急死により、紀之介は兄のかわりに跡継ぎとして江戸へ行くことになる。泉への淡い想いを胸に抱きつつ、源太や村の仲間たちに励まされ、紀之介は旅立つ。
作法も江戸言葉も知らない紀之介だったが、星の観測の手腕により見事月蝕を言い当て、将軍吉宗に「ものごとを広い視野でみる才能がある」と気に入られ、晴興と名を改めて、将軍の御用取次として出世する

7年後、すっかり大人になり、作法も言葉も藩主らしくなった晴興は、星逢の夜、帰藩した故郷で美しく育った泉と再会する。子供の頃から想い合っていた2人は激しく惹かれあうが、すでに泉は源太と、晴興は将軍の姪と結婚することが決まっていた。源太は泉の心を察しており、晴興に「泉を選んでやってくれ」と頼む。しかし、将軍に従事することを決めた晴興に、そんな自由はもはやなかった。

江戸に戻った晴興は、享保の改革を進める将軍の指示に従い、財政難を乗り越えるために各地での年貢の取り立てを強化していく。不作でも一定量を納めなければならない状況に、村人は餓死に追い込まれ、各地で一揆が起こり始める。晴興の故郷、三日月藩でもまた、村人の死に耐えかねた源太が、一揆の計略を練り始めていた
将軍は晴興に、「自らの手で三日月藩の反乱を裁け」と命ずる。親友の源太、想い人の泉、かつて一緒に遊んだ仲間たちのことを想い、苦悩する晴興。ついに始まってしまった一揆のなかで、晴興のとった選択は・・・。

感想、もとい考察

※ここからはネタバレが含まれます

とりあえず、どえらく泣きました

いや、こんな救いのない話があって良いのかよ、と。

この話はおそらく、七夕の一夜にしか会えない織姫と彦星をモチーフとした、「身分の違い、どうしようもない運命、悲しい恋の物語」だと思うのですが、私は晴興と泉の関係よりも、晴興と源太の関係に深い悲しみを覚えました

源太は、泉を幼い頃からずっと見守ってきた、優しい少年です。
はじめ、紀之介(晴興)が藩主の息子であると知って、過去に父親を藩主に殺された泉は紀之介に冷たい態度をとりますが、源太は紀之介に泉の態度についての事情を説明してやり、共にやぐらで星を見上げます

彼らは身分の違いこそあれ、対等な存在として、友情を深めます。源太が子供の頃から泉に明確な恋愛感情を抱いていたのかはわかりません(少なくとも私は兄と妹みたいだなと思っていました)が、惹かれ合う紀之介と泉を見守るような、それでいて少し淋しげなような、とにかく心優しい男の子として描かれていました

紀之介が江戸へ旅立ち、晴興と名を改めて戻ってきた7年後、泉と結婚することが決まっていた源太は、晴興に頭をさげて「泉と結婚してやってくれ」と頼みます。この時点での源太は、確実に泉のことを大事に想っており、愛しているはずです。しかし、それでも泉の幸せのために、自分の想いを封じてまで、親友の晴興に頼むのです。

「惚れた女を他の男に差し出す」という行為は、男としては、とてもじゃないですが屈辱的なんじゃないかな・・・というか、普通こういうのって恋のライバルがいたら「決闘だ!」みたいな感じになりそうなものですが、源太はとにかく泉を大事にすることが先決。そして、晴興が「どうにもできない立場にある」と理解した源太は、自分が泉を幸せにしてやるしかない、と覚悟を決めることになるのです。

そして、泉との間に子供を3人もうけ、ささやかながらも幸せに暮らす源太。しかし、享保の改革のために年貢を取り立てられ、飢えていく村人たち、親友の子供が餓死していくのを、黙って見過ごすことができなくなった源太は、一揆を計画します

源太は、紀之介(晴興)ならばきっと世の中をよくしてくれる、三日月藩を、自分たちを救ってくれると信じて江戸へ送り出しました。出世した彼を見て喜び、泉を嫁にしてやってくれと頼んだのも、源太のなかで晴興への信頼が強くあったからなのでしょう。

しかし、晴興の行う政治は、将軍の指示とはいえ、自分たち村人を死に追いやっていくもの。ある意味、源太にとっては裏切られたようなものです

故郷の人々を傷つけたくない晴興は、源太に一揆をやめさせるように言いますが、源太は「晴興がこれ以上こんな政治をしないならやめる」と答えます。あくまで将軍の部下である晴興は、彼の一存で政治をやめることはできません。そして始まってしまう、一揆。

晴興は、一揆の首謀者である源太に、一騎打ちを提案します。これ以上、人々に無駄な血を流させないためです。はじめは2人とも棒きれで戦いますが、戦いの作法も教わった晴興は、子供の頃と違い強くなっています。一方、どうしても一介の農民でしかない源太は、打ちのめされるばかり。

晴興は、源太に死んでほしくないがために、棒きれでの戦いを選んだのでしょう。しかし、源太は「(これが)お前がいく道なんだ、ちゃんとやれ!!」と叫びます。つまり、手加減なしに、情け容赦などせず、首謀者を裁け・・・自分を殺せ、ということです。

すでにボロボロの源太に刀を投げ渡し、自身も刀をとる晴興。
向かい合う2人。

かつては親友、恋敵、そして今は、裁く側と裁かれる側。
どうしようもない運命のなかで、晴興は源太を、ついに切り捨てることになります

その直前の、肩を触れ合わせた2人の表情が、なんともいえませんでした。

「どうしてこんなことになってしまったんだ」と途方に暮れるような、涙をこらえながら空を見つめる晴興
親友の晴興の覚悟や、遺していくことになる妻の泉と子どもたちを想っているのか、満身創痍ながらも歯を食いしばって上を向く源太

同じ星を見上げていた頃の、親友だった自分たちにはもう戻れない。お互いにとって大事にしていた泉を、守りきることができない。見ているこっちが「どうしてこうなった!どうしてこうなった!」と叫ぶしかないやつですよ。
どうしてこうなった!?

切り捨てられた源太は、微笑んでさえいるように見えました。
彼がどんな気持ちで泉を晴興に託そうとしたり、一揆を起こしたりしたのか、細かい心情まで察することはできません。

ですが、晴興と源太の関係は、結ばれない晴興と泉の関係以上に、悲しい運命の友情だなあ、と思いを馳せずにはいられませんでした。

あとはやっぱり、泉の晴興に対する感情が、どこまでも切なかったです。星逢一夜どころか永遠に会えなくなる2人。咲妃みゆさん、少女を演じてるときと三児の母演じてるときの両方とも全く違和感がなくて、年齢の概念がよくわからなくなりました。
いつかまた3人、仲良く星観ができるようになるといいね・・・

と、どうしても自分が望海風斗さん好きなので彼女の演じる源太寄りの感想になってしまったのですが、とにかく『星逢一夜』、とんでもねえ作品でした。

後半のショーの『ラ・エスメラルダ』はある意味、それに輪をかけてとんでもねえ作品だったんですが、あれはちょっと言葉にするのは無理なので、今回はここまでにしておきます。

『星逢一夜』を観る時は元気なときじゃないとアカンで!!!

宝塚、奥深いです。素晴らしい作品でした。

★★★★★

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