理不尽さにも種類がある 小林祐三

図々しくも音楽好きを公言させていただいていますが、普段曲を聴く時は歌詞をあまりじっくり聞きません。決して歌詞の存在を蔑ろにしているわけではありませんが、どうしても他に耳がいってしまいます。

歌詞を書くというのは、どうやらすごく大変なようで、好きなアーティストが「この曲は歌詞に苦労した」なんて話を聴くと申し訳ない気持ちになります。

ただ、この曲は違います。

SUPER CARというバンドのFAIRWAYという曲を高校一年生の時にMD(若い方はわからないかもしれません)が擦り切れるほど聞きました。この曲の歌詞を心の支えにして、自分が何者か見失わずにすみました。

プロサッカー選手になるために親元を離れ、縁もゆかりもない静岡に来た小林少年を待ち受けていたのは、理不尽さと闘う毎日でした。

理不尽とは、辞書によると

物事の筋道が通らないこと。道理に合わないこと。またそのさま。無理無体。

練習が思ったよりキツかったり、周りのレベルがとても高くて苦労しましたが、それらは理不尽なことではありません。

自分がそれらを納得した上で選択した環境だからです。高いレベルを求めて静岡学園に来ました。筋道は通っています。

僕が一番理不尽さを感じたのは「周りに自分とは違う考えや価値観を強要され、そのメンバー達と一つの目標に向かわなければならないこと」でした。

当時は上下関係が厳しく、サッカー部はサッカーさえしていれば許される風潮がありました(ここで問題なのは僕がそれを知らずに環境を選択したこと。知っていたら理不尽と感じなかったかもしれません)。

簡単に言えばそれらに馴染めなかったのです。どうしても通らない筋道。朝5時半から始まる朝練習や、終わりの見えないフィジカルトレーニングよりも受け入れられませんでした。

ただただ、月日が流れるのを理不尽さに耐えながら待つ。辛い日々でしたがプロサッカー選手になるという目標に向かっている感覚を、少しでも感じられていたことが救いでした。数は少なかったですが、想いを共有できる友人がいたことも大きかったです。

学校や部活を辞めるという選択はしませんでした。プロサッカー選手になるという目標へのエネルギーは変わらないどころか増していきましたし、自分の中でこの理不尽さと闘う意義のようなものを覚えたからです。

この理不尽ごと全部喰ってやる、と決意した日に僕の人生は8割くらい決まったのかもしれません。気がつけばプロ選手になっていました。気合いと根性、努力の量だけで乗り越えたわけではありませんし、夢は諦めなければ叶うとか、そっちの話でもありません。

この一年間は理不尽さの中にどんな意味があり、どう向き合うか、どんな選択をするか、ていうかそもそも理不尽てなんだ、意味とかあるのか、などを考える大切な時間になりました。

選択とその前後にある理不尽さは背中合わせです。選択の仕方によって、理不尽さは意味や種類を変えます。当時はそんなことわからなかったので、辛いことを全て同列に考えていました。だから余計に辛かった。理不尽の意味や種類がわかっていたら少しは気持ちも楽だったかもしれません。

今の僕が当時の僕に言葉をかけるとしたら、プロになれるから頑張れ、ではありません。その理不尽喰べがいあるぞ。

あとSUPER CARすぐ解散するからLIVE行っとけ。ですかね。


小林 祐三


次回

4月28日(火)21:00〜

小林 祐三(サガン鳥栖)
岩尾 憲(徳島ヴォルティス)
山田 大記(ジュビロ磐田)
井筒 陸也(Criacao Shinjuku)

TALK#5「理不尽と選択」

配信URLはZISO Twitterより


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