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「選択肢」と「可能性」どちらが大事?それ、遊戯王カードが教えてくれます

トレーディングカードゲームの遊戯王オフィシャルカードゲーム(以下、遊戯王OCG)には禁止カードという概念があります。

そこに名を連ねるカードたちはデュエル(プレイヤー同士の対戦)での使用ができません。強力すぎて、ゲームの面白さを損ねてしまうからです。

先日、カードゲームの企画を考えるのにあたって、そのリストを一通り見てみる機会がありました。カードゲームにおける強力なカードとは何かを考えるのにあたり、参考になるデータだと思ったからです。

すると、禁止カードにはある系統の効果をもったものが多いと気づきました。その事実は、僕らが日々対峙しているもっと抽象的な意味での「ゲーム」に示唆を与えてくれるのではないかと思いました。

手札に干渉するカード、禁止されがち

禁止カードに名を連ねているカードの多くは、手札に干渉する効果をもっています。

まずは自分の手札を増やすカード。その代表である「強欲な壺」は、使用すると2枚のカードを引くことができます。これはシンプルに強力な効果です。1枚のカードを使って2枚のカードを手に入れることができる…つまり、5000円払うと1万円もらえるようなものです。誰だって使います。

また反対に、相手プレイヤーの手札を破壊するカードも多く禁止されています。たとえば「強引な番兵」。相手の手札を見て、選んだ1枚をデッキ(プレイヤーごとに用意するカードセット。手札はここから補充する)に戻すという効果をもちます。しかも、特にコストを支払うわけでもなく。相手の出方を見つつ、嫌なカードがあったら消してしまえるという至れり尽くせりのパワーです。

もちろん、上記のような手札に干渉する効果をもったカードがすべて禁止されているというわけではありません。たとえば「真実の眼」は相手の手札を常にすべてオープンさせるという強力な効果をもっています。遊戯王OCGをやったことがない人でも、相手の手札(=情報)をすべて見られるのが有利だというのはお分かりでしょう。ババ抜きを相手の手札を見ながらできたら、誰だって勝てます。

ですがこのカードは相手の手札に特定のカードがあると、ライフポイント(HP的なもの。遊戯王OCGでは相手のこれを0にすると勝ちになる)を大幅に回復させてしまうというデメリットを備えています。だいたいの場合、そうやってバランスが取れているのです。

ちなみにちょっと脱線しますが、その他の禁止カードの種類として“シナジーが強すぎるもの”があげられます。たとえば「キャノンソルジャー」です。

効果は、自分のモンスターをリリースすることで相手ライフポイントにダメージを与えるというもの。自分の場にモンスターをドンドン出せるカードの登場でとてつもない破壊力を手に入れたことにより、禁止カードに指定されました。

僕が遊戯王OCGにハマっていたのはもう15年くらい前ですが、当時からいる、一般的なモンスターカードでした。なんと、登場から実に18年以上の時を経て禁止カードに指定されたそうです。

禁止カードという概念を見て、「じゃあなんでそんなカード作ったんだよ!」と思われる人もいるかもしれませんが、遊戯王OCGは20年ほどの歴史をもち、膨大な種類に上るカードが存在するため、どこから強力なシナジーが生まれるかが瞬時に分かる人はもはや誰もいないのではないでしょうか。しょうがない。

手札は「選択肢」、山札は「可能性」。

手札の話に戻ります。手札に干渉するカードを禁止しがちなのは、遊戯王OCGの版元であるコナミがそれが象徴するものを大事にしているからだと思います。

公式サイトでは、カードの使用を制限する理由を下記のように説明しています。

遊戯王OCGにおいては過去に発売された全てのカードが使用可能であり、今後も新しいカード・商品が追加されていく、というゲームの環境下において慎重に検討しております。
また、検討の際には、世界中のプレイヤーが遊んでいる事も十分に考慮に入れた上で行われます。
適用される「禁止・制限・準制限カード」は基本的に以下の観点から選定していますが、恒久的なものではありません。

・ゲームバランスを維持し、遊戯王OCG全体の活性化を促すプレイ環境を作り出す事
・デッキの選択肢やプレーの幅を広げる事
・デュエルの駆け引きの要素が激減するようなカード・コンボへの一定の規制
・プレイヤーが一方的に有利になる状況を作り出すカードへの一定の規制
・現状の環境下ではプレイヤーが対処・対策がしづらいカードについての一定の規制
・デュエルの進行に支障をきたすようなカードへの一定の規制
・大会での使用を考慮した際に、規制をかけるべきと判断されるカードへの規制

手札への干渉(特に低コストでできるもの)はこれらの規制理由を横断しています。特に"デュエルの駆け引きの要素が激減するようなカード・コンボへの一定の規制"が主たる理由ではないでしょうか。

駆け引きとは、プレイヤーに選択肢があってこそ起こりうるものです。そしてカードゲームにおける選択肢とは、手札そのもの。プレイヤーは基本的に、手札にあるカードしか使用することができないからです。

ゲームで優位に立つためには駆け引きで優位に立つ必要があり、駆け引きで優位に立つためには選択肢が多いほうが有利です。そんな選択肢の多さが特定のパワーカードを引いたか引かないか(つまり運)で大きく左右されてしまうのは、本意ではないのでしょう。

一方で面白いのは、手札の源流となる山札への干渉(特に相手の山札への破壊行為)はそこまで規制を受けていない点です。山札は「将来的に選択肢に入るかもしれないリソース」、つまり「可能性」です。それがなくなったところで、今目の前にある駆け引きへの影響は薄いです。

しかも、相手の山札を破壊するという行為を行うためには自分の手札を消費しなければなりません。それは自分の「選択肢」と相手の「可能性」の交換とも言いかえられますから、基本的には損な交換だということでしょう(ちなみに遊戯王OCGにおいて山札を引けなくなったプレイヤーは敗北するので、それを目的にするならその限りではありません)。

「選択肢と可能性を駆使して相手と駆け引きを行う」これがゲーム全般の面白さなのですが、トレーディングカードゲームの面白さは、その選択肢自体を自分で考えて用意することができるところにあります。遊戯王OCGはその面白さを大事にするからこそ、「手札を破壊する」という行為に対して厳しい措置を行っているのでしょう。

遊戯王カードから学べること

僕らは日本一売れているこのカードゲームがこうした姿勢でいることから、学ぶことができます。少なくとも、遊戯王OCGにおけるデュエル程度のボリュームの「ゲーム」であれば、選択肢は可能性よりもはるかに大事なのだと。

よく、FFで「エリクサーを最後まで使えない」という人がいますが、それは可能性を選択肢よりも大事にしてしまった結果だと思います。エリクサーが後で必要になる可能性は終盤にかけてどんどん小さくなっていくのに、いつまでも今の選択肢に入れることができないのです。たぶんそういう人はキャラが死んでから、エリクサー使えばよかったと思うことでしょう。

結局大事なのは、いま自分が取り組んでいる「ゲーム」がどれくらいのボリュームなのかを理解し、選択肢と可能性を区別し、今がどちらを取るべきシーンなのかの判断を下すことなのです。

※本noteを書くのに、下記のサイトをめっちゃ読みました。一度でも遊戯王OCGにハマったことがある人なら、無限に読める楽しいサイトです。

遊戯王カードWiki

ナイスプレー!