【コピーライターから見た米大統領選挙】

トランプが下馬評を鋭角にひっくり返しましたね。

早速ドル円も乱降下したり、世界中のメディアが即座に名付けた「トランプショック」というキーワードが各国を飛び交っています。

イヤになる程に日本のメディアでも連日取り上げられていた今回のアメリカ大統領選挙。その中でコピーライターという仕事柄、僕が一番注目していたのはトランプの暴言王っぷりでも、ヒラリーのメール問題でもありませんでした。

それは、両陣営のスローガン、つまり「コピー」です。

それぞれの演題に自分の名前と共に大きく位置付けたそれぞれのコピーこそ、暗にこの泥試合の行方を物語っていたのかも知れません。世の中、あらゆる優れた商品・サービスには優れたキャッチコピーが紐付けられるものですが、政治ほどダイレクトにその威力が発揮されるものも無いかも知れません。僕の知る日本の選挙でも、一つのコピーが地域を分断してしまったケースを何回も見ています。そう、選対には超絶にタフでスマートなコピーライターも必要なんです。

1月にホワイトハウスを去る事になるバラク・オバマ大統領が共和党のマケインと争っていた当時、あなたも耳にタコが出来るほど聞いた事でしょう。「Change」、そして「Yes, We Can」と。

ブッシュ政権が後世にまで残さんとする本格的な負の遺産を少しでもポジティヴなものへと転化させたいと願うアメリカ国民にとって、この2つのパワフルなコピーは大きくオバマ陣営の背中を押しました。

陣営が絶対に精査するべきだったメインコピー

ここで今回の2人のコピーを比較してみましょう。

ドナルド・トランプ
"Make America Great Again"
(アメリカを再び偉大にしよう)

ヒラリー・クリントン
”Stronger Together”
(一緒のほうが強い)

まずトランプ。

コピーライティングの鉄則に基づいて考えると、読み手にとっての「新しさ」、「メリット」、「プライド」、「取っ付き易さ」を具体的に提示出来ています。アメリカ人の一般的なステレオタイプから鑑みると、「あの強いアメリカを”Again(もう一度)”取り戻す」という発信の仕方は、そのプライドをさらに喚起するような印象をもちます。特に60歳オーバーのグレートなアメリカを知っている世代や、バーチャルにそのイメージを植え付けられてきた層にはこれほど分かりやすく、刺さるコピーはなかったのではと感じます。

不法移民問題に喘ぎ職に対して大きく不安を抱えていた層にとっても、「Great」なアメリカをもう一度見る事が出来るかも知れない…という幾ばくかの期待感は、ずっと選挙キャンペーン中、心に残っていたでしょう。

そして、ヒラリー。

「一緒のほうが強い」。

英語のリズムとしては(まぁ、日本語のリズムとしても)トランプよりも見栄えもいいし、なんだか格好良く見えます。しかし、どう強くなれるのでしょうか?もしかしたら一緒じゃなくてもある程度は強いかも知れない。それに、どの位の人と一緒なのだろう。グっと前を見据えて走っていて、気がついたら一緒じゃなくなるかも知れない。限定的な提示が出来ていないので、「強さ」についてのイメージがイマイチ湧きません。

ちょっと前に「ズッ友だよ…! (ずっと友達だよの意)」というネタテンプレがネットで流行った事がありましたが、このヒラリーコピーはポジション的には一緒です。基本的に相違ありません。少しブラックなスパイスが効いた「まァ、面白いね」的なニュアンスで流行る事は理解出来ても、これは今後のアメリカの将来を左右する歴史的な超重要イベントです。現実的に少し、フックが弱かった。有権者が、そこまでイメージを持てなかった。覚えている方も沢山いらっしゃるかと思いますが、ヒラリーは当初、「I want to be your champion(平凡な米国人のチャンピオンになりたい)」というコピーで前半戦を闘っていました。9月下旬あたりからはこのフレーズはなりを潜め、現在の”Stronger Together”が沢山使われていく様になった印象がありますが、リアルな有権者のニーズにより近づけられるアレンジを行えなかった陣営の失敗の一つと考えてもいいでしょう。いくらトランプと方向性を分けると言っても、チームクリントンはこの時点でもっとパワフルなコピーを再考する必要がありました。

泥試合、どんぐりの背比べ、史上最も愚かな選挙、少しでもマシな方を選ぶ選挙、などと世界各国から散々にこき下ろされていた今回の大統領選挙。フタを開けてみたらトンデモ無い結果となりました。恐らく、トランプ支持層すら結構驚いていたのでは無いでしょうか。自分たちの知らないところにも、「隠れトランプ支持層」が想像以上に存在したんですから。

最後の最後まで悩んだ人の背中を押したのは、”Make America Great Again”と”Stronger Together”のどちらだったのかは明白です。「どっちもどっち」と考えている人にとって、選択理由となるのは結局のところイメージです。現実はあまりにも残酷です。若い、きれい、カッコいい、元有名人、というだけで国政に出られてしまう残酷な現実があります。

「アメリカを再び偉大にしよう」と「一緒のほうが強い」。とても具体的だし、個人個人の自由意思に直接訴えかけることが出来たトランプコピーは、有無を言わさず最後の最後まで力を持ちました。一緒に居るだけではなく、グレートでタフなアメリカにまで手を伸ばしたい人が多かった現実。嘘でもなんでもいいから、この現状をなんとか変えてしまいたい、という強い意思。

この様に、コピーというものはあらゆるキャンペーンにおいて本当に重要な存在です。

少しの時間を使って分析しただけでも、差が見えてきます。


気になるのはこれからです。

「Change(変えよう)」「Yes, We Can(そう、私たちは出来る)」と前を向いて来たのに思うような結果を望めなかった国民。それが「偉大な国をもう一度作る」というものすごいマッチョなテーマの旗に下で新しい挑戦が始まってしまったんです。トランプ氏、絶対に失敗出来ません。後戻り出来ません。凄まじい責任です。70歳という年齢も手伝ってストレスで抜け毛が増えるかも知れないし、あのヘアスタイルは今が見納めかも知れません。

“Make America Great Again”を書いたコピーライターはエリート中のエリートです。プロパガンダも、エンターテインメントも、明快さも、全て兼ね備えたパワーフレーズです。今頃、顔をくちゃくちゃにして祝杯を上げて居ることでしょう。「俺のコピーが、トランプを大統領に押し上げたんだ」と。改めて、コピーは強し。恐ろしや。

コピーライターとして、褌を締め直し、襟を正していこうと再認識したイベントでした。それにしても、内容がどうであれ、全員参加型でワイワイ出来るアメリカの選挙がうらやましい限りです。なんて言ったって、自分たちの票でトップリーダーを決められるんですから。


コピーを制するものはビジネスを制す。
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P.S
さあ、困ったぞ。と地球上で一番困って居るのは、不法移民でも各地で議席を共和党に明け渡した民主党員でもなく、トランプ自身じゃないのかな、と思うのは僕だけでしょうか。コピーより遥かに重要な現実的な政策を今から考えなくてはいけないんだから。

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千野 将

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