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保険業界の「アフターデジタル」

はじめに

本記事は、以下のnoteの記事の続編です。こちらの記事だけでも読んでいただける独立した内容にはなっております。ただ、一緒に読んでいただければより理解が深まるかと思います。

前回の記事では、近い将来の保険販売について具体例をもとに考えてきました。
今回はさらに先の未来の保険販売がどのようにアップデートされていくのか考えてみることにします。

この先の内容については、『アフターデジタル』という書籍の内容を参考にしました。

「デジタル化が進行した未来」においてどのようなことが起こるのか、以下の内容をご覧ください。

世界を見渡せば、例えば米国の一部地域、中国都市部、エストニアなどに代表される一部の北欧都市では、既にオンラインとオフラインの主従逆転が起きています。考え方のベースはオンラインであり、こちらが「主」。オフラインは「信頼獲得可能な顧客との接点」という位置づけで、こちらは「従」です。
(中略)
IoTやカメラをはじめとする様々なセンサーが実世界の接点に置かれると、人の購買行動だけでなく、あらゆる行動がオンラインデータ化します。つまり、オフラインはもう存在しなくなるとさえ言えるでしょう。

オンラインとオフラインの境界がなくなる未来において、保険販売にどのような変化が起きるのか考えてみました。結論から言うと、以下のようなことが発生すると考えています。

①募集人の数が最適化される
②消費者が最適な契約方法を選択できるようになる
③保険の周辺領域も含めたエコシステムが形成される

今回の記事では、上記の3つについて詳細にご説明していきます。


募集人の数が最適化される

日本全国で保険販売の有資格者数は生保で約100万人損保で約200万人です。ただ、今後は業務の効率化に伴って募集人がここまで必要ではなくなると考えられます。
先日、損保ジャパンがRPA活用に伴う人員削減を発表しました。これをきっかけに、保険会社が人員削減を進めることになるのではないかと声が上がっています。

保険の販売経路の多様化については本記事の前編でも述べましたが、今後の保険営業は保険のみにとどまらない高度なコンサルティングが求められるようになってきます。
高度なコンサルティングサービスの具体例として「銀行・証券・保険の3つを活用することで総合的なファイナンシャルプランナーとして顧客に寄り添うこと」についての話を以下の記事でご紹介いたしました。

ヨーロッパを中心に海外でもこの流れは顕著になっており、シンプルな保障/補償かつ少額の保険販売はオンラインで済ませる流れが加速しています。結果的に募集人は死亡保障や貯蓄などのライフプランに大きく関わる保険商品の販売に専念できるようになったそうです。
実際にドイツのInsurTech企業のVorFina社は、ブローカー向けにライフプランシミュレーションツールを提供して売上向上に貢献しているそうです。ライフプランシミュレーションツールの高度化はまさに死亡性及び貯蓄性の保険の販売において重要な役割を果たしています。

結果として「医療保険・年金保険の単品売り」のようなスタイルの営業だけを行っている募集人は、業務が自動化されて淘汰されていくことが予想できます。
その一方で、死亡保障・就労不能・年金はもちろん、証券などの他の金融商品まで活用して金融コンサルティングを実践している募集人はどんどん価値が高まっていくはずです。そのような募集人の中でも、便利なソフトウェアを使いこなすことで業務効率化・サービス価値向上を図る方は、飛び抜けて高い成果を上げることになるでしょう。


消費者が最適な契約方法を選択できるようになる

冒頭でご紹介した『アフターデジタル』では、デジタル化に対する日本人の誤解について触れている場面があります。中国視察を行っている日本企業と中国企業との間の以下のやりとりをご覧ください。

「当社はオフライン店舗を多数持ち、店舗の品質やネットワークが主軸のアセットなのですが、今後はしっかりオンラインも活用してビジネスを拡大していきたい」

と発言したところ、中国企業の担当者は

「今後はオンラインとオフラインという概念が曖昧になってやがてはなくなり、ボーダーレスになります。顧客はオンラインやオフラインのどちらで買おうなどと意識をすることなく、近くの一番便利なソリューションで買い物がしたいと思っているだけです。オンラインとオフラインを分けて考えることから脱却する必要がありますね」

との答えがありました。

中国EC最大手のアリババグループが出資する盒馬鮮生(Hema Fresh)というスーパーでは、リアル店舗での購入とオンラインでの購入がスムーズに繋がっているそうです。
たとえば仕事帰りに生鮮食品を購入する際に、ユーザーはスーパーに立ち寄って実際の商品を見て選び、オンラインで注文をして手ぶらで帰るとします。そうすると、スーパーから帰って数十分後には購入した商品が家に届くような仕組みになっているそうです。

上記と同様に、保険契約の手続きを複数の方法から選べるようになった社会はどのようになるのでしょうか。
たとえば「募集人に訪問してもらって対面で説明を受けて、その後の契約プロセスや保険金請求はオンラインで完結する」というような仕組みになるかもしれません。海外のブローカーは士業に近い存在で、顧客がフィーを払ってコンサルティングを行うそうです。同様の制度が整えば、上記の仕組みを実現することも可能です。

今後の社会の変化を考慮すると、顧客がほしいと思ったものをすぐに手に入れられる環境を企業が整える必要があります。また、保険のように日常生活の中で必要性を意識しにくい商品は、何らかの方法でニードを喚起する必要があります。
以下のインタビュー記事では、スペイン最大手の保険グループであるMAPFRE社が直面している「顧客の邪魔にならないように、適切なタイミングで顧客の抱える問題に対する適切なソリューションを提供する」という課題についての話が取り上げられています。

LINEほけんでは位置情報サービスである「LINE Beacon」を活用して、位置情報をもとに保険を提案するサービスを提供しています。顧客に鬱陶しく思われないように、適切なタイミングで適切な保険ソリューションを提供している素晴らしい事例です。


保険の周辺領域も含めたエコシステムが形成される

2019年のInsurTechの世界的なトレンドは「保険業界だけにとどまらないエコシステムの構築」とのことです。エコシステムの構築とは「保険業界と関連の深い医療や自動車などの業界と連携して顧客体験向上のためのサービスを提供する」という意味です。

アフターデジタルの世界では、顧客からデータを収集してそれをサービスに活用し、サービスを通じてさらにデータを収集するというサイクルを構築する必要があります。こちらの記事から引用した以下のサイクルを繰り返すイメージです。

ユーザーの大量の行動データと、その活用基盤を持っている企業が今後は力をつけていきます。行動データの取得のためには、ユーザーに利用してもらえるサービスを提供することで強固な顧客接点を構築する必要があります。

現在の保険会社にとって最大の顧客接点である保険商品は、毎日のように利用するものではありません。保険会社や代理店は、顧客の行動データや商談履歴を記録することを最優先で勧めていく必要があります。

中国の保険会社である平安保険は、いち早く保険商品以外の顧客接点を生み出すことに成功しました。平安保険は「Good Doctor」というアプリを一般消費者向けに提供しています。中国では、患者があまりにも多いせいで医療機関での受診が十分に行えないため、「Good Doctor」ではオンラインの遠隔医療サービスを提供しています。同アプリでは、DAUを増やして強力な顧客接点を構築するために、万歩計のカウントを毎日ポイントに交換できるサービスも提供しています。

平安保険の「Good Doctor」について『アフターデジタル』では以下のように取り上げられています。

平安保険は、従来ほとんどユーザーとの接点がありませんでした。接点が無ければデータを得ることはできないので、スマホのアプリを開発し、そうした状況を変えました。医師による年中無休の無料問診や予約というキラーコンテンツと、ヘルスケア情報の閲覧および「歩くだけでたまるポイントプログラム」という頻度の高い機能をアプリ上で融合させ、顧客との接点を作ったのです。そして、顧客の利用履歴から把握した「属性、好み、状況」の情報を使って、営業員やマーケター、コールセンターと連動し、ベストなタイミングで顧客に新しい提案をすることが可能になりました。

先日、カーシェアリングサービスなどを対象として、自動車の利用データをもとに保険料を算出するロンドンのInsurTech企業Zegoが資金調達を実施しました。
関連産業に果敢に挑戦するInsurTech企業が新たなエコシステムを構築していく未来もそう遠くないかもしれません。

保険と関係のない領域はありません。今後も関連産業との協力によって顧客流れは加速していくと考えられます。


最後に

前回に引き続き、二本立てで保険のデジタル化についてご説明しましたが、保険業界にはまだまだアップデートできる箇所がたくさんあります。

株式会社hokanは「保険業界をアップデートする」というミッションを掲げています。まずは、保険業界特化型のSaaSであるhokan®からサービスの提供を開始しています。

今後は、一般消費者向けの保険管理サービスなど、たくさんのサービスを出していく予定です。ぜひ以下のWantedlyもしくは筆者の石曽根までご連絡ください!

石曽根拓実 - Twitter Facebook

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